“The road to success is not easy to navigate, but with hard work, drive, and passion, it”s possible to achieve the American dream.”
「成功への航路は困難がつきもの。しかし、賢明に働き、仕事をマネージし、情熱を持っていれば、アメリカンドリームを達成することはできるはずだ」
― Tommy Hilfiger(アメリカの起業家)の言葉より
アメリカに出張しています。 こちらに来て飛行機の窓から下を見ると、いつも広大な大地に走る高速道路や貯水池、そしてその脇にブドウの房のように人工的に広がる住宅地などが目に留まります。 特に、西海岸は開拓されて200年も経っていません。すでに3億2千万人を超える人口を有するアメリカは、これからも移民政策が大幅に変わらない限り、先進国の中でも人口が増え続け、その人口比に比例して経済も堅調であると言われています。
移民の力で成長を続ける経済大国・アメリカ
確かにアメリカには広大な大地が残っています。その多くは地価もまだ安く、開拓されて以来さほど人口も増えていません。アメリカ市民の出生率は1.8人ということなので、それだけだと人口は減少傾向にあるはずで、こうした地方都市が全米に拡散しているのも現状です。そんなアメリカの人口増加を牽引しているのが、言うまでもなく移民パワーなのです。移民によって、アメリカの人口は驚異的に成長したといっても過言ではありません。 なんとアメリカの人口が2億人を超えたのは、1967~68年にかけてのことです。そして、2000年の段階では2億8000万人強だったのです。この19年ですら4000万人以上の人口増加があったことになるわけです。ということは、この多くが新生児ではなく移民だったということになります。
広大な土地が残り、人口が増え続けているとなれば、当然産業が育成され消費も伸び続けます。貧富の差や地域での経済格差が広がっているとはいうものの、IMF(国際通貨基金)の統計によれば、GDP(国内総生産)を総人口で割った一人当たりのGDPではアメリカは世界10位を維持していて、世界28位の日本とも大きく水をあけています。これを世界で最も人口の多い中国と比較してみると、さらに面白いことがわかります。 中国は世界2位の経済大国であると言われますが、一人当たりのGDPは日本の半分以下で、世界でも73位に甘んじています。まだまだ豊かではないのです。 しかも、中国の場合、最近まで実施してきた一人っ子政策の影響に加え、富裕層が増えたことで出生率が極度に低下し、これから貧しい人々が膨大な老齢者を支えなければならなくなります。これは、日本や韓国に対しても指摘されている未来の課題以上に重大な問題かもしれません。 さらにインドのように、経済成長がまだまだゆっくりしているにも関わらず、人口が極度に増え続けている国も多くあります。 それに反して、人口増加が低い国は、日本のように移民への門戸が狭く、膨大な人口増加に苦しむ第三世界の人々への受け入れ口にはなりにくいのです。
トランプ政権によって、大きく移民政策にメスが入っているとはいえ、アメリカはそうした苦しむ国々からの移民の受け入れ口であることには変わりないのです。 こうした根拠から、アメリカはいまだに極めて高い将来性を維持した国家であるということがわかってきます。 飛行機の窓の下に広がる光景は、人が自然を変え、征服してゆくことを国是としてきたアメリカの姿に他なりません。であればこそ、経済成長が続くアメリカの課題は、むしろ自然との共存をいかに進め、移民による多様な社会をいかに前向きに育ててゆくかという課題に集約されるのです。
多様性の広がりと共に志向を変えてゆくアメリカ人
ここで、「キリスト教を卒業したアメリカ人」というテーマに触れましょう。
歴史的に見ると、アメリカはヨーロッパでの迫害を逃れて海を渡ってきたプロテスタント系の人々が中心となって開拓した国家です。 そこに、カトリック系や様々なキリスト教の分派に属する人々、さらにはユダヤ系の人々がヨーロッパから流れてきました。 彼らは自らの宗教にこだわり、そのライフスタイルをしっかりと守っていた人々でした。 しかし、科学が進歩し、産業が発達すると状況が一変します。特に60年代から全ての人種や移民に平等の政治的権利を付与する公民権法が施行されて以来、宗教観による市民同士の軋轢がどんどん減少してきました。この世代以降、教会に通わない「元キリスト教徒」や「元ユダヤ教徒」とも言える人々が増えてきたのです。 私の友人も、親は熱心なプロテスタントだったものの、自分は一切宗教とは関わりがないという人がほとんどです。彼らこそが、シリコンバレーなど都市部の先端産業を担う人々の中核なのです。多様性が拡大すればするほど、この「キリスト教を卒業したアメリカ人」が増えてきます。
トランプ政権の支持層は、こうした新しい社会に対して危機感を抱く伝統的保守層に属する人々であるといっても差し支えありません。彼らはいまだにアメリカ市民の中核であるといっても過言ではないのですが。 とはいえ今後、「キリスト教を卒業したアメリカ人」がどのように増加し、世界の多様な価値観と融合してゆくのか、それとも、いわゆる伝統的保守層の揺り戻しによって社会全体が閉塞してゆくのかは、未知数です。しかし、少なくとも30年というスパンで見るならば、伝統的保守層との人口比率も大きく変化してくるはずです。すでに、いわゆる白人系の人口を非白人系の人口が上回ろうとしている事実も忘れてはなりません。
では、そんなアメリカのリスクはどこにあるのでしょうか。 それは、変化を受け入れ、それを積極的な価値観としてきたアメリカ人の行動パターンそのものにあると言えます。 よくアメリカ人を「反省をしない未来志向病」にかかっていると批判する人がいます。 移民や開拓者の精神に支えられたアメリカでは、状況をどんどん変化させ、新しくしてゆくことへの躊躇が、日本などに比べて実に少ないのです。 これはアメリカの強みでもあります。しかし、その強みというコインの裏側に、彼らのアキレス腱が潜んでいることも忘れてはなりません。 そんな世界に対して躊躇なく自らの価値観をもってチャレンジするアメリカが躓いた典型的な例が、ベトナム戦争やリーマン・ショックだったのです。
技術革新に余念のない新しいアメリカ世代が生み出す社会が、あまりにもAIに頼り、利便性やデータ管理に依存しすぎた場合、それは未来の人類そのもののあり方にも大きな影響を与えてしまいます。自然との共存の課題も然りです。 人類の力で何でも可能になると思うアメリカ人のたくましい意識が裏目に出ないよう、国家レベル、さらには世界レベルで見つめてゆくことが人類全体にとって大切なことになっているほど、これからもアメリカは成長を続けるのではないでしょうか。
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『英文快読 アメリカ歳時記』ニーナ・ウェグナー(著)、高橋早苗(翻訳)コンパクトにまとめたやさしい英文に、語注ルビと日本語訳がついているから、ビギナーでもストレスフリーでスラスラと英文が読みこなせる!英文多読初心者におくる英文快読シリーズ。祝祭日と年中行事から見る、アメリカの歴史と文化。アメリカで公式に認められている11の「連邦祝日」にスポットライトを当て、詳しく解説。アメリカという多彩な文化に彩られた大国の歴史と文化を、身近に感じながら学べる1冊間違いなしです。