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「蟻の一穴」が漏水へと発展したベルギーのテロ事件

【海外ニュース】

Radovan Karadzic, the former Bosnian Serb leader, was convicted of genocide, war crimes and crimes against humanity by a United Nations tribunal on Thursday for leading a campaign of terror against civilians in the deadliest conflict in Europe since World War II.
(New York Timesより)

ボスニアの元リーダーロドバン・カラジッチは第二次世界大戦以来最悪の紛争での一般人に対する殺戮行為で、国連の裁判にて人類 (文明) への罪、虐殺の罪で戦犯として木曜日に訴追される

【ニュース解説】

ベルギーでおきたイスラム系過激派によるテロ行為は世界に衝撃を与えました。その直前に、欧米ではあるニュースが大きく報道されました。それは 1995年にボスニアで 8000名以上のイスラム系住民を虐殺した罪で、当時の指導者ロドバン・カラジッチ氏が禁固40年の判決を受けたというニュースでした。

東ヨーロッパの旧ユーゴスラビアで、キリスト教を信奉するセルビア系住民とイスラム系の住民との対立がひき起こしたこの虐殺事件の背景は複雑です。歴史をさかのぼれば、そのあたりは 20世紀初期まではオスマン・トルコの領土でした。オスマン・トルコはイスタンブールを首都に、トルコから広く東地中海全体を支配していたイスラム教の大国です。その影響で、東ヨーロッパ、特にボスニアにはイスラム系の住民が今でも多く居住しています。
オスマン・トルコが壊滅し、その後東ヨーロッパに 1918年に設立したユーゴスラビアも崩壊すると、その支配地域はセルビア系、クロアチア系、そしてボスニャク人と呼ばれるイスラム系の住民との対立が激化し、1990年代にヨーロッパの戦後史上最悪といわれた内戦へと発展します。虐殺行為は、その内戦の最中にイスラム教徒に対して組織的に行われました。男性は子供も含め無残に殺害され、女性はレイプされ、罪もない人々が劣悪な環境の収容所に閉じ込められました。これは、戦前の話ではなく、つい最近のことなのです。
カラジッチ氏はその当時の民族分離運動の指導者として、その虐殺行為への責任を追及されたのです。

今、ヨーロッパは、イスラム教徒によるテロ行為に悩まされています。もちろん、それは一部の過激な思想に染まっている人々による犯罪です。ただ、フランスに続いてベルギーでおきた惨劇は、あまりにも非道で罪もない人々が巻き込まれたために、欧米の社会に深刻な影を落とします。それは、第二次世界大戦の教訓から、民族や宗教の違いをこえた理想を求めて、一つの共同体を目指してきたヨーロッパが再び分解されるのではないかという影に他なりません。テロ行為に反発する民族主義、国家主義者の活動が、今ベルギーやフランスで多く報道されているのです。
今回のテロ行為に、混迷するシリアからの難民に混じった犯人がいたことから、そうした人々の受け入れにも、冷たい視線を投げかける人が増えています。

そんな時、我々が思い出さなければならないことが、このボスニアでの紛争なのではないでしょうか。暴力が暴力を呼び、国連軍による鎮圧も後手にまわった結果、20年前におきた虐殺事件。
その被害者は皮肉にもイスラム教徒だったのです。ヨーロッパは一見キリスト教社会であるかのように見えますが、そこでの移民の複雑なモザイクは日本からはなかなか見えてきません。
今、悲劇のおきたボスニアのみならず、そこから遠く離れたイギリスやフランス、ドイツなどのヨーロッパ主要国の中にも、膨大なイスラム系の住民が生活しているのです。
歴史的にみれば、スペインの南半分も元々イスラム系の人々が支配していました。そして、オスマン・トルコが最強だった 17世紀には、あわや現在のオーストリアの首都ウィーンも陥落の危機にありました。
ヨーロッパの人々が右傾化したとき、そうしたイスラム教徒とキリスト教徒との 1000年以上にわたる対立が再燃し、取り返しのつかない悲劇へと繋がらない保証はないのです。

今、人類には 100年の計が必要です。過去の歴史の悪夢によって、新たな 1000年の対立を引き起こさないために、ヨーロッパの人々の知恵が問われているわけです。
アメリカ、ヨーロッパ、そして日本をも含む世界中で見られる、新たなナショナリズムを冷静に捉えてみると、そんな 100年先を見据えた行動が今必要であることを痛感させられます。
「蟻の一穴」といわれる小さな亀裂が、大きなダムを崩壊させるように、今民族や宗教の違いをこえた人類の融合の試みが、ダムの崩壊につながる漏水に苦しみ始めているのです。

フランスとベルギーでの悲劇が、新たなボスニアの悲劇へとつながらないようにしたいものです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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