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中国にある新旧二つの多様性とは

【海外ニュース】

Immigrant numbers rise in cities. Business opportunities, better living conditions are seen as key attractions on Chinese mainland.
(China Daily より)

移民の数が都市部で増加。中国でのビジネスチャンスや、より快適な生活が魅力となって

【ニュース解説】

この中国の英字紙の見出しは、経済的に繁栄する中国に海外の人が様々なビジネスチャンスを求めて住み着こうとしている現状を伝えています。多分に政府よりの記事ではありますが、主要都市の人口の 0.8パーセントが海外からの人で占められようとしている現状は、海外からの移民が極端に少ない日本と比べ、確かに注目される実情です。
今回はこうした新たな事実を踏まえながら、中国が抱える独自の「多様性」の課題について解説します。

中国を理解するには、その長い歴史の中にみえる一つのパターンを観察しなければなりません。例えば、現在の中華人民共和国は、それ以前の中華民国、そして、さらにその前の清の時代に策定された領土を引き継いでいます。
中国の歴代王朝は常に国土の伸縮を繰り返していました。周辺の民族運動の状況によって、国土が膨張することもあれば、収縮することもあったのです。
中国の中央に位置する王朝の力が弱くなれば、周辺の民族の活動が活発になり、それぞれの民族が国家をつくり、時には中国の深部に侵入してきます。実際、清王朝も満州民族が漢民族の王朝である明を倒して建国した王朝でした。
そして、中央政権が強くなれば、周辺の民族、あるいは少数民族は、それに服従し、支配を受けることもありました。こうした歴史のパターンは数百年ごとに中国の地図そのものを変えていったのです。

今、中国は繁栄し、過去に強大になった王朝と同様に、周辺民族を少数民族として統率し、国家を運営している時代です。そうしたとき、中国は少数民族が多く住む辺境地域の統治に神経を尖らせます。それがシルクロードの時代からの国家戦略なのです。昔は万里の長城を建設し、節度使という辺境を管理する組織を設け、なにか異変があったときには、狼煙をあげて、首都に伝えるシステムも造りました。今は、経済力と警察力の双方で、この広い地域を中国という国家のもとに一元化しようとしているわけです。
中国の国内は多様です。宗教も民族も無数にあって、唯一漢字という言語によって、中国文化圏を形成しています。そしてその多様性は、新たにできたものではなく、数千年の長きにわたって中国の内外を取り巻いていたものなのです。

多様性といえば、多くの人が心に浮かべるのがアメリカです。しかしアメリカの場合は、ネイティブ・アメリカンを除けば誰もいなかった空 (から) に近い器に、人々が世界中からやってきて住み着いたことでその概念が生まれました。しかし、中国には空の器はどこにもなかったのです。1949年に毛沢東によって再統一された中国は、チベットやモンゴル系の人々、そして西域をも傘下におきました。チベットは元々独立国家でした。そして中国は、清の時代にモンゴルの南半分を内蒙古として組み込みました。同じく清の時代に中国の傘下になった西域の諸地域は、トルコ系やウイグル系といった人々が、イスラム教を信奉し、独自の生活圏を維持していた地域でした。宗教的にみるならば、北アフリカから中国の西域までの広大な地域がイスラム教という一つの宗教で彩られているのです。我々には見えない国境がそこにあります。

そうした環境を抱える中国政府は、少数民族の活動が独立運動やイスラム過激派の活動へとリンクしないように懸命です。共産党一党独裁を貫く中国は、征服民族である中央政府と、被征服民族であるチベットやウイグルの人々との間の不平等感が政情不安につながらないように、頭を悩ましています。
イスラム教過激派のグループは、そんな不穏な要素を抱く中国の辺境社会に磁石を向け、人々のリクルートを行います。政府に不満を抱くウイグル系の人々の武装活動を支援するため、ISISの支配地域に彼らを潜入させて軍事訓練を行っているのもその一環です。

久しぶりに北京で天安門前広場を歩きました。そして、以前に比べ、そこでの警戒が厳重なことに驚かされました。広場に入る前にチェックポイントが設けられ、武装警官が至るところに配置されていました。私の目の前で、少数民族の男性が警察官に拘束される光景にも出会いました。
周辺民族の中国化とは、地域の多彩な文化が中国色に塗り変えられることを意味しています。あるモンゴル系の人は、中国語が堪能でなければ、良い仕事にもありつけないので、元々の言語も廃れつつあるとこぼしています。
その人は、ウイルグ系の人々は、経済発展に取り残され、貧富の差にあえいでいるとも指摘します。そこに被害者としての差別感が生まれ、中央政府への反発が、さらなる抑圧へつながるという悪循環が散見されます。これはチベット系の人々にとっても同様です。

中国が経済力をつけ、海外に自らを晒してゆけば、それだけこの中国の内にあるこうした多様性の問題も、世界の注目を浴びることになります。特に、新聞に取り上げられた、新たな「移民」が醸し出す多様性によって、中国の内情が外で報道されれば、それだけ中国の内部にも、そうした情報に接する人々が増えることになります。
そうなれば、それはそのまま中国政府の周辺民族への強硬な政策が、批判にさらされることにもなりかねません。
経済発展によって外に向けて開かれつつある中国と、閉ざされた中国との矛盾が、象徴的に突きつけてくる課題。それは今回ヘッドラインで取り上げた新たな多様性と、中国に古くからある少数民族が生み出す多様性という、新旧二つの多様性という二つの異なったベクトルが生み出す課題なのです。

山久瀬洋二・画

山久瀬洋二「多様になる中国」

「多様になる中国」

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