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価値は様々、評価も様々。世界でおこる逆転現象

「いえね。私はできるだけ相手との人間関係を大切にしたいんです」

それは、ある日本人が、相手とのビジネス上の摩擦を回避しようと私に相談にきたときのことでした。

「だから、なんとか穏便に済ませたい。あなたから口添え願えませんか」

彼は、交渉中のアメリカ人の相手が自分の真意を誤解しているのではないかと疑っていました。

「どうも、相手のメールのレスポンスのテンポが遅いんです。こちらから提案をしたのですが、既に3日待たされていて。おそらく、前回の相手の提案にこちらが難色を示したことで、相手は熱意を失ったのではないかと気になるんです。こちらとしては、彼の提案にあったスケジュール感は余りにも早急なので、ただ調整したかっただけなのですが」

海外との交渉。特にメールなどでの打ち合わせは、それでなくても慣れない英語を使わなければならず、苦労するものです。
彼は、慣れない英語での返信が相手に誤解を与え、相手は交渉への熱意を失ったのではと気にしているのです。

「確かに私は彼のことを知っています。でも、ここで私が間に立つのはよいことではありませんよ」

「え、なぜですか」

「欧米の人とのやりとりでは、問題があったと思えば直接率直に相手に問い合わせるのがマナーなのです。いきなり第三者の私が入ってくると、いったいこの人は何を考えているのだと思われてしまいます。日本では共通の知り合いを介したりして、正に口添えをしたりしますよね。でも、それは日本人独自のコミュニケーション文化で、それでは相手との信頼関係は構築できないんです」

「そうなんだ。日本では人間関係をしっかりと活用した方が、相手との信頼関係がうまくいくものなのですが」

「信頼」という概念。表し方も、勝ち取り方も文化によって違います。
日本流の「人を介して」とか、敢えて相手との信頼関係を重視して本音での発言を控えるといった行為が、個人のパフォーマンスにより重きをおく欧米の人の目には、自分への信頼の意識の欠如、敬意を払っていない証拠と映ります。

「じゃあどうすればいいのですか?」

「例え英語力に問題があっても、しっかりと努力して自分の言葉で相手に疑問点などを伝えればいいだけのことなのです。もう3日待っているけど、メール受け取ってる?という風に、直截に懸念を表明しましょう」

「英語が下手でも」

「そう、さらに過去のことで誤解があったと思うなら、こちらとしては決裁までの時間が必要ということを率直に伝え、プロジェクト自体にはとても興味を持っているということを、再度強調すればいいのです。」

「なるほど」

「大切なことは、あなたの顔が見えていることです。顔がはっきりと見えている限り、相手はあなたにちゃんと対応してきます。人を介したり、あいまいなままにすませたりしておくと、あなたの顔自体が見えなくなり、逆効果です」

「じゃあ、下手な英語で相手に話しかけるとき、気をつけなければならないことはあるのでしょうか」

「一つだけあります。それは、相手を批判しないことです。常に相手のリアクションに感謝の気持ちを持ちましょう。批判するのではなく、どのようにすれば改善できるかというスタンスで打ち合わせを続ければいいのです」

「でも、それって複雑ですよね。私の英語力ではどうも」

「大丈夫。自分で全部解決しようとせず、相手に質問をして、提案をさせて、ボールをどんどん相手のコートに返してゆくのです。あなたが全部を抱え込もうとすると、英語力の壁にぶつかってしまいます。だからこそ、相手の力を利用し、相手に敬意を表しながら時には提案してもらうのも戦術なのです」

そこから、私はロールプレイを通して、この問題をいかに解決するか研修をしたのです。
信頼とか責任、安心とか義務などといった、人間の行動規範を規定する言葉は万国共通の理解の上にある言葉かといえば、そうではありません。文化ごとにこうした概念に該当する行動規範は大きく異なるのです。
例えば、日本人にとっての責任感と、アメリカ人にとっての責任感とではその表現方法が大きく異なります。
さらに、コミュニケーションという言葉を取り上げるなら、日本語でのコミュニケーションは、一人一人が会話をしっかり所有します。つまり、一人の人が話しているときは、その人が話し終わるまで、聞き手は割り込んできません。その人が会話を所有できるのです。しかし、英語では、一人が話しているときに、どんどん相手はリアクションを送り、相互で会話を共有します。わからなければ相手の話の途中でも遮って、確認をいれたりといった、正にインターラクティブな相互コミュニケーションが求められます。

「メールでも会話と同様、相手とインターラクティブに交流するノウハウが求められます。できるだけカジュアルにキャッチボールを続けることが大切なのです」

「フーム。カジュアルなキャッチボールですか」

「わからないときは、わからないと率直に言い、英語で表現できないときは、時間をもらってしっかりとした作文をして相手に送りフィードバックをもらうとか。そんな臨機応変な気軽さをもつことが、カジュアルなキャッチボールの意味するところなのです」

その後、彼は気を取り直して、自らの顔がみえるように積極的にメールでのコミュニケーションを始めました。
スペルを間違い、文法のミスがあっても、それには構わず、どんどん相手に語りかけていったのです。
それをみた相手も、できるだけわかり易い英語で、コミュニケーションをしてくるようになり、仕事もスムーズに。
彼が英語がわからないとき、簡単な英語にしてくれと率直に依頼したのがよかったのです。

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