ここで日本人が陥りやすい罠を紹介します。あるアメリカにある日本支社でのことです。
その支社に部品を納品している中国のサプライヤーの品質のことで、部下が上司に文句をいいにきました。頼んでいた色よりも、多少薄い色彩のまま納品されたのです。
しかし、上司からしてみれば、部下が最初から密に先方とコンタクトをとって、品質チェックを行っていたのかという課題が、そこにありました。
上司は以下のようにフィードバックしました。
You shouldn’t complain so much. You must have responsible for this issue, too.
(そんなに文句ばかりいうのではないよ。君にも責任の一端はあるじゃないか)
これに対して、部下は大変憤慨します。自分は文句をいっているのではなく、この品質管理向上のために意見を言っているのに何が問題なのだと。
この部下の態度に上司は憮然として、
No. You have to contact them many times before it happens.
(ちがうよ。この問題がおきるまえに、もっと相手にコンタクトをしなければだめじゃないか)
すると部下は、さらに不満そうな顔をして、上司の前を立ち去ったのでした。
さて、ここにどのような問題があったのでしょうか。
まず考えなければならないのは、上司は部下のどの問題に対してフィードバックを行うべきなのでしょうか。
上司が最初に言ったのは、「文句ばっかりいうものではない」という、品質管理とは全く異なる問題点の指摘でした。しかも、ここで、Shouldn’t という断定的な言葉を使用して、相手の行動を非難しています。
日本語をみていただければわかるように、こうした会話は日本では意外に多いのです。しかし、欧米では、まず上司といえども部下に自分の思いを押し付けるのではなく、対等に接しながら、相手がこの問題にどのように対応してきたのかをインタビューすべきなのです。
次に問題なのは、responsibility (責任) という言葉をいきなり持ち出して、部下を批判していることです。そのことが仮に正しいにせよ、いきなりこう厳しきくいわれては、部下は自らの立場を脅かされ、憤慨し、厳しく反論します。
その反論に対して、上司は再び、No といってはねつけ、一方的に部下がしなければならないことを命令します。すなわち、部下からみれば、今回の納品されたものの品質の問題と、今上司が言っていることとの関連が理解できないまま、一方的に自らがなじられていることになるのです。
こうしたやりとりは、英語で行うことの難しさもあって、日系企業の中で頻繁に発生しています。
以下のことに注意しましょう。
- 起こったことに対して、すぐに相手の態度を批判しない。
- 経緯を慎重にインタビューして、今回こちら側には落ち度がなかったかを話し合う。
- その上で、今後同様の問題がおきないこと、さらには今起きていることをどう解決するのか、部下の意見も聞きながら、話し合う。
- 最終的に、会話の中から、部下の対応の方法などでまずかったことがあれば、それが次におきないように対策を話し合い、合意する。
ということになります。
以上の通り、ビジネス上のフィードバックを行うときは、
精神論や、一方的に決めつけるような言葉は控え、
ポジティブ→問題点の指摘→話し合い→合意→ポジティブ
というフロウに従って進めてゆくのです。
ある日本人の上司は、アメリカ人の部下が提出したレポートを自分で訂正して完成させ、充分なフィードバックを与えないままにしたあとで、業績評価などのミーティイングで、
「まだまだだね」
などと曖昧に説明しながら、相手に低い評価を与えたりすることも、多々あるようです。
これは、場合によっては、部下のモチベーションを極度に下げてしまうことになりかねません。
問題点があれば、その都度指摘し、改善を合意しない限り、業績評価での満足のいく部下との合意はあり得ないのです。
これには以下の背景があります。
- プレゼンテーションのときと同様に、多数の異なる背景の人が集まって一緒に仕事をしている欧米の職場環境では、阿吽の呼吸は通用せず、常に言葉でちゃんと説明することが必要であること。
- 上下関係という立場の違いによって、日本のように言葉使いなどが変わるような意識がアメリカには余りなく、部下も上司にはっきりと説明を求め、平等にコミュニケーションしようとアプローチしてくる職場環境があること。
- 上司の背中をみて育ってゆくというような、無言のフィードバックが通用しない環境では、どこがいけないのかということを相手に見つけてもらうにしても、充分な会話と理解が必要で、そこには具体的な指示が常に要求されているということ。
ですから、例えあなたが職場の上司であろうとも、フィードバックの方法を誤ると、相手から逆に落ち度を指摘されたりすることがあるのです。
これを日本人の上司は、「あいつらはすぐに言い訳をする」と捉えて、今度は感情的に相手に接したりするものですから、状況はさらに悪化してゆくのです。
最近では、部下が上司に対してフィードバックを行い、上司のマネージメントの足りないところを補ってもらったり、同僚同士でフィードバックを交わし合ったりすることで、組織の質を交渉させようという動きも頻繁です。
ある意味では、部下にフィードバックを行うときは、自らも今後のためにフィードバックを部下からもらうのだという意識も持っておけば、より積極的な問題解決ができるはずです。
See you!!
* * *
『異文化摩擦を解消する
英語ビジネスコミュニケーション術』
山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著)
IBCパブリッシング刊
*山久瀬洋二の「英語コミュニケーション講座」の原稿は本書からまとめています。文法や発音よりも大切な、相手の心をつかむコミュニケーション法を伝授! アメリカ人のこころを動かす殺し文句32付き!