タグ別アーカイブ: 北朝鮮

北朝鮮問題と素人好みのポピュリズム政権が生み出す「脅威」の関係

©ロイター / Leah Millis

“With North Korea’s deadline for American concessions fast approaching, the North announced Sunday that it had conducted a ‘very important test’ at a missile-engine site.”

(アメリカとの譲歩の期限を目前に、北朝鮮はミサイルのエンジンに関する「極めて重要なテスト」を行ったと表明)
― New York Times より(一部編集)

プロの政治家たちが掲げる理想「ネオコン」とは

 先週末、自宅でケーブルテレビを見ていると、たまたま History Channel北朝鮮を特集した番組に出くわしました。そこで専門家が口を揃えて、すでに誰も北朝鮮を追い込むことができなくなった、と述懐しているのが印象的でした。
 トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官として、北朝鮮問題にも深く関わったことのあるジョン・ボルトンも、そうしたコメントをした一人でした。彼は、歴代のアメリカの政権が現在の北朝鮮を育ててしまったと、アメリカの朝鮮半島への関わり方を厳しく批判しています。
 
 ジョン・ボルトンは、アメリカの政治家の中でも極めて保守色が強く、オバマ政権で進められてきたイランキューバなどとの融和政策を痛烈に批判していました。従って、彼がトランプ政権のチームに加わったときは、どこまでアメリカがイランに対して強硬な対応をとるのか、多くの人が危機感を抱いたものでした。しかし、ボルトン氏は、今年の秋にトランプ大統領とも袂を分かち、政権から離脱してしまいます。
 
 トランプ政権の不思議なところは、彼の政策を象徴するような右寄りの政治家が、政権のチームに加わっては去ってゆくことです。
 そのことを理解するには、トランプ政権の成り立ちを振り返る必要があります。
 まず思い出したいのは、今世紀初頭にアメリカで台頭し、世界の注目を浴びたネオコン(Neoconservatism)という考え方です。ネオコンは新保守主義とも呼ばれ、ジョージ・W・ブッシュ政権などを支えていた人々の多くがそうした主張をしていました。彼らはアメリカという国家の理想のためには、他国に対して軍事介入をも辞さず、強いアメリカとそうしたアメリカを支えてきたキリスト教的な価値観に回帰し、移民政策に対しても多様化するアメリカ社会にブレーキをかけようとしていました。
 
 従って、トランプ政権が誕生したとき、共和党支持者の中でネオコンの流れを汲む右派の人々は、トランプ大統領が表明したアメリカ・ファーストという政策を強く支持してきたのです。ジョン・ボルトンもその一人でした。
 しかし、トランプ大統領は、彼らから見るとあまりにも素人臭く、政策への一貫性が見えてきません。やがて、ネオコンの政治家たちは、トランプ大統領の個性について行けずに乖離し、政権チームから離脱し始めたのです。
 
 実は、トランプ政権は今までのプロフェッショナルによる政治を嫌っていた、ごく普通のアメリカ市民の支持によって誕生した政権なのです。一般の人々の中でも、リーマン・ショック以来失業に怯え、移民の流入で地域社会が変化してゆくことへの不安を抱えた、保守層の支持によって誕生した政権なのです。言葉を変えれば、素人臭さこそが、トランプ大統領の人気を支えてきたのです。それに対して、ネオコンを標榜する人々の多くは、トランプ政権が発信してきた考え方には共感しながらも、彼ら自身はプロの政治家だったのです。
 

©Oliver Contreras / Pool via Bloomberg

素人目線が生み出したトランプ「ポピュリズム」政権

 今、アメリカのみならず、世界中でプロの政治家への不信感が蔓延しています。
 前回の大統領選挙は、ヒラリー・クリントンというまさに政治、外交のプロと、素人で分かりやすい発言で有権者を取り込んだドナルド・トランプとの、プロ対素人の闘いでした。
 多くの有権者には、複雑な国際関係のしがらみや利害関係など、どうでもよいことです。自らの収入が安定し、地域社会が今までと同じように維持されれば、それでよしということになります。移民がアメリカにやってくる理由や、移民の多様性による社会の進化がアメリカを支えてきたと、プロの政治家が理想を語っても、自分たちの職や社会を守るためにはよそ者を安易に受け入れるべきではないと主張した方が分かりやすく、説得力があるように思えるわけです。この素人臭さこそが、ポピュリズム政権を生み出すエッセンスだったのです。
 
 ネオコンの政治家は、同じ考え方を持っていたとしても、その底流には伝統的なアメリカの政治のあり方へのイデオロギーがありました。合衆国憲法独立宣言に端を発し、強く大きな政府が良いのか、地方分権が良いのかという、アメリカの伝統的な政治理念における対立の一つの極に、ネオコンの存在がありました。彼らは世界情勢にも目を向け、その上で、アメリカの利益を守るためには強硬な手段も必要だと主張しました。その結果、ジョージ・ブッシュ元大統領はイラクと戦争を始め、サダム・フセイン政権を崩壊させました。
 
 しかし、トランプ大統領を選んだ人々は、こうした世界におけるアメリカのあるべき姿などに興味を持ってはいないのです。むしろ、アメリカは強くて当然で、世界一のアメリカであるはずなのに、自分たちの地域社会は経済的に困窮し、治安の上でも混乱していると考えます。ですから、トランプ大統領の単純明快な発言が彼らの心の琴線に触れたのです。そして、仕事を守るためにメキシコとの国境に壁を作ろうと思ったのです。ネオコンブームとポピュリズムとの違いは、このプロと素人との発想の違いや溝を見ればよく分かってきます。
 
 トランプ政権の誕生と、その後の様子に目を向ければ、ポピュリズムが一般大衆の政治不信を源流として、次第に大きな濁流へと発展してゆく様子が見えてきます。今、この濁流が世界中を席巻しそうな勢いです。そして、日本も例外ではありません。アメリカの場合、共和党民主党がお互いをチェックすることで、どちらから大統領が選ばれても、そこには一定のバランスが保たれていました。そうしたバランスそのものが政治の醜い取引であると、多くの人々の目には映っていたのでしょう。
 

©2019 Dow Jones & Company, WSJ

世界秩序を保ってきたパワーバランスの崩壊を前に

 トランプ大統領は、自らがそうした背景で誕生した素人出身であるということを否定するために、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)と電撃的な会見を実現させました。しかし、現時点でそうした政治ショーはその後の成果とはなっていません。
 北朝鮮が核を保有する以上、彼らを追い詰めすぎるとまずいものの、彼らの政策を容認するのも危険であると専門家は見ています。だからこそ、そもそも核を持たせるまで傍観していたアメリカの歴代政権を、ジョン・ボルトンは厳しく批判したわけです。政治的立場への是非はともかく、そこに見えてくるのは妥協と謀略とを繰り返してきたプロの政治家を、ネオコンのプロが批判したという皮肉な現実です。
 
 ちょうどアメリカが、共和党と民主党という二つの政治プロ集団によってバランスを保っていたように、20世紀後半は米ソ冷戦による政治的駆け引きが、皮肉にも世界のバランスを維持していました。
 しかし、冷戦終結後、そのパワーバランスが崩壊した隙をついて、中東には過激なテロ集団が、極東には北朝鮮という核保有国が生まれたのです。彼らには通常の国際常識にのっとった交渉が機能しません。
 世界は、ポピュリズムとテロ集団という、極めて対処が困難な政治的環境の中でもがいているのです。
 

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グローバルに生きるってこういうことだ!

『GOING GLOBAL: Beyond Japan and the U.S.』河北常晴 (著)GOING GLOBAL: Beyond Japan and the U.S.』河北常晴 (著)
30年にわたり米国企業でアメリカ内外の戦略業務を展開後、国連ボランティアとしてアジア諸国を回った日本人の冒険譚。
世界的規模の競争と共生が進む現代社会において、グローバルな生き方を目指す人々の「生きた教科書」となる体験談を英文で楽しむ1冊。

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テロの悲劇、なぜスリランカかと問われれば

Eranga Jayawardena / AP

“Sri Lanka attack death toll rises to 290.”

(スリランカが標的となり、死者は290名に至る)
― CNNより

平和な日常を突如脅かすテロ行為

 先日、ソウルで知人と夕食を共にしました。そのとき、夜一人で散歩ができ、ホテルに金属探知機も置かれていない、日本や韓国の安全について話し合うことがありました。
 そもそも韓国は、長年にわたって北朝鮮からの攻撃の脅威に晒されてきたはずです。
 しかし、彼を含め、多くの韓国人は北朝鮮の脅威について、別に差し迫ったことではないと思っています。
「韓国も日本と同じように、平和の中で人々の心が麻痺しているのですよ。朝鮮戦争が終結して以来、今まで何度もいろいろなことが起き、そして何度も統一について話が出ました。でも、その度に結局何も変化なく、現在に至っています。北朝鮮のことは、あまり日常的になりすぎて、誰もが慣れっこになっているのですよ」
その人はそう言います。
 実は、以前インドで知人にパキスタンのことについて尋ねたときも、同様の答えが返ってきたことを覚えています。
「これは日々の生活の一部のようなものなんですよ」
そのインド人は、このように話していました。
 

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トランプ大統領にノーベル賞という「冗談」の裏の「真実」とは

“On Friday, Trump said Abe had nominated him for a Nobel Peace Prize with a five-page letter. Abe has been one of Trump’s most stalwart allies in the two years since he took office.”

(金曜日にトランプは、安倍が5枚の手紙で彼をノーベル平和賞に推薦すると語る。安倍はトランプが大統領に就任して以来2年間、最も熱烈な支持者であり続けている。)
― CNNより

報道にみるアメリカの分断と日本の対米追随外交

 北朝鮮との緊張緩和に協力したとして、安倍首相がトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦したという報道があったことは、記憶に新しいはずです。
 
 そこで、この情報のインパクトの大きさについて考えてみます。
 よく言われることですが、現在アメリカでは世論が二つに分断されています。
 メキシコとの国境に壁をつくり、「アメリカ・ファースト」をスローガンにするトランプ大統領を支持する人と、非難する人との間には、埋めがたい溝ができているのです。
 日本の指導者がそうしたアメリカを直視した場合、そのどちらかに味方するような行動は極めて危険です。リベラル派と呼ばれるアメリカの都市部に住む人々は、多くがトランプ氏に対して批判的です。
 ということは、安倍首相の今回の行為は、そうしたアメリカの知識人に不信感を与える行為となりかねないのです。
 アメリカの大統領との蜜月を、イニシアチブをとる外交上手な首相としてイメージ付けようというのが本音であれば、それは大きな過ちです。というのも、その行為でアメリカ人の半数が日本に対してマイナスのイメージを抱き、アメリカの世論やメディアがバイアスをもって日本を見るリスクがあるからです。
 

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各論にこだわる日本、「しがらみ」を捨てたアメリカ

ロシアは日本を求めている?

 

“Putin: It’s important to look for Russia-Japan WW2 peace treaty, solution that would reflect the strategic interests of both. “

(プーチン大統領は、第二次世界大戦を解決した平和条約を見つめ、お互いの戦略的連携を見つめてゆきたいと表明)
Reuterより

モスクワの街を歩けば、スーパーマーケットに寿司が並んでいます。
この寿司を生産しているのは、日本企業ではないとのこと。アメリカで発案されたカリフォルニアロールがヨーロッパ経由でロシアにはいってきたのです。この日本とアメリカとロシアが関わって流通している寿司をみると、それが現在の極東情勢を象徴したものとして映ってくるのも事実です。
 
ロシアの広大な国土の半分以上はアジアにあります。
その国境の向こうには、モンゴルがあり、さらには中国があります。
1960年代、共産主義社会での覇権をめぐり、中国とソ連とが激しく対立しました。以来中国とソ連、そしてソ連の権益を引き継いだロシアとは、アジアのライバルとしてお互いを意識し続けてきたのです。
 
そもそも、中国とロシアとの対立は旧ソ連時代にはじまったことではありません。
帝政ロシアの頃、南へと利権の拡大を目論んでいたロシアは、当時中国を統治していた帝国への進出を目論みます。このロシアの南下に対して当時の日本(大日本帝国)が脅威を感じた結果勃発したのが、日露戦争であったはずです。
 
なぜロシアと中国との関係をここで解説する必要があるのかというと、そこには大きな理由があります。それが北朝鮮への日本のアプローチのヒントになるからです。
確かにロシアは、アジアにおいては常に中国を意識してきました。そんなロシアにとって、実は日本は極めて組みやすい相手なのです。
しかも、シベリアには日本が欲しがる膨大な資源が眠っています。そんなロシアがシベリアの開発のために日本の経済力に期待しているのも事実です。
こうしたお互いの利益を前向きに捉え、ロシアと強力なパイプを造ることができれば、中国とアメリカとの間で硬直した日本の北朝鮮政策に新たな可能性が生まれるはずです。ロシアのプーチン大統領は、日本のそうしたアプローチを強く望んでいることが、このヘッドラインからも見えてきます。
 
しかし、日本人には常にこうしたチャンスを見逃す弱点があります。
それは日本人の各論にこだわる癖に他なりません。つまり、日本人は各論にこだわりすぎ、大きな絵図面から外交問題を有利に解決するチャンスを何度も逸してきたのです。
ロシアとの間の北方領土問題、そして北朝鮮との間の拉致問題への日本の取り組み方は、そんな日本の弱点を象徴しています。不当に拉致された人々への家族の思いに疑問を抱いているわけではありません。拉致を解決するには、拉致からあえて離れた大きな視野と戦略が必要だと思うのです。
ロシアとの間も同様です。北方領土を解決するためには、日本とロシアとの経済協力が双方にとって無視できなくなるほど強くなることが大切なのです。
 
拉致問題一点に日本がこだわりすぎれば、北朝鮮への外交的な対応そのものが後手にまわります。そして北方領土にこだわれば、ロシアとの経済協力はなかなか進みません。そうした状況を一番利用できるのは中国であり、北朝鮮そのものなのです。
安倍首相は、トランプ大統領が金正恩との会談で拉致問題に触れてくれたことを、国民に強調しました。
しかし、トランプ大統領が、拉致問題に触れたというのは、日本のメッセージを伝えたよということに過ぎないのです。アメリカが積極的に日本の利益のために拉致問題に触れたのでない以上、それは何ら意味のない伝言ゲームにすぎません。
 
結局、日本は単独で北朝鮮と拉致問題について交渉をせざるを得ないわけです。そんな状況の中で日本が拉致問題を理由に北朝鮮との対話を進めないことは、北朝鮮からみるならば、日本を交渉相手からブロックし、中国を味方につけながらアメリカに対応するためには極めてありがたいことなのです。
 
一方、ロシアは北朝鮮への影響力を維持するためにも、日本との連携を視野にいれたいはずです。しかし、何かを持ち出せば北方領土にこだわる日本の対応にロシアの幹部がうんざりしているのもまた事実でしょう。
 
北朝鮮問題は、単に北朝鮮に核を断念させて、国際社会の仲間入りをさせることを意味しているわけではありません。北朝鮮問題は、北朝鮮という扱いにくい国家の存在を利用して、極東の中でいかに自らの利益や影響力の伸長をはかろうかと模索する関係国同士の外交合戦なのです。
日本が、北方領土と拉致問題という「動かない石」にこだわればこだわるほど、そうした関係国の複雑な交渉の蚊帳の外に日本が置かれてしまい、最終的に拉致問題や北方領土問題自体の解決も遠のいてしまうのです。
 
どこの世界でも、政治は「しがらみ」によって動いています。
アメリカの歴代大統領も、支持母体の政党や有権者という「しがらみ」を常に意識して政権を維持してきました。それは日本でも中国でも同様です。ところが、トランプ大統領はそうした「しがらみ」が最も希薄な大統領として選挙に勝利しました。そして、金正恩も中国という「しがらみ」を離脱した指導者でした。ですから、この二人は様々なスタンドプレーが可能だったのです。
 
日本の場合、多くの政権は国内では自民党内部の「しがらみ」があり、国外ではアメリカとの強い「しがらみ」に左右されながら外交の舵をきってきました。そんな政治家の「しがらみ」が、拉致問題と北方領土問題への取り組みにも大きな影響を与えているようです。
しかし、今のアメリカは「America First」というスローガンを大きく掲げています。「しがらみ」よりも自国の利益を優先させようとするアメリカに最も翻弄されているのが、今でもアメリカを「しがらみ」と捉える日本なのです。
 
日本がこうした実態を改めて見直しながら、改めて中国とロシアとの立ち位置を冷静に見つめた独自のリーダーシップを取ることができれば、北朝鮮問題への日本の影響力にも大きな変化がおこるはずです。
 
 

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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平昌での「民族意識」に当惑するアメリカ、日本、そして中国

“Kim Jong-un’s Overture Could Drive a Wedge Between South Korea and the U.S.”

金正恩の(雪解けの)提案は、韓国とアメリカとの関係を悪化させかねない。
(New York Timesより)

「民族」という言葉。これを翻訳すると race となります。同時に「民族」は tribe です。大陸の長い歴史を通して活動してきた部族tribe が、国家として自らを意識したとき、tribe race となりナショナリズムの原点へと成長したのです。
平昌オリンピックで、韓国と北朝鮮とが急接近したとき、韓国人の多くはこの「民族」という言葉を意識したのでしょう。
 
確かに韓国では「民族」という言葉をよく耳にします。
韓国はいうまでもなく Korean、つまり朝鮮民族による国家です。では、日本はというと、日本人という言葉はありますが、日本民族という語彙には馴染みません。民族という言葉を使用するときは、日本人は「大和民族」として自らを表現しますが、これは戦前の国粋主義への記憶と繋がってしまいます。
島国として戦後の一時期を除きほとんどの期間独立を維持してきた日本人は、自らのことを「民族」として意識するチャンスがなかったともいえましょう。
 
朝鮮半島の利害に絡むアメリカは、自らを多民族国家 multinational state と定義します。「アメリカ民族」という言葉はなく、多様な人種や宗教を持つ人々が共存する国家というビジョンを民族の代わりのスローガンとしてきました。
では、もう一つの当事者である中国はどうでしょう。中国もアメリカと同様に多民族国家です。しかし中国の歴史はその中心で活動する漢民族と、周辺の民族との対立と侵略の反復でした。漢民族が衰退したとき、満州族などの北方民族が常に中国に侵攻してきました。
逆に漢民族が繁栄したときは、周辺民族は服従を強いられました。朝鮮民族はそんな周辺民族の一つでした。
現在の中国では、社会主義を建前として民族の融合を唱えていますが、ウイグル族チベット族など少数民族との対立が国家の課題であることには変わりありません。北朝鮮との国境には朝鮮民族も活動しています。つまり、中国では、今でも漢民族と周辺の様々な民族との対立の中で、「民族」という意識が揺れ動いているのです。この状況は朝鮮半島の隣国ロシアでも同様です。ロシアでも多民族国家をスローガンとしながら、チェチェンジョージアなど、ロシア民族と他の民族との対立に揺れているのです。
 
さらにヨーロッパに目を向けると面白いことに気付きます。
フランスやドイツやイタリアなどは、それぞれの民族で成り立ってきた国民国家です。しかし、民族の対立の歴史の果てに、お互いに加害者と被害者との立場を繰り返した末に第二次世界大戦という破局を経験したヨーロッパでは、とりたて「民族」という言葉を意識しなくなりました。例えば、戦前ドイツ人は「ゲルマン民族」と自らを位置付け、独自のアイデンティティ(identity) を強調しました。
しかし、今ではヨーロッパの主要国は戦争の悲劇の教訓から、自らを多民族国家へと変化させてきたのです。その結果、パリでもロンドン、そしてベルリンでもアフリカや中東、アジアからの移民が目立つようになりました。もちろん、そうした動きに反発するナショナリズムが高揚していることも事実ですが。
 
さて、こうした世界の動きをみながら、改めて韓国人にとっての「民族」という概念を考えてみたいと思います。
北朝鮮の脅威は、韓国人にとっても喫緊の課題です。実際、朝鮮戦争とのそこに至る過程で、民族を分断した対立を通して、家族が分断され、無数の血が流されました。その後も北朝鮮とは武力による小競り合いが頻発しました。
その悲劇の中で彼らは考えます。ドイツは戦後分断された。しかし日本は分断されずアメリカに保護された。でも東西対立の最前線に取り残された韓国は分断されたと。常に近隣の大国の脅威と植民地化、分断に晒されながらも、世界史の陰に置かれてきたことが、彼らの強い民族意識の原点となったのです。
従って、北朝鮮問題、日韓問題を語るとき、彼らは「朝鮮民族」として極めて複雑な心境を抱くのです。この複雑な意識が、国際関係に優先されるとき、日本やアメリカ、そして時には中国をも困惑させる事態がおきるのです。韓国はアメリカの保護によって朝鮮戦争を克服し、国家として自立してきました。ですから北朝鮮に対抗し、資本主義経済を守るにはアメリカとの同盟が必要です。しかしそれは日本も組み込んだ日米韓という連携へとつながります。しかもアメリカは東西対立を促進し、朝鮮半島を分断した片方の加害者でもあるのです。
 
こうした韓国の人々のアメリカと日本への意識が、平昌オリンピックというスポーツの祭典を利用した北朝鮮への接近に彼らを駆り立てたのです。
北朝鮮との問題は、過去から続く民族の悲劇を克服する問題として、自らの力で解決したいという強い意識が韓国の背景にあるわけです。
この民族意識を考えたとき、アメリカも日本も、当惑しながら、対応を考えざるを得なくなりました。これは中国も同様です。中国は2千年にわたって朝鮮半島に影響力を持ち続けてきました。しかし、このところ北朝鮮が中国に対して、「民族」として対抗するようになりました。中国からしてみれば、韓国がアメリカから自立することと、北朝鮮が中国から離反することをどう判断してよいか、文字通り困惑しているのです。
 

「民族」という概念の薄い日本。確かに日本人は、こうした激動の時代に翻弄された大陸国家の微妙な意識の機微には疎いようです。それだけに、アメリカと中国に挟まれた朝鮮半島の動向にはより繊細な対応が必要になるのです。

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アジアの人々と働くこと

『なぜ銀座のデパートはアジア系スタッフだけで最高のおもてなしを実現できるのか!?』千葉祐大 (著者)なぜ銀座のデパートはアジア系スタッフだけで最高のおもてなしを実現できるのか!?』千葉祐大 (著者)
価値観の違うメンバーを戦力化するための17のルール!
訪日外国人の数が、毎年過去最高を記録している現在の日本。お客さまが外国人であれば、接客する側も言葉や文化を理解している同国人のほうがいいと考えるのは当然のこと。
しかし、「はたして外国人に、日本人と同じレベルのおもてなしを実践することができるのか」「どうやって、外国人におもてなしの教育をすればいいのか」と、懸念や疑問を持つ現場関係者が多いのも事実です。
本書は、外国人とりわけアジア系人材を、おもてなし提供者として育成する教育方法について、銀座のデパートで実際に行われている事例を取り上げながら、詳しく解説します。

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