ディフェンスに強い日本人、オフェンスに強いアメリカ人


“Not less difficult is it to make them believe, that offensive operations, often times, is the surest, if not the only (in some cases) means of defense.”

(多くの場合、そして場合によっては、攻撃こそが防衛手段ではないにしろ、最も優れた行為であると説得することは別に困難ではないはずだ。)
ジョージ・ワシントンの格言 より

オフェンスで発揮されるアメリカの「未来志向」

 アメリカ人のビジネス文化、そして行動様式について少し面白い視点で解説してみたいと思います。
 そもそも、アメリカ人は伝統的にディフェンス(防衛)に弱い国民なのです。
 もともとハングリーな移民が集まった国であれば、彼らはまず自分の未来を切り開くことに注力します。つまり、未来に向けて進むことしか道がありませんでした。過去の経験をもとに十分に反芻して、その経験値からしっかりと物事を準備することは、彼らのビジネス文化では伝統的にあまり存在しなかったのです。
 
 逆に、未来志向である彼らにとっては、見えない未来を切り開き、そこで新たな経験を積まなければなりません。ですから、彼らはオフェンス(攻撃)には極めて強く、エネルギーを集中できるのです。
 
 したがって、ディフェンスの弱さを突いて、アメリカに先制攻撃をかけたあと、彼らにオフェンスのためのエネルギーを充電させれば、それは甚大なる脅威となって攻撃者がつけを払わなければならなくなります。有名な歴史的事実を振り返ればわかります。パールハーバー(真珠湾攻撃)がそうですし、セプテンバーイレブン(アメリカ同時多発テロ事件)がそうなのです。今回のコロナウイルス騒動でも、アメリカの方では病原菌を水際で防ぐディフェンスには様々な課題があるでしょう。しかし、一度侵入し被害を与えられた後の、医療機関での対応や撲滅に向けた取り組みといったオフェンスサイドでは、アメリカは大きな力を発揮するのではないでしょうか。
 
 80年代、ソニーや日本車などで、アメリカは産業界の脆弱さをさらけ出しました。全く予期していない国から膨大な投資が行われ、アメリカの消費者をごっそりと持ってゆかれたのです。ディフェンスの弱さを見せつけられた一瞬でした。
 しかし、その経験を受けて、アメリカでは日本のバブルがはじけた後、ソニーなどをモデルにITの考えを組み込んで一気にオフェンスに移りました。そして、今ではITやコミュニケーション関連産業のほとんどをアメリカが席巻し、震源地になろうとしています。自動車業界も同様です。タイヤの製造や内燃機関の改善に日本が固執している間に、ITからAIに至る一連の先端技術をもって、彼らは自動車の中枢を構成する技術変換の先鞭をつけたのです。
 

ビジネスで見られるアメリカの「攻撃」スタイル

 そもそも「攻撃は最大の防御なり」という発想は、中国の『孫子』の兵法にそのルーツがあり、それを武田信玄が使ったことで有名になった言葉です。しかし、この発想を最も実践しているのがアメリカではないでしょうか。弱いディフェンスが故に、攻撃を受けたとき、彼らはその原因がどこにあったか、そして責任を誰が取るべきかなどといった、日本によくある反省を徹底させません。その代わり、この問題を二度と起こさないために、この経験を未来へと活かしてゆくにはどうすればよいか、という発想に切り替えます。彼らの意識の中では過去は小さく、現在が中程度、そして未来が大きいのです。日本はどちらかというとその逆です。過去をしっかりと検証することなく未来に進もうとするアメリカ人のことを、時には無責任だと批判さえするのです。
 
 ところで、アメリカ人はオフェンスのスタイルをよく見ると、そこにはいくつかの傾向があるようです。これは実際の戦争行為ではなく、ビジネスという戦場においても共通した法則です。
 一つは、ディフェンスで受けたダメージへのショックを利用し、オフェンスに移るときの迅速な決裁です。この決裁の速さは、日本のコンセンサスを取りながらじっくりと決裁へと持ち込む時間のかけ方とは対照的です。
 次に、オフェンスにおいては常に相手も抵抗します。その抵抗の様子に従って、オフェンスの戦略を変化させる柔軟性にもその特徴があるのです。時にはオフェンスのターゲット自体も変化します。例えば、ソニーのウォークマンに刺激を受けてiPhoneの開発までこぎつけたAppleでも、途中で何度も開発計画を見直し、プロジェクトを中止・変更しながら、現在に至っています。決裁、すなわち decision making に時間のかかる日本の場合、その後の計画の変更は極めて困難です。
 
 では、ビジネスの上で、そんなアメリカ型企業とどのように付き合ってゆけばよいのでしょうか。もし、競争に勝ちたければ、まず相手のディフェンスを突き破らなければなりません。しかし、その後相手のオフェンスに対して、常に柔軟に対応する組織の改革が必要です。
 さらに、最も大切なことは、日本人はディフェンスが得意だという事実です。ディフェンスには、過去の経験に基づいた詳細で緻密な計画が必要です。見えない未来よりも、ディフェンスには過去の経験がものを言います。従って、アメリカのオフェンス力と日本のディフェンス力の双方を、柔軟に協力して活用できる新たな組織づくりもおすすめです。アメリカを競合として捉えるのではなく、チームに引き入れ、双方の強みをいかした人材活用ができるマネジメントスタイルを構築できれば、素晴らしいシナジー効果を発揮できる企業が創造できるはずです。
 

米進出する日本企業に求められるものとは

 アメリカに進出している日本企業は、オフェンスが得意なアメリカ人をうまく統率できず、むしろアメリカ人の中にあっても日本人とうまくやってゆける「おとなしい」人材を重用します。かつ、日本の経営層まで海外の人を昇進させている企業はあまりありません。
 充分に準備をしてオフェンス力を最大限に活用できる日本企業が生まれれば、それはまさに世界に羽ばたくグローバル企業に成長できるはずです。
 
 その戦略のために一つ知っておきたいこと。それは、いかにアメリカ人のオフェンス力を活用するかというノウハウです。彼らのオフェンスへのモチベーションを刺激するには、リスクや完璧さだけを求めるのではなく、彼らに未来のベネフィットをいかにしっかりと見せることができるかにかかっています。日本人はあまりにも完璧にこだわるため、相手から見るとそのプロジェクトを共にやるベネフィットや価値が見えなくなるのです。
 この異文化をコントロールできるマネジメントスタイルを学ぶことが、今の日本企業には強く求められているのです。
 

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『英語の格言に学ぶグローバルビジネス』山久瀬洋二、アンドリュー・ロビンス (共著)英語の格言に学ぶグローバルビジネス』山久瀬洋二、アンドリュー・ロビンス (共著)
欧米の人がビジネスをする上で好む名言や格言。これを理解すれば、彼らのビジネスシーンでの物事の考え方、仕事のプロセスの背景が見えてきます。
「グループ志向で組織の構造を重んじる日本、個人のイニシアチブが評価される欧米」など、日本人がしばしば困惑してしまう“ 異なるビジネス文化” や、“ビジネスの進め方と発想法の違い”などについて、彼らが好む名言・格言から理解を深めることができる1冊です。

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