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自動車業界にみるリスクが当たり前の時代の生存競争

The big uncertainty for the car industry is how long it would take for consumers to adopt the range-extended EV option — and how long they would want this transitional technology before they were ready for pure EVs.

(自動車業界にとっての大きな不確定要素は、消費者が航続距離延長型EV〔レンジエクステンダーEV〕を受け入れるまでにどれだけの時間がかかるか、そして純粋なEVに移行する準備が整うまでに、この過渡的な技術をどれほど長く求めるかという点です)
― Financial Times より

異常な状態が“通常”の世界で多様な戦略を模索する

 アメリカとイランとが本格的な戦争をはじめたことは、世界に2つの大きな流れをつくりました。その2つとは、アメリカ一極集中への懸念によるそこからの脱皮の動きと、エネルギー供給を多極化する必要性への緊急な対応です。
 
 今回は、エネルギー問題と日本企業というテーマについてまとめてみましょう。
 そもそも、トランプ政権になって以来、地球温暖化などの環境問題やそれに伴うエコな世界を求めた社会の動きに大きなブレーキがかかりました。
 その結果、アメリカでの自動車のEV化が大きく減速したことで、日本の自動車産業も少なからぬ影響を受けました。
 EVの開発に全社を挙げて取り組んでいたホンダが大きな損失を計上し、ソニーとの提携を大幅に見直し、EV車開発が減速したことが報道されました。
 この報道を受けて、業界の動向に詳しい関係者は、トヨタとホンダの戦略における違いに注目し、これはハイブリッドや水素エンジンの開発など、EVと共に多様な商品開発を行なうことでリスクヘッジをしていたトヨタの勝利だと解説しました。ホンダはEVに一極集中したことが敗因だったというわけです。
 
 今、イラン情勢の先行きが見えない中で、アメリカやイスラエルの一挙一動で株価や石油価格が乱高下しています。2001年にアメリカ同時多発テロ事件が発生して以来、異常な状態が続くことが普通になってきました。したがって、どのような事態にも対応できる多様な戦略を同時に遂行することで、リスクヘッジを行なってきたトヨタの戦略は評価できるかもしれません。
 
 そして、今回のイラン情勢によって、単に石油の供給源の一極集中がもたらすリスクのみならず、我々の生活がいかに石油に頼っていたかを改めて思い知らされました。いうまでもなく、ガソリンに限らず、ペットボトルをはじめ、日常生活に関わるさまざまなものが石油なしでは生産できず、機械も稼働しない現実を突きつけられたことになります。政府も慌ただしく石油の新たな調達先を探し、代替エネルギーの再活用の模索も始まっています。
 

ハイブリッド車、EV車、そして自動運転車へ

 こうした状況の中で、我々は改めて生活とエネルギーの問題を冷静に見つめる必要に迫られているのです。
 そこで、トヨタが開発を進めるハイブリッド車に焦点を当ててみます。
 
 まずは、EV車は本当に省エネや脱石油に貢献できるのか、というところから見ていきます。EV車は電気で走る以上、電力に頼り発電ができなければ走行は不可能です。かつ、EV車の機能の多くはAIによってコントロールされているため、AIを稼働させるための電力消費にも影響を与えることになります。
 しかし、それらを全て加味しても、通常のガソリン車よりは数十パーセントの化石燃料の節約になるというのが定説です。
 ただ、EV車は頻繁に充電が必要です。それは、EV車を走行させるためのセンサーや、AI機能の活用のために必要な電源を車のメインバッテリーのみから獲得しているからです。
 
 それと比較したとき、ハイブリッド車の場合は、燃費効率を最大限に上げて、同時に車体の軽量化にも成功しています。このことで、EV車とほぼ同じ程度、あるいはそれ以上の化石燃料の節約が可能になっているわけです。
 しかし、今後電力の供給源が石油ではなく、風力や太陽光に変わっていけば、そうした機器に使用される部品に石油は欠かせないとしても、大幅な燃料の節約になるはずです。しかし、技術的にEV車がこれらの電力源だけに頼るには、まだまだ時間がかかるというのが現実です。
 
 さらに、トヨタが開発を急ぐ水素エンジンの場合は、もし水を電気分解することによるエンジンの稼働が効率化されれば、大幅なエネルギーの節約につながりますが、ここに至るまでの技術革新はまだ完璧な段階ではないといわれています。仮に、水素を液化天然ガスなどから生成する現在の方法を継続した場合は、当然そこに化石燃料を使用することになるのです。
 
 そして、こうした試行錯誤を続けている間に、EV車やさらにその延長にある自動運転車の開発とその効率化が進んでしまえば、トヨタの新技術への莫大な投資を含め、自動車業界全体の巨大なパラダイムシフトがおきてしまいます。その結果、中国やアメリカが進めている自動車は、自動車ではなくAIと結合した生活用品という考え方が大きな波となって日本の自動車業界をのみ込む可能性もでてくるのです。特に、国と企業が一体となって世界に挑む中国の戦略は、日本企業にとっては脅威そのものでしょう。また、今回のヘッドラインで紹介したように、中国やヨーロッパで開発されている航続距離延長型の電気自動車は、車の中に発電専用の小さなエンジンを搭載したEV車で、ハイブリッド車に対抗して、安価に走行できる車として市場に割り込んできています。
 
 ではこうした流れの中で、ホンダは今後大きく後退してゆくかといえば、それはそれでさまざまな可能性が残されています。
 ホンダの場合、社内に膨大な先進技術を温存しています。かつ、創業者の本田宗一郎氏以来、何度も存続の危機を乗り越えながら社業を拡大していったという粘り強く、イノベーションに貪欲な社風があります。
 ホンダが、ここになってソフトバンクやNECとの関係強化に舵を切ったことも、そうした社風が背景にあるのかもしれません。
 

メーカーと金融界との柔軟な経営構造づくりを

 イラン情勢や、世界を見舞う多数のリスクを考えたとき、トヨタの戦略か、ホンダの社風か、あるいはアメリカや中国の先端技術か、といった比較をついついしがちになります。
 ただ、例えば、株が乱高下したときに、パニックになって売り買いに奔走することが愚かな行為といわれているように、自社の戦略をしっかりと背骨において、それを頑固に追い求めながらも、同時に状況に応じた柔軟性を備えた企業経営が今後は求められるのかもしれません。
 
 こうしたときに、株主となる金融界の意識変革も必要です。早急な投資効果を意識して、その時々の事情に左右され優柔不断な戦略を企業に押しつけないよう、金融界も気をつけてゆく必要があります。
 
 ものづくりをする企業と、資金を投下する金融界との意思疎通を、今まで以上にしっかりと構築し、一喜一憂することのない企業構造をつくっていくことも、「リスクが通常」となった世界の中では、必要とされることなのではないでしょうか。
 

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『ティファニーで朝食を(IBC洋書ライブラリー)』トルーマン・カポーティ (著)ティファニーで朝食を(IBC洋書ライブラリー)』トルーマン・カポーティ (著)
アメリカの作家トルーマン・カポーティによる中編小説。ニューヨークを舞台に、美しく魅力的で自由奔放に生きる女性ホリーを描き、著者の名声を不動のものにした名作。オードリー・ヘプバーン主演で映画化された。原文のまま名作の内容を余すことなく味わえるよう、【作品解説】【章ごとのあらすじ】【ページごとの要約】【巻末のワードリスト】で英文読書を強力にサポートするシリーズ、IBC洋書ライブラリーで海外文学の名作を楽しもう!

 

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