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ネルソン・マンデラと中東問題の悲しい比較、そして日本は

【海外ニュース】

Former president Nelson Mandela arrived back at his Houghton home on Sunday morning after a long stay in hospital.
(The Citizen より)

ネルソン・マンデラ元大統領は日曜日の朝、長い闘病生活を終え、ホウトンの自宅に

【ニュース解説】

今、世界は、シリアやエジプトの問題で緊張が高まっています。
こうした中東の争乱 chaotic conflict の根の部分にある課題は、イスラエル建国の折に土地を失ったパレスチナ難民 Palestinian Refugees の自立と加害者とされるイスラエルとの融和への壁であることは周知の事実です。
20世紀初頭のオスマントルコ帝国の崩壊 decline and fall 時の混乱に端を発し、その後の宗教と民族の対立に、米英ソ連などの大国の利害が絡まって事態が混迷したつけを支払わされているのが、現在の中東の状況に他なりません。

こうした民族や宗教の対立が中東のような大規模な混乱の渦を産み出しかねなかった地域が2カ所、アジアとアフリカにありました。
インドと周辺諸国、そして南アフリカを中心とした地域がそれにあたります。
その一つの危機を克服した新生南アフリカの産みの親ネルソン・マンデラ氏は、日本からみれば遠くの国の英雄です。しかし、世界史という大きな絵図面でみるときに、彼の存在が語りかけるものは決して日本とも無縁ではないのです。

まずインドを振り返ります。インドには今でもイスラム教徒とヒンズー教徒との軋轢があり、イスラム教の隣国パキスタンとも緊張関係にあります。

しかし、過去に数回戦争状態にはなったものの、中東諸国のような混沌とした状況は回避され、少なくとも40年が経過しています。
この平和の原点が、インド独立の父、マハトマ・ガンジーにあることは、前回にも解説しました。つまり、民族や宗教、そして過去の抑圧者との融和を説き、暴力を否定した社会変革を成し遂げようとしたガンジーの理想が、その後の混沌への危機を回避してきたのです。

8月30日号で紹介した、キング牧師はその意思を継承し、アメリカでの公民権運動を成功に導きました。
そして、その活動を引き継いだのが、南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領に他ならないのです。

マンデラ氏は、人種隔離政策によって苦しめられてきた南アフリカを再生するにあたり、元々抑圧する側であったヨーロッパ系の人々との融和を説き、憎しみを乗り越えた国家造りを目指したのです。
南部アフリカの歩みをみるときに、これと対照的な動きが南アフリカ共和国のすぐ北に位置するジンバブエ共和国にみてとれます。
ジンバブエ共和国は昔、ローデシアと呼ばれていました。
ローデシアは、ジンバブエ共和国や南アフリカをイギリスの影響下におくことに成功した19世紀から20世紀にかけての政治家セシル・ローズという人物の名前をとって建国され、南アフリカ共和国と共に人種差別が横行した国でした。

しかし、南アフリカ共和国と同様にローデシアが崩壊し、黒人が復権しジンバブエ共和国が成立したとき、指導者ロバート・ムガベ Robert Mugabe 大統領は、マンデラ元大統領と真逆の政策を打ち出します。彼は、The leader of the national liberation movements against white-minority rule (少数派である白人が為政者として君臨してきたことに抵抗するリーダー) として、大統領就任後、白人居住者の権利剥奪に積極的だったのです。そして、そのことが逆の差別であり虐待であるとして、国際問題にも発展しました。
最終的に、彼は悪名高い独裁者 Dictator として、今回の選挙で再選されたときも、その選挙での票の操作などの不正疑惑 suspicion of election irregularities が問いただされているのです。
混乱を乗り越え、国家として安定を目指す南アフリカとは対称的です。

さて、中東を振り返ります。
インド、そして南アフリカ共和国には、正に理想を語り、それを力にできた指導者が存在しました。
中東には、そうした人材が強い支持を受けることなく、宗教と民族の対立が出口のない混沌を産み出したのです。
エジプトの争乱は、イスラム教を強く標榜する勢力を支持母体とするムスリム同胞団への民衆の不安が引き金になりました。自らの権益が脅かされていた軍部が、エジプトが中東の争乱に飲み込まれ、経済が低迷することへの民衆の恐れに相乗りしたのです。
それが皮肉にも、民主化により合法的に選ばれた大統領をクーデターで引き摺り下ろし、本来の民主化運動 democratic movement そのものにも陰を落としてしまったのです。

一方、シリアの混乱は、独裁者と民衆の戦いに、パレスチナ問題に端を発した周辺諸国の混沌とした政治状況が付加されて、出口が見えなくなっています。
ネルソン・マンデラの発揮したリーダーシップと揺れる中東との明暗は、現代国際社会の悲劇を語る上で、大きな課題を我々に投げかけます。
それは、マハトマ・ガンジー、キング牧師、ネルソン・マンデラと続く道の向こうに何をみるかという課題です。
当然、この課題は、中国や韓国との軋轢に悩む日本にも投影します。
民族や歴史の対立を乗り越えるには、憎しみや誹謗中傷を飲み込み、さらに強く深い度量によって、未来を築けるリーダー、そして社会運動が必要なのです。

マンデラ元大統領が、95歳の高齢で病気を克服し退院したことが世界に朗報として報じられる意味。そして、7月18日の彼の95歳の誕生日に、オバマ大統領をはじめ多くの指導者が祝福を送った意味の向こうには、ますます混迷する世界各地の紛争を克服するための一つの光を、彼の業績を振り返ることで見定めようとする意識があるのかもしれません。

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