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Kool-Aid現象:パンデミックは人間社会のあり方を問いかける

Alarm over the new variant, which was first identified in England, has resulted in British travelers being cut off from much of Europe and other parts of the world.

(イギリスでウイルスの変異が最初に確認されたことを受け、ヨーロッパの多くの国々、さらには他の地域の国々がイギリスからの入国制限を強行。)
― CNN より

コロナに始まり、コロナに終わる2020年

 今、変異したコロナウイルスの感染がイギリス南東部で急拡大しているニュースを、世界中が注視しています。今年はまさに、コロナに始まりコロナに終わるという、人類100年に一度の大騒動となりました。
 当ブログでも、コロナの感染について何度も取り上げ、それがアメリカの大統領選挙をはじめ、世界に様々な影響を与えたことへの解説をくり返しました。来年こそは、この長いトンネルから抜け出せることを祈っています。
 
 そうした期待を裏切るかのように、変異したコロナウイルスという情報で、フランスをはじめとするEU諸国やカナダなど、世界各国がイギリスからの入国を拒絶する緊急措置をとり、文字通り世界はまたも大混乱となってしまいました。
 イギリスでは海外からの物資の運送にまで大きな影響が出るために、これによって食料品などクリスマスシーズンの必需品や日用品の供給にも影響が出るのではないかという懸念が広がっています。
 変異の実態の詳細が掴めないまま、世界中がパニックに見舞われているようです。とはいえ、世界各国の迅速な対応は、当然といえば当然のことでしょう。
 
 今回のコロナでは、世界の国情が浮き彫りになりました。
 アメリカではコロナへの対応の是非を巡って、選挙に絶対に有利とされた現職の大統領が落選し、さらに社会の分断が深まりました。トランプ大統領支持者の中には、コロナウイルスの蔓延自体がフェイクニュースと信じ込み、マスクの使用を拒絶した結果、自分が感染して重篤化したときに「なんだこれは」と言って息を引き取った、という事例が散見されています。
 

Drink the Kool-Aid:その言葉が意味すること

 ここで、面白い、でも決して笑えない英語表現を紹介しましょう。
 この表現を知っている日本人は、そうはいないはずです。
 それは、”Drink the Kool-Aid”(クールエイドを飲もう)という慣用句です。”Kool-Aid”とは、日本でいうサイダーのような大衆向けソフトドリンクのブランド名です。この飲み物に毒を入れて、900名以上の人々が集団自殺を遂げたという惨劇が、1978年に南米のガイアナで起こりました。
 
 犯行の首謀者は、ジム・ジョーンズ
 彼がアメリカのインディアナ州で設立した、人民寺院というキリスト教系カルト集団の信者がガイアナに移住し、そこで集団生活を営んでいました。
 最終的に脱落者への殺害事件が起こり、同時に経済的にも行き詰まったジム・ジョーンズが、信者を道連れにして集団自殺を遂げたのでした。信者はジム・ジョーンズの言うままに、Kool-Aidにシアン化合物を混ぜて飲み、ジョーンズ自身はピストルで命を断ちました。
 これは当時、世界を震撼させた大事件です。この事件以後、”Drink the Kool-Aid”という言葉は、何かのことを激しく信じ込み、他の事実や意見を受け入れなくなった狂信的な人のことを指す言葉となりました。
 
 ネット時代といわれる昨今、人々は自分が興味のあること、あるいは信じる事柄だけを検索し、情報を吸収する中で、この「Drink the Kool-Aid現象」に陥るリスクが高まっているといわれています。
 例えば、トランプ大統領の熱狂的支持者は、今ではマスコミそのものを排除し、マスコミの言うことはフェイクだと決めつけている人も多くいます。
 彼らがマスコミの強調するコロナウイルスの危険性を信じないために、アメリカでは爆発的な流行に繋がったのではという人もいるほどです。
 一方、リベラル派の人々は保守系のメディアや情報には接しません。以前は、保守系の人はFOX Newsを好み、リベラルな人はCNNをというふうに大まかに色分けされていましたが、今ではそれも古い傾向となり、双方を分断する壁はますます厚くなっているようです。
 
 コロナに冒された世界で、人々が家にこもり、交流しにくくなる中、このDrink the Kool-Aidという言葉が意味することを、我々は真剣に考えなければならなくなりました。
 国際情勢で見るならば、中国、イランなどとアメリカが対立する中で、双方の国民に培われた国家への忠誠心が、過剰な作用としてDrink the Kool-Aid現象へと繋がるかもしれません。日韓関係のねじれの中にも、こうした現象が見てとれます。さらに、ヨーロッパでもBrexit(ブレグジット)と今回のイギリスでの新たなコロナ流行など、人々の心が不安になればなるほど、移民への排斥などといった極端な考え方に、振り子のように民意が揺れることがあるかもしれません。
 
 日本の場合は不可思議です。
 海外のように、自らの思いを声にして抗議することが、日本では極めて稀なのです。
 そして、政治家も多くの場合、国民に対してはカメラの前で用意した文章を読むだけで、本人の強い意思を表明することは稀にしかありません。
 コロナ対策のために都庁で行われた会議ですら、知事と出席者の間で文章を読み合っているだけというような、不可解な映像も流れました。
 こうした社会の場合、Drink the Kool-Aid現象は地下へと静かに浸透します。
 海外のように激しい社会運動やデモンストレーションを展開するのではなく、ネット上などで、静かに匿名で現象が浸透し、拡散する可能性があるはずです。
 

2021年、そしてポストコロナ社会を見つめて

 人類はコロナを克服することに今必死です。
 そして、コロナは人類がいかに脆弱な生物に過ぎないかということを、改めて見せつけました。今、人類は万物の霊長といわれ、地球と環境の将来を担っていると思いがちです。しかし、そんな人類がコロナウイルスという微生物に、今怯え、苦しめられています。
 環境破壊などによって地球に起きている変化は、人間の目で見れば脅威ですが、地球そのものから見れば単なる空気中の化学変化であったり、作用と反作用に過ぎなかったりするわけです。
 そんなちょっとした化学変化や反作用が、人類や多くの生き物を絶滅の危機に陥れるのに充分なパワーとなることを、コロナウイルスは我々に教えてくれているともいえましょう。
 
 “Drink the Kool-Aid”は、人々を分断させる中で、さらなる大惨事へと人々を導く心のプロセスを指している、極めて深刻なスラングです。
 地球や環境問題を考え、コロナ後の社会をどう見つめるかというときに、この言葉が示す現象を、我々は常に注視する必要があるといえましょう。
 

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『日英対訳 世界の歴史
 A History of the World: From the Ancient Past to the Present』山久瀬 洋二 (著)  ジェームス・M・バーダマン (翻訳) 日英対訳 世界の歴史
A History of the World: From the Ancient Past to the Present

山久瀬 洋二 (著) ジェームス・M・バーダマン (翻訳)
受験のためではない、現在を生きる私たちが読むべき人類の物語
これまでの人類の歴史は、そこに起きる様々な事象がお互いに影響し合いながら、現代に至っています。そのことを深く認識できるように、本書は、先史から現代までの時代・地域を横断しながら、歴史の出来事を立体的に捉えることが出来るように工夫されています。 世界が混迷する今こそ、しっかり理解しておきたい人類の歴史を、日英対訳の大ボリュームで綴ります。

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