ウクライナ航空だけではない民間航空機撃墜という悲劇


AFP via Getty Images / ©2020 Cable News Network

“Protesters take to streets in Tehran, furious at their government for shooting down Ukrainian passenger plane.”

(イランでは、政府がウクライナ航空機撃墜事件を起こしたことに強く憤った人々が、抗議のためテヘランの通りを埋め尽くしている。)
― CNN より

高まるイランとアメリカとの緊張感

 イランで発生したウクライナ航空機の墜落事件で、イラン側が誤射により同機を撃墜したことを認めたことは、世界に大きな衝撃を与えました。
 このことが、意図的な行為ではなかったにせよ、罪もない民間人が殺害されたという事実は重いものです。イラン国内でも、軍が誤射した上に、政府がそれを即座に認めなかったことへの怒りの声が人々の間に上がっているようです。
 この事件の背景には、アメリカとイランとの長年にわたる緊張関係があったことは否めません。しかも、イラン軍の指導者バクダッドでアメリカ軍によって殺害された報復攻撃の連鎖が、この悲劇の原因であることは誰もが知るところでしょう。
 
 実は、イランとアメリカとの緊張による民間航空機への誤射は、今回だけではないのです。すでに32年前に全く同じことが、しかもアメリカ側の誤射によって発生し、290名もの命が失われた事件があったことを忘れてはなりません。
 それは、テヘランからドバイに向かったイラン航空655便をアメリカ海軍が撃墜した事件です。この航空機には6カ国の乗客290名が搭乗しており、全員が死亡しています。
 従って、今回の事件が報道された直後、私はもしかするとアメリカ軍からテヘランにある空港へミサイルの発射があり、そのミサイルが誤ってウクライナ機を追尾してしまったのではと思ったほどでした。
 
 イランとアメリカ双方の関係者の心の中には、その時にアメリカが行なった行為と今回の悲劇とが、複雑に交錯していたことでしょう。アメリカは事件発生後9年経って、犠牲者への賠償金の支払いには応じたものの、それは犠牲者を含む人的物的被害の全てをカバーするものではなかったのです。
 
 今回、イラン側は相当動揺したようです。アメリカによる戦闘行為に怒りの拳を振り上げた直後に起きた誤射だけに、世界に対してどのように説明すればよいか、発表までにあれこれと考えたことでしょう。もともとの原因となったアメリカによるイラン軍責任者の殺害行為が世界から懐疑的に見られていた時だけに、誤射事件でアメリカへの非難自体がしにくくなることを懸念したはずです。
 ただ、起こったことはできるだけ透明に迅速に対応することが、国際間での信頼関係を維持するためには絶対に必要です。そうした教訓を我々に伝えるためにも、今回の事件はしっかりと調査するべきであることは言うまでもありません。
 

繰り返される民間機撃墜の悲劇

 国家間の緊張や戦闘行為が、こうした思わぬ惨事へと繋がった事例は、他にも多々あります。代表的な事件としては、冷戦の緊張の最中の1983年に、誤って領空を航行していた大韓航空機が旧ソ連軍によって撃墜された事件や、最近では2014年に紛争地域であったウクライナ上空を航行していたマレーシア航空機が、親ロシア派とみられる戦闘員のミサイル攻撃で撃墜された事件が記憶に新しいはずです。いずれも愚かなことです。
 
 今回の場合、イランが今後被害者の所属する国や遺族にどのような対応をするかは、これから見つめていかなければなりません。ただ、それと同時に、過去に同様の事件が何度も繰り返されている事実を、もう一度検証するべきではないでしょうか。
 紛争地域や国際間の緊張が高まっている地域を全て回避して民間航空機が航行することは、事実上不可能かもしれません。それだけに、テロを事前に防止するのと同様の注意や管理が、当事国となる国々の中で行われるように要望したいものです。
 
 アメリカの場合、今回の事件とイランとの緊張とを混同して、ただイランを一方的に責めることは慎むべきかと思います。実際、アメリカの場合、これ以上イランとの緊張が高まれば、ロシアなどイランと緊密な関係にある国家との関係はもとより、ヨーロッパなど多くの国々との信頼関係にも影響が出てくるでしょう。それはイランにとっても同様です。
 
 一般的に言って、現在の武器は小型化かつ無人化しています。アメリカがイランの軍事関係者を殺害したときは、ドローンが使用されました。また、ターゲットを破壊するときは弾道ミサイルが使用されます。スピードやサイズからして、レーダーによってそれが民間機のような大型で多人数が搭乗しているものか否かは見分けられるはずです。特に、アメリカやロシアといった防空に長けた大国は、そうしたレーダーをはじめとする察知機能は充分に進化しているはずです。それでも民間機が撃墜されるということは、軍隊の現場が本当にそうした先端技術にしっかりと依拠し、かつ指揮命令系統が徹底しているのかどうかをしっかりと調査する必要があることを物語っています。
 

すべての失われた命に祈りを

 実は、イランとアメリカとの緊張が高まり、こうした事件の連鎖が起こったとき、私はちょうどロサンゼルスからの帰国便で太平洋の上空を飛んでいました。
 太平洋はその名前の通り、最も安全な公海かもしれません。それでも、今回のフライトは気流が悪く何度も大きく揺れ、嫌なものでした。ウクライナ航空に搭乗していた犠牲者の恐怖と苦痛がどれほどのものだったかと想像するだけで、心が痛みます。
 
 そして成田空港に到着後、車で帰宅するときにラジオをつけると、なんとあるFM局で株の専門家が、音楽を交えたカジュアルな番組の中で、今アメリカとイランとの間の戦争によって、軍事物資を生産する企業の株が買いだという解説をしていました。
 思わずなんと酷い解説だと怒りを覚えました。人が死に、傷つくことと、株価の上下との関係が無縁ではないことは充分に理解していても、そうした解説をFM局のカジュアルな番組で平気でする人と、そんな株の売買に熱を上げる人がいること自体が、現在の世界の危機の象徴なのではと思ってしまいます。
 
 これ以上、イランとアメリカとの関係が悪化しないよう、宗教や思想信条を超えて一緒にお祈りをしようよと、帰宅後アメリカに住むイラン系の友人と、スカイプを通したビジネスの打ち合わせで語り合ったのは、ほんの数日前のことでした。
 

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