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「核」の時代の再来への一歩となる中間選挙前の大統領の意思表示

“President Donald Trump announced Saturday that the US is pulling out of the landmark Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty with Russia, a decades-old agreement that has drawn the ire of the President.”

トランプ大統領は、土曜日にアメリカはロシアとの歴史的な中距離核戦力全廃条約から離脱すると発表。長年にわたる取り決めが、大統領の憤りの前で崩壊しつつある。
(CNNより)

アメリカのトランプ大統領が、アメリカが旧ソ連と締結した中距離核戦力全廃条約を破棄する意向があると発表したことが、世界中に衝撃を与えています。
 
この条約が締結されたのは、1987年のことでした。
当時のアメリカの大統領はロナルド・レーガン、ソ連はミカエル・ゴルバチョフが舵をとっていました。
この条約は、ソ連の最末期に締結されました。それは、冷戦を終結させ、疲弊した経済の立て直しを目論むソ連と、ベトナム戦争以後のデタントと呼ばれた米ソの緊張緩和の目に見える成果を欲していたアメリカとが合意した、歴史的な条約です。
その後ソ連が消滅し、ソ連時代の外交上の取り決めを継承したのがロシアであったため、現在では、この条約がアメリカとロシアとの間の条約として効力を有しているのです。
 

ロシア・中国の脅威とアメリカの焦燥

今回のアメリカの発表の背景には、この15年間でロシアがソ連終焉後の混乱を収拾し、強国として復活していることがあるはずです。しかし、それ以上に、当時は予測不可能だった速度で中国が成長し、軍事大国としてアメリカに脅威を与えていることが指摘されます。冷戦時代の条約に縛られているアメリカが、思うように軍拡の道を進めず、その合間に中国が伸長してきたことへの焦りがあるのです。
ということは、この条約破棄の意向表明は、中国の隣国である日本にも微妙な影を落とすことになるはずです。
 
トランプ大統領は、ロシアが過去にこの条約に違反してきたことを強調しています。特に2008年以降、ロシアはこの条約に対して真摯ではないと、アメリカのみならず、アメリカとヨーロッパ諸国との軍事同盟であるNATOの幹部も指摘していました。トランプ大統領はそうした背景をもって、ロシアへの強い意志を表明したことになります。
 

冷戦の基軸から「自国第一主義」へ

さて、我々はこの問題を、どういった視点で分析したらよいのでしょうか。
背景は複雑です。まず、現在の世界の指導者の多くが、いまだに冷戦時代の記憶に縛られていることを強調します。冷戦時代、世界の国々はアメリカとソ連との2つの超大国を基軸に、どちらの陣営に加わるか、緊張と緊張緩和の動きの中でどのように外交の舵取りをするか、という基準で動いていました。しかし、ソ連が消滅した直後から、その常識と基準が崩壊したのです。
 
レーガン元大統領とゴルバチョフ大統領(当時)が条約にサインをし、握手をして間も無く、ソ連が崩壊しただけではなく、中東では湾岸戦争が起こり、冷戦の基軸を失った世界は混乱に見舞われました。極東では日本のバブル経済が崩壊し、中国が成長しました。世界の国々が直面したのは、2つの「極」を見つめる外交から、多方面のパワーバランスを同時に把握しなければならない外交方針への転換の必要性だったのです。
 
その結果、多くの国では、指導者の発想が内向きに傾斜しました。ロシアはプーチン大統領の下で、ソ連時代のパワーをもう一度とばかり、強いロシアの復活が叫ばれました。その結果、ロシアは国内の民族運動を武力で弾圧し、ウクライナからクリミア半島を奪取し、その過程で新たな軍備拡張を強行したのです。それが、トランプ政権やNATOが指摘する条約違反の嫌疑へと繋がったのです。
 

「国内の目=世論」に目を光らせる指導者たち

一方のアメリカも、対共産主義の旗印のもとに同盟国を糾合する求心力を失っていました。中東が不安定になり、一時は東ヨーロッパにも戦火が拡大しました。そして新たに台頭してきた中国も、急成長による貧富の格差など国内の不安定要因を払拭し、政権を安定させようとします。そのために、時には強い外交政策によって国民への支持を取り付けなければなりません。
2000年代には、尖閣諸島の問題などによる反日活動が加速し、その後は少数民族への弾圧や南シナ海への武力進出など、ロシアとも類似した政策が目立つようになったのです。
 
そして、この内向きの動きがアメリカにも影響を与えます。今までの「世界のためのアメリカ」という発想から、「まずはアメリカの利益を」という国民の意識を支持へと繋げたトランプ政権が誕生したのです。
こうした動きの延長に、今回のトランプ大統領による中距離核戦力全廃条約の破棄への意向表明があったのです。
 
現在、世界の指導者の多くが、過去にはないほどに、世論への支持に神経を尖らせています。それは一見、民主主義の原則が浸透したかのようにみえるかもしれません。しかし、皮肉なことに、冷戦時代には冷戦が熱い戦争にならないための抑制が働いていました。第二次世界大戦の記憶がまだ新しかった時代だけに、双方の指導者の間に無言の圧力としての重しがあったのです。
冷戦の崩壊は、第二次世界大戦の記憶の希薄化に直結しました。それに、インターネットの普及による情報社会の到来が拍車をかけ、指導者はより「国内の目」を気にし、同時にインターネットを逆手にとって「国内の目」を操作するようになったのです。
 

条約の破棄、そのとき日本は

中間選挙目前のトランプ大統領の今回の発表により、この条約が実際に破棄されたとき、アメリカの世論はトランプ政権にどのような意思を表明するのでしょうか。
そして、被爆国日本の指導者は、冷戦時代の常識に従ったアメリカのみを見つめた政策を維持しながら、今回の発表を黙視するだけなのでしょうか。
冷戦終結から30年近くを経た現在、新たな世界の「安定」がどのような指導者の理想によってもたらされるのでしょうか。
今回のトランプ大統領の発表は、混沌とした現在を象徴するようなニュースであるといえましょう。
 

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