“The Justice Department is investigating Ms. Meng’s company, Huawei, on charges of violating sanctions on Iran, and her arrest was meant as a warning shot by the Trump administration in its campaign to limit the global spread of Chinese technology.”
(司法当局の孟氏への取り調べは、ファーウエイがイランへの制裁決議に違反しているためであるが、彼女の逮捕はトランプ政権による中国の技術の世界への拡散に歯止めをかけるための警告とも受け取れる)
ーNY Timesより
2018年:国策と企業活動に揺れた世界
2018年もそろそろ終わりに近づいています。今年は、経済界でも多くのことが起こりました。特に年末近くになって、カルロス・ゴーン氏のスキャンダルによって、日産・ルノー連合に激震が走ったことは記憶に新しいはずです。さらにそれから間もなく、カナダでファーウエイの副会長である孟晩舟氏が、イランへの制裁決議に違反し、技術を提供したかどでアメリカの要請で逮捕され、これまた通信業界での大きなニュースとなりました。 この二つの事件に共通していること。それは、国家の利益と大企業との関係です。日本では伝統的に官僚主導の規制に守られて多くの企業が成長してきました。三井や三菱など、明治以降、政治と大企業とは国策を共に担って成長してきたことは周知の事実です。
アメリカは、ファーウエイが自らの端末を使って、アメリカの機密情報を諜報しているとも非難。もちろん中国側はこの主張に真っ向から反発しています。 国家情報法という法律が中国にあることが最近報道されています。中国国籍の者は国家の必要とする情報を提供する義務がある、というのがこの法律の骨子です。ということは、中国は国家として自国の国民をスパイとして使えることになるわけです。ファーウエイはそうした諜報活動の最先端企業である、という嫌疑がかけられていることになります。
20世紀:アメリカの金融業界に動かされた世界
そもそも国家と企業とが、その利益が一致している限りにおいて、陰に日向にその国の運営を共有していることは、今に始まったことではありません。 この関係が特に強固になったのは、20世紀になってからのことといえましょう。ここで、今から100年前の世界を覗いてみます。100年前の今頃、ヨーロッパでは第一次世界大戦が終了し、翌年1月に開かれるパリ講和会議に向けて様々な準備が行われていた頃でした。
アメリカからは、ウィルソン大統領が、大国が引き起こしてきた戦乱に終止符を打とうと、国際連盟の設立を提唱し、人々はそれを支持し恒久平和を願っていました。 しかし、そんな望みはその後20年であえなく葬り去られました。いろいろな原因が考えられますが、まずウィルソン大統領の提案した国際連盟がその後、有名無実化していったことが挙げられます。そもそも提案を行った当事者のアメリカで、国際連盟加盟が議会で否決され、アメリカ不在の連盟となったことも禍根となりました。
その原因の一端を担ったのが、アメリカの金融資本であることはよく知られた事実です。元々、ヨーロッパが世界大戦に突入したとき、将来のドイツの敗戦を予測して、アメリカの金融資本は多額の投資をフランスやイギリスに対して行っていました。和平が成立した後に、そうした資金を回収するためには、ドイツに多額な賠償金を支払わせなければなりません。ウィルソン大統領の理想に従えば、国際連盟の設立とともに、ドイツへの損害賠償の請求も行われないことになります。 これを警戒したJPモルガンをはじめとしたアメリカの金融業界が、ウィルソン大統領の提案に反対し、議会を動かしたのでした。その結果、多額の賠償金に苦しむドイツではヒトラーが台頭し、有名無実化した国際連盟は機能できないまま、第二次世界大戦へと世界は突き進んでいったのです。
~21世紀:ネットビジネスの台頭とグローバル経済
アメリカの金融業界が世界の景気を左右するまでに成長した20世紀。その一挙一動は、すでに世界史の主要なイベントに大きな影響を与えていたのです。 20世紀の終盤から21世紀になって、そんな伝統的なアメリカの経済界は大きな変化に見舞われました。それは、諜報機関が最も必要とする情報が、ネットビジネスという新手の起業家の手による発案や製品に委ねられはじめたことです。それまでは、鉄鋼や自動車、そして航空業界といった財閥は、明らかに金融界と密接に関わりながら政界にも影響を与えてきました。ところが、そうした伝統的な業界とは全く関わりのないフィールドからネットビジネスは成長してきたのです。アップルにしろ、マイクロソフトにしろ、アメリカの政界とはなんら関係のないベンチャービジネスから成長してきました。これら新しい企業とどのように付き合い、アメリカの国益と絡めてゆくかというテーマは、アメリカ政府にとっても全く新しい課題だったのです。
これは未だに古い伝統に縛られた、長大型の企業との関係に依存する日本にとっては、さらに深刻な課題といえましょう。 しかし、中国は状況が異なります。中国経済が成長したとき、その利権を最も享受したのは、政界や軍事などと深く関わった人々でした。ファーウエイの創業者も、元は人民解放軍と深く関わっていたといわれています。その関係が以前どのようなものであったにしろ、国と大企業との関係がネットビジネスにおいても極めて密接であることが、中国のアドバンテージではないかと多くの人が語っています。
カルロス・ゴーン氏の逮捕についても、我々はフランスという国の存在を常に意識します。国がルノーの株主であればなおさらです。そして、トランプ政権下のアメリカでは、国家の利益がグローバルな企業活動より優先され、一度は分断されつつあった国家主導での経済運営へと、大きく舵が切られてゆく可能性は十分にあり得るのです。いかに、ネットビジネスが国策とは無縁の成長を遂げ、グローバルなネットワークに支えられているとはいえ、グローバリズムと国策との綱引きの中で、こうした新興企業が選択を迫られる可能性は十分に考えられます。
2019年~:企業のグローバリズムと国策を見つめる地球市民へ
理想をいえば、企業活動はグローバルであればあるほど、国家権力とは一線を画すべきです。ある中国人の友人が、中国には三権分立による権力同士の監視が機能していないと嘆いていたことがあります。彼は付け加えて、三つの権力の他に、マスコミという監視機能も極めて大切だが、中国ではそれは機能不全に等しい状況だと指摘していました。司法、行政、立法の三権に加えて、報道という第四の権力。そしてさらに必要なのが、企業という五番目の機能。この五つのパワーが自立しながら、お互いを監視できてこそ、社会は健全に運営されるのかもしれません。もちろん、この五つのパワーの土台には国民、あるいは地球市民が主権者として存在しなければならないことはいうまでもありません。
日産の事件、ファーウエイの事件、そして100年前の教訓となったアメリカ金融界と議会による世界平和という理想へのサボタージュ。これらに共通したテーマをしっかりと見据えられるのは、究極の権力を維持している有権者であり、企業にとっては消費者である、我々市民であることを忘れないようにしたいものです。
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『日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)英語力がある人ほど陥りやすいワナとは?!日本人が誤解を受けるメカニズムを徹底的に追求し、最善の解決策を具体的に伝授!欧米をはじめ、日本・中国・インドの大手グローバル企業96社4500名の異文化摩擦を解決してきたカリスマ・コンサルタントによる「英語で理解し合う」ための指南書第2弾!