【海外ニュース】
Jeremy Lin used to star at Harvard, but Boston fans will see a much different dynamic this afternoon when Lin and the Knicks invade TD Garden to face the Celtics.(2012年3月4日付ニューヨークポストより)
ジェレミー・リンはハーバードでもスター的存在。しかし、今日の午後、リンがニューヨーク・ニックスの選手として、セルティックスと対戦するために TD ガーデンに乗り込んできたとき、ボストンのファンは彼が大きく成長した姿をみることだろう。
【ニュース解説】
最近アメリカのプロバスケットボールリーグである NBA (National Basketball Association) で、にわかに脚光を浴びているのがニューヨーク・ニックスに所属するジェレミー・リン。彼は、カリフォルニア生まれで、両親は台湾出身。いわゆる中国系アメリカ人 Chinese American のヒーローとなったのです。しかも、リンはアイビーリーグ Ivy League の名門ハーバード大学の出身。在籍中から大学対抗などで活躍し、その後アイビーリーグ出身者としては珍しくプロに転身。彼が高校時代を過ごしたスタンフォード大学のあるパロアルト市にも近いサンフランシスコのチーム、サンフランシスコ・ウォリアーズからデビューしました。しかし、リンはアジア系の人々からは歓迎されたものの、それほど目立つこともなく、間もなく移籍を余儀なくされます。
そんなリンがニューヨークにやってきて、今年になってユタ・ジャズ戦で記録的な高得点をあげるなどして、にわかに注目されました。
中国本土でも、リンの活躍は大きく報道。例え、国籍はアメリカ人であろうが、中国人の血が流れるリンの活躍は、台湾と中国という政治的な壁も越えて、好感をもたれているようです。
そんなリンが、いよいよ母校のそばの大都市ボストンへと乗り込みます。面白いのが、ニューヨークとボストンのライバル意識。これは、単にバスケットボールだけではありません。東海岸を代表する古都として、この二つの都市は、いつも張り合ってきたのです。
ニューヨーク・ニックス New York Knicks のニックスとは、ニッカーボッカー Knickerbocker という単語を短縮したものです。ニューヨークは、元々ニュー・アムステルダム New Amsterdam と呼ばれていたように、オランダの植民地がその起源で、オランダ系移民が多い場所です。そのオランダ人が着用していた足下をしぼったズボンが、ニッカーボッカーだったのです。ではボストン・セルティックス Boston Celtics はどうでしょう。実は、ニューヨークにも同様の名前のプロバスケットチームが昔はあったのです。ニューヨークもボストンも、 19世紀にアイルランド系の移民が多く入植した町でした。ボストンのあるマサチューセッツ州はケネディ大統領の出身地ですが、彼もアイルランド系。アイリッシュの民族的なルーツとなるケルト (Celt) が、ボストン・セルティックスの名前の由来なのです。
ところで、オランダ人の多くはプロテスタント。そしてアイルランドの人は多くが敬虔なカトリックです。この宗教対立は、ヨーロッパのみならず、アメリカにも持ち越され、後発移民であったアイルランド系の人々はアメリカでは過酷な差別の対象にもなりました。レオナルド・デカプリオが主演して2002年にリリースされた映画、「ギャング・オブ・ニューヨーク」Gangs of New York は、そうした人々が対立する模様を19世紀のニューヨーク舞台に描いたものなのです。
ニューヨークのチームとボストンのチームが、この二つの対立する背景をバスケットのチーム名に据えて、今もお互いにライバル意識を燃やしているというわけです。しかも、今回は、ハーバード出身のリンがニューヨークのチームに加わって、この新聞のいう通り、ボストンに侵入 invade するのです。
ちなみに、今、共和党の大統領候補となっている前マサチューセッツ州知事のロムニー氏は、デトロイト生まれですが、スタンフォードで学生生活をおくり、その後ハーバード大学で MBA を取得しています。ちょっとリンと似た経歴ですが、リンを応援するアジア系やニューヨークの人々の多くは民主党の支持母体。従って、彼らがロムニー氏に投票するかといえば、そうではなさそうです。