ブログ

アメリカ経済「アメリカは財政危機を乗り切れるか」

【海外ニュース】

GOP Makes Counteroffer In Cliff Talks
(ウォール・ストリート・ジャーナルより)

共和党は、財政の崖の論議の中、対案を提出

【ニュース解説】

チャーリーは、最近になって、以前離婚した妻に対して、養育費の金額のカットを求めた裁判をおこしました。
チャーリーが離婚したのは、リーマンショックの前。当時は仕事も順調でした。しかし、リーマンショックで失業し、その後長い間再就職先も見つからず、最終的に得た仕事も、以前の半分の収入となっていたのです。
これでは、昔約定した慰謝料も、子供への養育費も支払えません。
彼は私の友人ですが、こうしたケースはアメリカではごくざらにあるといっても過言ではないのです。

このごろ財政の崖という言葉をよく耳にします。
英語で財政の崖は Fiscal Clifffiscal とは文字通り、「財政の」という意味の形容詞。例えば会社などの財務年度は英語では fiscal year となります。
Fiscal Cliff がどういうものかについては、既に日本の各紙も報道しています。具体的には、ブッシュ減税 Bush tax cuts と呼ばれたジョージ・W・ブッシュの時代の景気刺激策による事件立法の期限が 2012年末で次々に到来し、一気に従来の法律に戻るため、実質上の増税と歳出カットが行われ、景気に冷水を浴びせることになるというのが、Fiscal Cliff の意味するところです。
もちろん、チャーリーにとっては気になるどころの話ではありません。

アメリカは、日本がバブルに浮かれていたレーガン政権の頃に、大幅な財政赤字 budget deficit に転落しました。
当時、これに加え、貿易収支も大きな赤字であったため、人々は双子の赤字 Twin deficit とそれを呼び、アメリカの経済危機への懸念が広まりました。
しかし、この課題は、クリントン政権の時、財政面での黒字化を達成したことで一段落したかにみえました。とはいえ、クリントン政権下でも貿易収支は黒字化できず、そのあと政権を引き継いだジョージ・W・ブッシュの時代に、状況が一気に悪化したのです。アフガニスタンやイラク戦争での出費の増大に加え、ITバブルの崩壊による税収の減少などで、国の収支が再び双子の赤字に転落してしまったのです。
そうした逆境の時代にジョージ・W・ブッシュのとった政策は、いかにも共和党らしいものでした。すなわち、景気が悪いときにあえて減税をして市場を刺激しようとしたのです。ところが、この政権の末期にアメリカを見舞ったリーマンショックは、そうした刺激策をあざ笑うかのように、アメリカ経済をどん底に追い落としたのでした。チャーリーのようなケースが無数に発生したのです。

共和党のことを GOP、すなわち Grand Old Party と人々は呼びます。このことからも、この党が保守色の強い党であることは理解できると思います。
アメリカの保守は、アメリカの原点である自由を最大限に享受できる国づくりをビジョンとしています。経済政策では自由経済によって国の活力を維持しようというもので、それゆえに共和党は国が経済活動に様々な規制をかけることを嫌います。彼らが増税に反対する理由も、そこにあるのです。

対して民主党は、自由経済の暴走を懸念し、それを国の力で抑制することも必要だと主張します。
例えば、Fiscal Cliff には、大幅な増税を食い止める代わりに、富裕層への更なる課税を立法化することによってこの問題を乗り切ろうとし、大統領選挙でもそうした政策の実施を訴えました。共和党はもちろんこれに反対。実際、ブッシュ減税では、オバマ政権の主張とはまったく逆の累進課税 progressive tax の最高税率を引き下げることで、富裕層に有利な大幅減税を実現していたのです。

今回の共和党の対案は、8000億ドルの増収を目論み、そのために老齢者の医療保険である Medicare への支出を、加入年齢を引き上げるなどで事実上大きく削減し、厚生年金にあたる Social Security の支給額も抑制していこうというもの。
これもある意味で全ての国民が医療保険に加入するための法案をやっとのことで可決させたオバマ政権への当てつけとみられても仕方なく、この提案を民主党が受け入れるとは思えません。
The immediate Democratic reaction was dismissive. 同紙はそのように表現しています。dismissive は、「一顧だにせずはねつける」というような強い拒絶を意味する言葉です。従ってこの文章は「民主党は即座に拒絶」という意味になります。しかし、下院は共和党が過半数を握っているため、民主党もただつっぱねてばかりというわけにもいきません。
このまま両者が歩み寄らずに、議会がねじれたまま年末を過ぎれば、Fiscal Cliff という崖をアメリカ経済は転げ落ち、ユーロ危機に続き世界経済にも大打撃ということになりかねません。今後、両者がいかに歩み寄ってゆくか、余談を許さない状況が続いているのです。

アメリカに無数にいるチャーリーのような中産階級の悲痛な叫び。それは、政治的対立を乗り越えて、大局から判断して、なんとしてもこれ以上の経済難を招かないようにして欲しいというもの。政争の具にして政策進まずとならないようにして欲しいのは、日本だけではないようです。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP