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ムンバイのトイレ論争が語るもの

【海外ニュース】

In Mumbai, a battle over toilets for women
“We all feel that is a basic civic right, a human right,” said Minu Gandhi, a social advocate.
(International Herald Tribuneより)

ムンバイで女性用トイレをめぐる紛争が
これは基本的な権利、人権の問題ですと、社会運動家のミヌ・ガンディはコメントする

【ニュース解説】

シンガポールから羽田への機上でこの新聞を読んだとき、あの灼熱の大都会ムンバイの混沌とした喧噪とエネルギーが瞼の中によみがえりました。
2000万人を越すのではないかと思われる人の住むムンバイ。そこは、単に貧富の差が著しいというだけでは言い表せない深刻な社会問題を抱えています。一方で、この街はハリウッドを模してボリウッド Bollywood と呼ばれるインドのエンターテインメントビジネスの中枢であり、経済的にもインドを牽引する商業都市です。この繁栄の光と闇の醸し出す混沌が、この街の特徴なのです。

ムンバイの玄関口であるチャットラパティー・シヴァージー国際空港に着陸するとき、その横に広がる巨大なスラムが見えてきます。ダラービ Dharavi と呼ばれる地区で、スラムの規模では世界でも最大級。ここで繰り広げられる人間ドラマを起点にして 2005年にヴィカス・スワラップ Vikas Swarup 氏が発表した小説Q&A「僕と1ルピーの神様」は有名です。この小説はその後 Slumdog Millionaire「スラムドッグ$ミリオネア」として映画化されました。

以前、日本へ帰国するためムンバイの空港に向かう途中、余った小銭をそのままにしておくのはどうかと思い、お寺に集まるホームレスの子供に渡したことがありました。10歳にもなろうかという男の子が全裸でそこに立って物乞いをしています。一人に与えると、多くの同じ境遇の人たちが群がってきます。そこで、車をとめて、その側にいた数人の子供に急いで小さな善意をと思ったのです。

後でドライバーが言いました。あの子はまだ5体満足なだけましなほうだと。彼らを意図的に傷つけて、哀れみを請わせようとする親やギャングがいて、きっとあの子がもらったお金もそうした所に巻き上げられるのではとのことでした。「僕と1ルピーの神様」の話は本当のことなのです。

この記事では、そんな急激に膨張するムンバイにトイレが足りず、特に女性用の公衆トイレが不足し、かつ有料であるということが報じられています。いかにもムンバイらしいトピックのためか、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの一面に大きく掲載されていたのです。

記事の上には Shivaji Nagar と呼ばれるムンバイのスラムにある公共トイレの写真。それはトイレというか、汚れた水場に突き出た粗末な小屋。Open toilets built by residents of Shivaji Nagar, a slum in Mumbai. A social campaign argues that charging women but not men to use public toilets amounts to discrimination.(ムンバイのスラム、シバジ・ナガールに住民が建てたトイレ。こうした公共トイレで、男性は無料で女性にのみ使用料金をとることは差別になると抗議の声が)というキャプションがつけられています。
ムンバイの公衆トイレの数は、男性用 5993件に対し、女性用は 3536件。しかしその多くが暗く不衛生。女性には危険でもあります。首都ニューデリーの状況はもっとひどく、女性用は 132件のみ。

実は、インドでは今でも多くの人々が、空き地や草むらで用を足しています。そんな光景を早朝の長距離列車の車窓から見て、びっくりしたことを覚えています。これは急激に経済成長をするインドでインフラ設備が追いつかないというアンバランスを象徴する事象といえましょう。

2050年、インドは世界一の経済大国になると予測する専門家がいます。そのとき中国は2位、アメリカが3位。日本はインドネシア等に抜かれて9位とのこと。その予測はさておき、現状のインドの抱える矛盾、そしてエネルギーはそれが深刻であると同時に、不思議と人を魅了します。

社会が急激に発展するとき、その矛盾が丁度子供の知恵熱のように、激しく発熱します。熱に焼かれる犠牲者が少しでも少なくなるよう、成長か伝統かに悩むこの国の状況に注目しているのは私だけではないはずです。

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