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アジアは混沌の年からどう変化してゆくか

【海外ニュース】

Reform in Myanmar slow to trickle down.
ミャンマーでは貧困層の救済が思うように進まず
(インターナショナル・ヘラルド・トリビューンより)

ASEAN meets amid tensions.
ASEAN 諸国は緊張の中で会合
(コリアン・タイムズより)

【ニュース解説】

2つの見出しから、我々は日本を含めたアジアの様々な現状を読み取ることができます。
この2週間、アジアでは大きな出来事がいくつもありました。
中国では第18回中国共産党大会で、習近平氏による新体制が事実上発足しました。そして韓国でも、12月の大統領選挙に向けて政治的なうねりが起きています。また日本も総選挙です。

今週開催された ASEAN サミットに日本、中国、韓国を加えた総会は、こうした未来が見えない混沌たる過渡期に開催されました。しかし、それだけに、多くの課題に対して、何も踏み込めないアジアの現状が、さらに浮き彫りにされた会合だったようです。amid tension (緊張のまっただ中) という英語表現は、そうした有様を示しています。

一例は、ASEAN の抱える課題の一つである南シナ海の主権 sovereignty の問題。最近この地域の実効支配を目論み、主権を主張する中国に対し、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、そして台湾などが厳しく対立。しかし、その対立を ASEAN がどう処理するかとなると、カンボジアなどの中国との同盟を強調する国の意図もあって、統一歩調がとれません。カンボジアの場合、伝統的に隣国ベトナムの脅威を意識するが故に、ベトナムと対立する中国との連携を図ってきたからです。

また、尖閣諸島の問題を巡って中国と対立する日本はというと、そうした国々との領土問題での連携というしたたかな外交手腕を発揮できないばかりか、台湾とも尖閣諸島の問題では対立しています。しかもアジア諸国からみるならば、領土問題で日本と連携することに、第二次世界大戦の暗い影を感じてしまい、逡巡を禁じ得ません。

では、今回の ASEAN で初めて採択された人権擁護 human rights protection についての宣言はどうでしょうか。権力による言論や人権の抑圧を払拭することが、アジア諸国が本当に先進国の仲間入りをするために無視できないステップであると言われてきたことから、こうした宣言が採択されたのです。
しかし、今回の人権宣言も形だけのものだったと、人権団体からは非難囂々です。というのも、例えば、ベトナムのように、国が言論を抑制しながら自由経済を導入している中国型のシステムをとっている国もあれば、フィリピンのように、実際に民主化を押し進めている国もあり、国によって状況が様々なために、統一した宣言を産み出せないのです。

人権問題といえば、民主化が進むミャンマーが注目され、オバマ大統領もその動きを支援するために、ミャンマーを訪問したことが話題になりました。しかし、このヘラルド・トリビューンの見出しにあるように、経済的な混乱と、さらにイスラム教徒と仏教徒との対立による流血事件がおきるなど、まだまだミャンマーが安定軌道に乗ったとはいいきれません。加えて hierarchical military habit of government employee (軍事政権時代の縦社会の構造の影響を受けた政府官僚) が、ミャンマーの市場の解放を疎外していると、同紙は解説します。
こうした国家間の様々な事情の相違が、ASEAN では常に一つ一つの課題を共同のテーブルで処理してゆく障害となってきたのです。

さて、ここで、見出し語にある trickle down という言葉に注目しましょう。
trickleは、「滴り落ちる」ことを意味する動詞ですが、経済用語での trickle down といえば、「富裕層を保護することは、貧困層をも経済的に助けてゆく」という考え方を示すもので、富める者が元気であれば、その雫が貧困層にも落ちてくるということからきている言葉です。

ASEAN 諸国内の貧富の差、さらには中国、韓国、そして日本という富める周辺国と ASEAN という新興国との図式を考える中でも、この用語の主旨の是非が今問われているわけです。
しかも、ASEAN の多くの国からみるならば、中国は脅威、韓国は未知数、そして日本はリーダーシップなしという状況で、結局のところ、米中両国構造の中でいかに生き抜くかというクラシックな課題の中に身を置かざるを得なくなるのです。アメリカの影響を受けながらも、あまりにも近くにある大国中国とも、なんらかの関係維持が必要であるというのが、彼らの本音です。

日本との経済関係が日々強化される東南アジアですが、この地域の複雑な政治、宗教、人種の背景については日本ではあまり報道されてはいないようです。

イスラム教、仏教、ヒンズー教など多彩な宗教に加え、マレー系、中国系、インド系、さらには数えきれない少数民族による人種の坩堝でもある同地域の人口は6億人。今後これらの地域の発展こそが、日本経済の将来にも大きな影響を与えるようになるはずです。是非我々も、もっと深い知識をもってこの地域の行方をみてゆきたいものです。

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