【海外ニュース】
Japanese leader revives dark memories of imperial-era biological experiments in China
(ワシントンポスト より)日本のリーダーが、戦前の中国における生体実験の暗い思い出を触発する
【ニュース解説】
日本の過去の戦争責任への解釈の違いは、今まで韓国と中国をはじめとする周辺の国々との摩擦の原因となってきました。
しかし、現在アメリカもがこの問題について、日本の指導者のスタンスに強い懸念をもっていることは日本でも報道されています。
今回のワシントンポストの記事は、その延長線上にある気になるものです。
1936年以降、当時の満州 (中国東北地方) で、日本軍が組織的に中国人などの捕虜に対して人体実験を行いました。その実験は、石井四郎という軍医の高官の指揮下で行われた実験であったため、それを実践した部隊を人々は石井部隊と呼んでいましたが、その公の名称は 731部隊でした。
そして、今回、安倍首相が自衛隊の航空機に搭乗し、笑顔でメディアに応えている写真が掲載されたところ、その航空機に 731 という番号が書かれていたのです。
ワシントンポストは、このこと自体は、honest mistake (意図しなかった過ち) であろうと報道しています。
しかし、最近の靖国問題、さらに政治家の度重なる慰安婦問題を含む戦争責任への否定的な発言、橋下市長の軍隊は風俗を活用すべきという発言など、海外で不満のガスが充満しているときにリリースされたこの写真が瞬く間に引火し、周辺国で大きく報道されたことは事実でした。
ワシントンポストは、
Abe continues to raise the bizarre question of whether Japan’s invasions of several Asian neighbors counted as “aggression.”
(安倍氏は日本のアジアへの侵略という概念が正しいかどうかという奇怪な論旨を展開し続けている)
と批判し、さらにいくら honest mistake とはいえ、
a clear lack of awareness and lack of sensitivity about Japan’s past atrocities, and about the feelings of Japan’s neighbors and past victims.
(今回の行為は、日本の過去の残虐行為や周辺国の犠牲者に対する認識不足と繊細さの欠如がもたらしたもの)
であると痛烈にコメントしています。
また、ドイツの戦後処理でナチズムを徹底的に排除し謝罪した経緯と、政府高官が、戦犯が合祀される靖国神社の訪問を続ける日本の経緯がいかに対照的かとも、同紙は指摘しています。
厳しい指摘です。
では、これらの韓国、中国、そしてアメリカにも飛び火した日本への強い懸念の背景が何かを、ここで別の視点から冷静に見詰めてみましょう。
まず、理解してほしいのは、日本人も他の国の歴史や歴史の陰にある繊細な事情について無知であるように、諸外国も日本の歴史や過去への繊細な課題について充分に知識があるわけではないということです。
ですから、日本の著名人が何か発言して、その意思通りに海外のメディアに取り上げられなかったと後でコメントしても、ある意味では国際社会では全く通用しないのです。
事例は異なりますが、以前民主党のジミー・カーターと共和党のロナルド・レーガンが大統領選挙で争ったとき、よりストレートで単純なメッセージを発信するレーガンが、様々な背景や複雑な事情を知的に話すカーターに対して圧勝したことがありました。
この事例と同様に、世界のより多くの人に、しっかりと日本のスタンスを理解してもらうには、単純明快なメッセージの発信が必要不可欠であることを海外と関わる人は知っておくべきなのです。
日本人のコミュニケーション・スタイルは、polychromic 多色構造であるといわれます。対して英語のコミュニケーション・スタイルは monochromic 単色構造です。
つまり、日本語は、言外の意味や様々なメッセージを一挙に伝えることができるのに対し、英語は一つのメッセージを論理的に言葉で解説することを得意とします。
日本人が、日本人の感覚で、多くの意味を一つの言葉に込めようとしたり、最初から複数のメッセージを一回で伝えようとしたりすると、相手が誤解してしまう原因には、そうしたコミュニケーション文化の相違もあるのです。
従って、英語など欧米の言語圏の人に自らの意図を正確に伝えるには、まず根本的なスタンスをストレートに伝えなければなりません。今回の一連の問題では、日本が過去の戦争の体験から平和を追求している国であるという一文が真っ先に必要でした。つまり過去の詳細や解釈に先に言及したり、それに合わせた行動をとったりするではなく、戦争で犠牲になった日本と海外の人へのいたわりを表明するという実に単純な、誰にでも受け入れられるメッセージが欠如し、問題がおきるたびに、後追いでそれを付加しても、polychromic な文化を持つ多くの国の人には、それは全く伝わらないのです。
戦争に対する様々な見方を詳細に伝えようとすればするほど、世界と日本が乖離する背景は、そこにあります。発言の順序が逆なのです。国際社会からみれば、これは単なる醜い言い訳と思われてしまいます。
「真意が伝わらなかったのは残念」と問題発言を指摘されるたびにコメントし、時にはマスコミの報道姿勢を批判する多くの日本の政治家がまず知っておかなければならないのは、明解なメッセージを伝えられない自分こそが、国際社会の厳しさを知らないが故の甘えに陶酔しているという現実なのです。