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コスモポリタンな社会造りに貢献する中東パワー

During a visit to Jandali’s home in Syria in summer of 1954, Joanne had gotten pregnant. Her father did not want her to marry a Muslim, so the young couple had to put their baby boy for adoption.

ジャンダリのシリアの実家を訪ねていたとき、ジョアンヌは妊娠した。彼女の父親がイスラム教徒との結婚に反対していたこともあり、若いカップルは赤ちゃんを養子にだすこととなった

IBCラダーシリーズ『The Steve Jobs Story』より

アップルの創業者スティーブ・ジョブズ Steve Jobs が 2011年10月に他界したのは、シリアで今なお続いている内戦がおこって9ヶ月ほど経過したときでした。

その後のシリアの混沌とした状況は、多数の難民をうみだし、今ヨーロッパではその受け入れを巡って様々な混乱がおきていることは周知の事実です。

そんなシリアの人々にとって Steve Jobs は英雄でもあるのです。

というのも、Steve Jobs の実の父親はシリアからの移民だったからです。

彼の実の両親は、結婚に反対され、経済的にも不安定だったこともあり、Steve がうまれると Jobs 家の養子にだしたのでした。

移民2世が成功することは、アメリカではよくあることです。

往々にして1世は貧しく、頑張って家族を育て、2世が教育を受けアメリカンドリームを追いかけるというわけです。そして、Steve Jobs に限らず、アメリカでは多数の中東系の人が活躍しています。

目をヨーロッパに向けましょう。

ドイツ、フランス、さらにイギリスなどで中東系の移民の数は膨張を続けています。移民の中には、イスラム原理主義の過激な思想に染まる人もいるという指摘もあります。もちろん、そうしたリスクは拭えないでしょう。

しかし、移民のもたらすベネフィットはリスクを遥かに凌駕しています。イギリスを例にとれば、元々アングロサクソン系の牙城であったイギリスが、20世紀終盤に多民族国家に変貌し、衰退する大英帝国のイメージが払拭され、多様で活力ある国家へと再成長を遂げたことは有名な事実です。

新大陸ではその傾向はさらに顕著です。国家の成長のあらゆる段階で移民が大きな役割を果たしてきたアメリカやカナダ、そしてオーストラリアといった国々にとって、多様性は国家のエネルギー源そのものです。

そして、欧米社会の単一民族 homogeneous による国民国家 (nation-state) から、こうした多民族 heterogeneous によるコスモポリタンな国家への変貌を牽引しているのが、北アフリカを含む彼ら中東系の人々なのです。

10年もすれば、今問題となっているシリア系難民も、それぞれの地域に同化し、新たな多様性の触媒となるはずです。

首都のロンドンで、元々のイギリス人であるアングロサクソン系の人々が占める割合が 20% を切ろうとしているイギリス。全国レベルでいえば、移民の人口が全体の 20% に迫ろうとしているドイツなどを例にとれば、その社会の変貌のスピードにただただ驚かされます。これらどの国をとっても、日本と同様に、そこでは特定の民族が元々圧倒的多数を占めていたことを我々は思い出すべきです。

それに対して、人口の減少が社会資産としての労働力に大きな影響を与えようとしている日本では、こうした世界レベルでの社会の変化とは未だ無縁の状態です。東京ですら、外国からの居住者が占める割合は 2% にも至っていず、難民の受け入れに至っては、欧米に比べれば皆無に等しいのが現実です。自衛隊の国際貢献以前に、こうしたグローバル社会への貢献度、そしてそのノウハウにおいて、日本は後進国となっているのです。

私は来週ロサンゼルスに出張します。

向こうで打ち合せを予定している教育関連の会社の社長も中東系アメリカ人で、敬虔なイスラム教徒。また、そこの会社の2人のオウナーのうち、一人はレバノンから、もう一人のオウナーの妻はイラクからの移民です。

イスラム原理主義者によるテロ活動などで、とかく偏見の対象となりがちな中東の人々ですが、実は彼らの多くがこのように欧米社会の重要な担い手になりつつある事実も、我々は把握しておく必要があるのです。

【山久瀬洋二・画】

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『スティーブ・ジョブズ・ストーリー (The Steve Jobs Story)』The Steve Jobs Story
トム・クリスティアン著
IBCパブリッシング刊

アップル社の創業者の一人でありながら、一度は追放されたジョブズの波乱の生涯がシンプルな英語で楽しめる。

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