【海外ニュース】
Kansas authorities say explosives found in a pickup near the State Capitol earlier this week were illegal homemade fireworks.(カンザシシティ・スター紙より)
カンザスシティの当局によると、今週はじめに州政府ビルのそばにとめてあったピックアップトラックの中で発見された爆発物は、違法に造られた花火であったと発表。
【ニュース解説】
今、ロサンゼルスに滞在しています。
今日 (土曜日)、こちらでは、ニュージャージーで行われるホイットニー・ヒューストンの葬儀が新聞の一面を埋めています。でも、目をちょっと地方紙へ移してみると、そこにはこの国らしい話題がいくつもころがっていました。
表題のニュースは、アメリカの真ん中でおきた小さな事件。
しかし、この事件の記事を読んだとき、私は 1995年のオクラホマで、168名の命を奪った連邦政府ビルの爆破事件 Oklahoma City bombing を思い出しました。そして、こうした事件の背景を理解するには、アメリカの conservative (保守) とは何なのかということを知っておく必要があるのです。
日本で、政治的な考え方が right wing (右) だといえば、国威や伝統を讃えたり、天皇制などを賛美したりする nationalism (国家主義) 的な考え方につながる政治的なスタンスを指しています。
では、アメリカではどうでしょうか。
テキサスに、Don’t mess with Texan というスローガンがあります。mess with とは、「おせっかいをする」とか「じゃまをする」というような意味の言葉で、これは「テキサスの人の邪魔をするな」、あるいは「テキサスのことはほっといてくれ」という意味になります。
このスローガンは、もともとテキサスでの路上へのゴミ捨てマナーの向上のためにテキサス州の交通当局が打ち出したものでした。
しかし、ある意味で、この言葉はアメリカの保守主義を象徴しています。
新大陸に入植して、それぞれが土地を耕し、町を造っていったアメリカでは、自らの住む地区の自治を非常に大事にします。州ごとに憲法があり、法制度が異なるように、町単位、コミュニティ単位でも、様々な制度などの違いが見てとれます。アメリカ人のいう freedom、自由とは、こうしたそれぞれの町やコミュニティを自らの判断で運営し、究極は個人の価値をそれぞれに守ってゆこうということを意味しているのです。
Don’t mess with Texan は、テキサスのことはテキサスでという、アメリカ人にとっての freedom を意識したスローガンなのです。
この考え方が先鋭化した場合、それは連邦政府 federal government やアメリカ社会全体に影響を与える大企業などへの憎悪に繋がります。つまり、アメリカでは国としてのまとまりを拒否し、地方、そして個々の価値を極端に強調する人々が右翼とよばれるのです。日本の右翼とは、根本的に異なる発想ですね。
オクラホマで起きた連邦政府ビルの爆破事件は、まさに、そうした極端に保守的な考え方 (ultra conservative) をもった人物が引き起こしました。アメリカのテロは、イスラム諸国から持ち込まれるものより、極端な分権主義者などによって引き起こされる可能性のほうがはるかに高く、連邦政府もそのことを強く警戒しているのです。
大統領選挙で、いつも持ち出されるアメリカ全体をカバーする国民健康保険の必要性の有無、国の法律として銃火器を規制するかどうかという議論などの背景には、自らの町、さらに個人のことを自らが決める権利を守り抜こうという、アメリカ流 freedom の価値観があるのです。例えば、国民健康保険をつくることは、連邦政府の力を強くし、分権主義に抵触するのだというように。
最近、アメリカのこうした価値を強調する Tea Party Movement (ティーパーティー運動) が、共和党の支持母体の一つとして有名になりました。
彼らはオバマ政権の不況下での大企業支援策などに反対し、連邦政府は小さくあるべきだと主張します。小さな政府とは、他の全ての権利は個人や地方にということになります。これがアメリカの保守主義の原点的な価値観なのです。
ちなみに、ニュースの中にある pickup とは、アメリカ人が愛用する小型トラックのことで、農村で自らの生活を守る人々を象徴する自動車として知られているものです。