【海外ニュース】
We argue only for amending the second clause of Article 9, so that Japan can have a military force that is better able to defend both the country and international peace and security.
(New York Times の社説より)日本が自国と国際社会の平和と安定の双方を維持する為に軍隊を保持するために、憲法9条第二項の修正こそが議論の対象となっているのだ
【ニュース解説】
集団的自衛権 Right of collective defense の是非について、今世論が二つに割れています。日本と同盟する第三国が戦闘状態になったときに、日本は自国の利益を守るためにその第三国と共同して戦闘行為に参加できるというのが、集団的自衛権の主旨となります。
当然、この問題を考えるとき、憲法第9条に目を向けなければなりません。まず9条は二つの文章で構成されていることを思い出しましょう。
9条では最初の項で、日本が戦争を放棄するのみならず、武力による威嚇や行使も国際紛争を解決する手段としては放棄すると明言しています。そして、その後半の条文に、前段の目的を達成するために、陸海空軍その他の戦力は、それを保持しないと明記しているのです。さらに念を押すように、国の交戦権も認めないと締めくくられています。
この条文が戦後の日本の平和を維持してきました。また、世界史の中でも例のない平和国家の背骨としての憲法であると評価されてきました。
しかし、戦後、アメリカはすぐにこの憲法を制定したことを後悔します。いうまでもなく、冷戦の激化で日本がアメリカにとっての防衛ラインの要となっていったからです。朝鮮戦争が混沌とするなか、アメリカは日本が連合国による戦後の占領を終了し、独立するときに自衛隊を保持することを強く要望します。極東の守りの強化のみならず、極東でのアメリカの軍事的負担も軽減することがその目的でした。
その後、朝鮮戦争のみならず、ベトナム戦争でも、日本にある米軍基地は事実上対北ベトナムへの作戦基地として機能しました。その機能を維持するために、日本政府も国民の税金を注ぎ込んで、米軍施設や後方支援の維持に協力してきたことはいうまでもありません。その延長として、湾岸戦争の段階では、アメリカは経済大国になった日本に応分の人的物的負担を求めたのです。
この湾岸戦争が集団的自衛権の議論の導火線となりました。
中東の石油に依存する日本であれば、そこの安定のために交戦するアメリカをサポートすることは、そのまま日本の国益を守ることになるのだというのが、当時の集団的自衛権の先がけ的な議論となったのです。
一方集団的自衛権はヨーロッパでは NATO が成立した段階で、広く容認されてきた考え方です。例えばドイツの場合は、憲法によって侵略を意図した戦争行為を違憲とし、個人の意志に反した徴兵も違憲としています。しかし、日本国憲法のような強い規制はなく、そのことで集団的自衛権の行使へのしばりはより緩やかになっています。ただ、同時にドイツは戦後処理においては、積極的にナチズムを否定し、危害を与えた周辺国への謝罪等にも明快なメッセージで応じてきました。この政策によって、ドイツの集団的自衛権の行使には、比較的世論も周辺国もそれを容認していったのです。
先日、米軍横田基地で教鞭をとるアメリカ人の教授と夕食を共にしました。
彼は、今集団的自衛権の問題を日本政府が持ち出す背景には、アメリカの日本の自衛隊への「信頼」という課題が本音としてあるのではとコメントします。
戦後 70年にわたる平和国家の中で、自衛隊は実戦経験のないまま、装備だけは一流な軍隊となりました。しかし、アメリカ軍の専門家は、実戦においては日本の自衛隊は中国にも韓国にも劣っていると評価されているというのです。
この危惧が、より一層の自衛隊の展開力の強化への要望として、日本側に突きつけられているのだろうというのが、彼のコメントだったのです。
もちろん、そうした潜在的な脅威を払拭するために国連を機能させればいいじゃないかという議論も一方にはあるはずです。しかし、現実は冷戦時代のように、アメリカは国連で主導権を握れなくなっています。それを如実に経験したのが、近年のシリアやウクライナ問題、そして南シナ海での中国の海洋進出に対する対応などでした。
こうした国際的な環境の中で、集団的自衛権の行使に積極的ではない日本への苛立が、アメリカの中につのっていったのです。
ここで本質が見えてきます。実戦経験のない自衛隊への危惧。もしそれが同盟国といわれるアメリカの本音であるならば、集団的自衛権の行使は、そのまま実戦参加への可能性と脅威につながるはずだということです。
机上の空論ではなく、銃弾が体を貫き、戦車に人が踏みにじられ、爆弾の破片が顔を切り裂くという悲惨な戦争を体験することと、実戦経験がなく「平和ボケ」といわれながらも、家庭や社会に危害を加えられることなく日本という国家を維持してゆくことのどちらを選ぶかという選択を、我々は迫られています。
最後に、積極的平和主義という言葉と、集団的自衛権とを混同してはなりません。積極的平和主義を軍備によって全うするのではなく、より強い外交力や指導力、コミュニケーション力で維持してゆくソフトパワーの構築も、忘れてはならないのです。国際社会の本音と、日本の利益、積極的平和主義という概念が本来意味するところ。我々が直視しなければならない課題は多いようです。
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日英対訳
『海外メディアから読み解く世界情勢』
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊
海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。