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オバマ大統領の広島訪問が投げかけるもの

【海外ニュース】

Obama’s Hiroshima Visit is Hypocrisy.
The president’s very appearance at Hiroshima bears the hallmark of an apology, regardless of the words he utters.
(National Review より)

オバマの広島訪問は偽善的。どんな発言をするかにかかわらず、大統領が広島に行くこと自体、謝罪のレッテルをはることになることは明白

【ニュース解説】

アメリカの保守系の政治雑誌として有名な National Review は、オバマ大統領が伊勢でのサミットの折に広島を訪問することに対して、辛口の評論をしています。以前から、アメリカの政界は、アメリカが原爆を投下したことについてはそれを正当化する論調で占められています。
理由は原爆の投下により、アメリカ人のみならず、日本人も含め、さらなる犠牲をだすことなく戦争を継続することを抑止できたからだということに他なりません。
当時、日本は連合国に対して絶望的な抗戦を継続していました。
アメリカを含め、連合国側は 1945年の 7月26日にはポツダム宣言によって、降伏を受け入れない場合に国土が徹底的に破壊される旨の警告を行っていました。アメリカ側のスタンスでいえば、それを黙殺して抗戦を続けた当時の日本政府の責任の方が重大だったということになります。

実は、この議論については以前にも解説したことがありました。
ブログでの去年の 7月27日と、2014年6月22日の記事を参考にしてください。例えば、沖縄戦が終結したとき、ニューヨークタイムズはアメリカのみならず、日本側をも含めた犠牲の大きさを伝え、本土決戦で予測される甚大な犠牲への懸念をもとに、暗により有効的な戦争終結の手段はないものかと解説していたことも、ブログの中で触れています。アメリカ側の原爆投下に対する見解には、こうした戦争への犠牲への危惧に加え、早く戦争を終結させて来るべき冷戦に備えようという焦りもあったのでしょう。
皮肉なことに、北海道に迫っていた旧ソ連の介入で、日本が朝鮮半島のように分断されなかったことを考えれば、原爆投下の後にアメリカの意思に従って降伏したことは、正しい選択であったといえましょう。

ここで、National Review の記事に戻ります。
National Review によれば、オバマ政権下の外交政策の失敗の最たるものは、中東危機を深化させたことだと評論します。
オバマ政権が鳴り物入りで進めているイランとの関係改善ですら、間接的にイランの核武装を容認したことになり、その結果サウジアラビアやトルコという周辺国も核武装をする可能性がでてきていると同紙は解説します。アメリカの政策が核の脅威を逆に助長している現在、オバマ大統領が広島や長崎を訪問すること自体、その真意に偽善的なものを感じてしまうというわけです。

ここで、再び日本の立場を考えましょう。
確かに、National Review も語っていますが、第二次世界大戦で conventional weapon (通常兵器) による戦闘での戦死者は、核攻撃での犠牲者をはるかに上回っているのは事実です。しかし、だからといって、核攻撃を正当化できるものではないはずです。
日本の政策の過ちは、あたかも日本だけが被害者であるかのように、広島と長崎をアピールし、日本が加害者であった朝鮮半島や中国、さらには東南アジア諸国での戦闘行為への評価とのアンバランスを世界に印象付けている点にあるのです。
つまり、日本が原爆投下についてアメリカへ謝罪を求めているような印象を、長年にわたって与えている中で、日本自体の戦争責任への認識とのギャップへの批判が世界に拡散しているのです。そしてそのことが、中国や韓国のみならず、アメリカの論調をもして、なぜアメリカが謝らなければならないのかという疑問をアメリカの世論に投げかけているのです。

戦争はよくないこと。そして、その延長として核戦争は最も危険で悲惨なものであるという点は世界が共有できる認識です。
さらに、戦争での無差別殺戮という凄惨な状況を考えれば、当時の交戦国全てにそうした行為があったことは誰も否定はしないはずです。
その認識に立てば、第二次世界大戦で核を使ったアメリカのみならず、その決定を促すに至るまで状況を放置していた当時の日本政府の双方に責任があることも容易に理解できるはずです。

であれば、広島、長崎について我々が語ることは、「アメリカが原爆を落とした」という加害者の特定ではなく、侵略や戦争行為そのものの残忍性と、その象徴としての核兵器のもつ課題をいかに人類の問題として提示できるかという一点に集約されるべきなのではないでしょうか。
そこの論理展開を誤ると、日本の戦争責任を天秤にかけて、海外の世論は冷たく反応をしてくるはずです。そして、無益な責任追及と交戦国同士の批判合戦に問題がすり替えられてしまうはずです。

オバマ大統領が広島を訪問した折に、日本側は平和という課題についてしっかりとしたメッセージを発信するべきです。
もし政府関係者が日本として、アメリカを引き込むことで、中国や韓国との戦争責任をめぐる外交問題へのアドバンテッジとしたいと思っているとしたら、それは大きな誤算です。
また、アメリカ側が、極東でのアメリカのプレゼンスの維持のために、アメリカの対日協力へのお土産として広島への大統領の訪問を企画したのであれば、なおさら、この機会に改めて日本の戦争責任についての「遺憾の念」の表明を日本が積極的にしておくことで、世界に向けた「おくゆかしい」外交ができるはずです。

オバマ大統領は8年の任期の最後の年に広島を訪れます。それは選挙を意識する必要のない、オバマ大統領の本音による訪問なのかもしれません。
こうした、あらゆる要素を考え、今回の広島訪問にどう対処するか。日本の外交手腕に世界の注目が集まっています。

山久瀬洋二・画

「怨念は海を越えて」山久瀬洋二・画

「怨念は海を越えて」山久瀬洋二・画

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