【海外ニュース】
President Obama was poised to order the ban in response to a deepening diplomatic crisis over reports that the National Security Agency had for years targeted the cellphone of Chancellor Angela Merkel of Germany.
(ニューヨークタイムズより)オバマ大統領は、国家安全保障局が長年に渡ってドイツのメルケル首相の携帯電話を盗聴していたことから拡がる外交上の深刻な波紋に対処するため、そうした行為の禁止を命ずる模様
【ニュース解説】
ヘッドラインの中の poise という言葉は、[バランスを保つ]や[意思を決める]という意味の動詞です。
オバマ大統領は、今まさに「バランスと対立」Balance and conflict をどうハンドルするかという決断に苛まれています。
外交問題の解決には、対立するものをいかにうまく使い、処理しながらも全体としてお互いに win-win となるバランスの維持への配慮が大切です。今回そんな対立が同盟国との間に生まれたのです。
自らの行政府が機能停止に追い込まれ、それが世界経済の中でのアメリカの信用問題にまで拡大しそうなときに、今度は元アメリカ国家安全保障局に勤務していたスノーデン氏の情報漏洩に端を発したスキャンダルが、別の意味でのアメリカの信用失墜へとつながりそうなのです。
5年前、Change をスローガンに、華々しくアメリカ合衆国第44代大統領となったオバマ氏。しかし、彼の最初の仕事は前任者ブッシュ大統領の残した負の遺産との闘いでした。
外交では、イランやアフガニスタンでの泥沼化した闘いを、いかに終息させてゆくか。
経済では、リーマンショックで露呈したアメリカ流金融メカニズムの破綻をどう処理し、景気を上向けるか。
そして内政では、ネオコン Neoconservatism の時代といわれた、ブッシュ政権8年の「強気のアメリカ」が産み出した格差社会への治癒という課題。
それらの課題に翻弄されている時に、外交では中東の友邦エジプトに争乱がおき、シリア情勢が混迷します。中国やロシアはそうした混迷を目視しながら、影響力の強化に必死です。
経済では、ヨーロッパ経済の不安要因に加え、欧米全体の経済力の低下への妙薬は見いだせません。
そして内政では、格差社会の落とし子ともいわれる保守と革新の激しい対立が、共和党をして、議会を通してオバマ政権の機能を麻痺させてしまいました。
これら全体がアメリカという国家の世界での影響力に陰を落としています。ふと振り返れば、アメリカがくしゃみをすれば肺炎になるといわれた中南米にも、反米政権、そしてアメリカと一定の距離をおく政権が誕生しました。アジアでは中国が、東南アジア、東アジアでのアメリカの権益そのものを脅かしつつあります。
オバマ政権は Change のスローガンで過去の負の遺産とあらがいながら、このように変化 (Change) が起きている世界への対応に追われたのです。
そんなオバマ政権にとって、スノーデン氏のリークに端を発したアメリカの盗聴問題は、まさに泣きっ面に蜂でした。同盟国の足並みすら揃えられなくなったアメリカの崩壊は、逆の当事者であるドイツやフランスなどにとっても深刻な問題。西側諸国を巻き込んで Balance and conflict を巡る外交での応酬が当分続きそうです。
アメリカがいわゆる友邦を相手に諜報活動を行う理由。その多くが経済上のニーズに他なりません。
政治では同盟関係、経済では競合相手という現在の国際社会の複雑な利害の絡み合いがこうした諜報活動を促進させます。さらに、同盟関係にある国々が、中東問題、中国やロシアとの関係でどのようなスタンスを持つのかは、アメリカが欲する大切な情報です。
ただ、問題は、こうした諜報活動を行ったことで英語でいう Trust を損なったことです。Trust は信用、信頼と訳しますが、この意味するところは極めて重い単語です。それは、単に信じるのではなく、相手を全面的に信頼し、その上で相手の行動や発言を支持し、お互いに尊重し合うというのが、Trust の本来の意味なのです。
この Trust のバランスが崩れたことは、アメリカにとって極めて大きな損失であったと、Trust を最も重要な価値観と意識する文化を持つアメリカ人は焦ったはずです。Trust の対立項にある sneaky (姑息で卑劣な) 行為をアメリカがやったと公表されたのです。
アメリカ人の顔を代表するオバマ大統領のうろたえた様子が、目に浮かぶようです。
【今回解説したニューヨークタイムズの記事はコチラ】