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英語が教えてくれる、今人々に必要な5つの指標とは

Don’t waste it living someone else’s life. Don’t be trapped by dogma, which is living with the results of other people’s thinking. Don’t let the noise of others opinions drowned out your own inner voice, and most important, have the courage to follow your heart and intuition.

(他人の人生を真似ることで、貴重な時間を無駄にしてはだめです。他の人が考えてきた教条的な常識に囚われないでください。そして何より大切なのは、他人の意見に惑わされず、自分の心と直感に従う勇気を持つことです)
― スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での卒業式の講演 より

2023年の世界情勢を考えていくにあたって

 明けましておめでとうございます。
 新年早々の1月2日、仕事のため、羽田空港から台北行きの飛行機に搭乗となりました。
 羽田は係員の不足のためか、セキュリティチェックは長蛇の列でした。そのため搭乗のプロセスも遅れて、飛行機の遅延も発生していました。しかし、混雑するロビーを歩いているとき、ポストコロナに向けて、世界が着実に始動していることを実感しました。
 
 台湾といえば、今中国からの脅威に晒されているといわれています。こうした脅威から、日本でも防衛予算の増額などの議論が行われています。
 そこで、新年にあたって、我々がこうした流動する世界に対して何を考え、どのように判断すればよいかというテーマを、5つの英語の表現を取り上げて、考えてみたいと思います。
 

流動する世界を読み解く5つのキーワード

 最初は、Polarizationという言葉です。これは、訳せば「二極化」という意味になります。この言葉は、二つの軸に世論が大きく分断される現象を指しています。いうまでもなく、権威主義や民主主義、同じ民主主義の中にあっても右と左など、人々は置かれている環境や受けた教育、さらに周囲の影響などによって二つの大きな軸に向けて分離しがちです。Polarizationとはpole、つまりそうした二つの磁極を持つ磁石のような棒を意味しているのです。
 
 では、そうした意識に人々が誘導されるときに起きる現象を示す2つ目の言葉を紹介します。それがCherry pickingです。これは、自分が持つ意識を肯定する情報を、野に群生するチェリーを探して集めるようにピックアップして、自らをどんどん正当化する心の動きです。現在のネット社会では、この現象が特に指摘されていて、自らが心地よいと思えば、その情報をどんどん入手したり、他から提供されたりしながら、心が誘導されてゆくわけです。
 そんなとき、起こりがちなことが3つ目のStraw manという現象です。
 これはCherry pickingの過程でも起こりがちなことですが、対立する相手の言動を自分に有利なように歪めて批判し、相手を吊るし上げることで、自己肯定を深めてゆく行為を指しています。
 
 さらに、そうしたときに陥りがちな意識が、次に4つ目の言葉として紹介するFalse dichotomyという心理状況です。直訳すれば「二極の偽り」とでもいいましょうか。一般的には「誤った二分法」ともいわれています。これは物事には二つの解決方法しかないという、人間が陥りがちな誤謬です。つまり、人が何かの課題に直面した場合、白か黒かの二つの選択しかないように錯覚することを意味します。
 アメリカで、トランプ支持者とバイデン支持者がこの二つの選択しか存在しないと思ってしまうことも、広い意味ではこうしたカテゴリーに分類されます。そして、日本でいえば、中国やアメリカという二つの外交的な選択に世論が揺れることも、二極選択の誤りを生み出すかもしれません。もちろん、こうした選択の誤謬は、日々の生活の中でも発生します。
 
 ここで記した心理的な変化は、最終的にCircular reasoningという論法によって、ときには極端な思想へと人々を導きます。これが5つ目の言葉です。この言葉はもともと「循環論法」という哲学用語で、それ自体に問題はありませんでした。しかし、この論法を今まで紹介した言葉と組み合わせるとき、我々は注意しなければなりません。この言葉はいうまでもなく、サークル、つまり円の縁にそって自分の論理を進め、円の始点にあった自分の解答を肯定するように論理構成を作り上げてゆく発想です。そして、Cherry pickingを整理して、自分の抱いた考えをただ肯定するときに、だから「結局こうなるんだ」という結論ありきの思考に陥ってしまうことが、この言葉の負の部分、つまり危険な部分となるのです。
 
 自らが肯定する限定した情報を追いかけ、それに反対する人を白か黒かで選別し、反対軸にある人を誤謬という色眼鏡で見るようになることで、さらに自らの論旨を肯定しながら、人々は一つの軸へと導かれるわけです。
 そして、この現象は誰にでも起こりうる心のプロセスなのです。
 現在は、このプロセスが例えば一つのことを検索すれば、AIがその行動を察知して類似の商品や情報をどんどん提供するといった技術などに誘導されて、ネットを通してより迅速に人々の心に影響を与えるようになりました。
 

日本、そして自分自身の判断を見極めるために

 そこで、今の日本を考えましょう。
 例えば、日本は同じ価値を共有する同盟国との連携が大切で、権威主義と対立しようというふうに決めてしまえば、そこには白か黒かの選択があります。そうではなくて、日本ならではの独自の民主主義への道はあり得ないのでしょうか。
防衛予算が強調されるとき、北朝鮮の情報、台湾への脅威、ロシアの暴挙などが日本人にとってのCherry Picking現象、さらにはCircular reasoningを生み出してはいないのでしょうか。
 世界との付き合い方や、人に対する判断、社会不安や貧富や教育の差、犯罪や暴力など我々が抱える課題を見るとき、こうした心理が極端に働いていることはないのでしょうか。
 
 世論は、常にそのときの風潮によって左右されます。風に吹かれるように世論はいとも簡単に一つの方向になびいてしまいます。日本は島国で、多民族国家と比較しても、自らへの文化的なアイデンティティが伝統的に強くなりがちです。したがって、そうした世論は同調圧力も生みがちです。
 であれば、この混迷した21世紀前半を我々自身が遭難せずに乗り越えてゆくには、他国の影響や国内の不安に対して、それらをどのように判断するかというチェックポイントが必要です。これが、ここに挙げたいくつかのコンセプトとなるのかもしれません。現在、我々は「戦後」という時代を終えて、次の何かに向けて社会が動き出しているような不安を抱えています。それを新しい戦前という人もいれば、気候変動や戦争による今まで経験したことのない危機への序章だという人もいます。そして、それらを否定して、こうした発言を陰謀論で片付ける人も多くいます。
 
 事実はどこにあるのか。それを見極めるには、それぞれがここに記したチェックポイントをもって、自分が何かに流されているのではないかと検証してゆくことから始めなければならないのです。ヘッドラインで記したスティーブ・ジョブズの言葉を、改めて自分のこととして反芻する必要があるのです。
 ちなみに、この文章そのものも、Circular reasoningの論法に基づいて作成してみました。それに気付かれた方がいれば嬉しい限りです。
 
 本年がみなさまにとって、良い一年でありますように。
 

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