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コロナのせいとは言えない「国際女性デー」の報道が少ない日本の事情

©2020 BBC.

“Marches to raise awareness of discrimination against women have taken place around the world to mark International Women’s Day.”

(国際女性デーを記念して、世界中で女性への差別を撤回する行進が行われる)
― BBC より

韓国のスラングに見る女性の姿と意識

 新型コロナウイルスのニュースに世界中が震撼する中で、3月8日が「国際女性デー」であったことが報道されることは、あまりありませんでした。ウイルスによる感染の拡大を受けて集会等の制限が強化される中、それでも世界各地で女性の地位向上を求めるデモなどがありました。
 そんなとき思い出したのが、チョ・ナムジュ氏による「82年生まれ、キム・ジヨン」という小説でした。韓国社会における女性のおかれているデリケートな現実を克明に描いたこの小説は、日本でも売り上げを伸ばしベストセラーの仲間入りをしています。
 その韓国で男性たちの多くが、今の若い世代の女性を「キムチ女(じょ)」というあだ名で悪口を言っているという話を耳にします。
「キムチ女」とは、会社では軽い仕事しかしていないのに、女性の権利を主張し、男性には強くあたる最近の若い女性を皮肉ったスラングだと言われています。徴兵制度のある韓国では、女性は基本的に徴兵されることはなく、大学を卒業すれば就職もでき、キャリアを伸ばしたい人はそうすることも可能です。それに引き換え、男性は軍隊には必ず行かなければならず、就職難では常に矢面に立たされ、かつ女性から男性は女性差別をしていると批判されるというわけです。
そんな韓国の人たちが、「スシ女(じょ)」と言って日本人女性を羨んでいるという皮肉な情報も聞こえてきます。彼らは男性に従順でやさしい女性を、このように呼んでいるのです。
実際、韓国ではこうした言葉に象徴されるように、「男女の平等」というテーマをめぐって、男性と女性が激しくネットでも火花を散らしているようです。
 こうしたことを、アメリカ人の友人と話していたときのことです。
彼が日本のある番組を、名指しで批判します。
彼は、日本の長寿番組として知られる「おかあさんといっしょ」という子供番組を見るたびに、そのタイトルに怒りを覚えるというのです。理由は、このタイトルの裏に潜む日本人の意識にあります。「子育てや家庭のことはお母さんと」という偏見が、このタイトルには滲んでいるというわけです。さらに、週末には「おとうさんといっしょ」という番組があることから、男性と女性に対するステレオタイプを助長していると海外の多くの人が思うのです。

平等を主張する女性、柔軟に合わせる女性

 歴史的に見て、差別の廃止を求めて運動するのは、差別をされている側に偏っています。アメリカで黒人や日系人への差別に向けて立ち上がったのは、黒人であり日系人でした。もちろんそれに理解を示し、支援する他の人種の人々が多かったことも事実です。しかし、差別されている人の強い声がない限り、制度を変革し、人々の意識を変えてゆくことはなかなかできません。
女性への差別も同様です。国際女性デーの起源も、1904年3月8日にニューヨークで、婦人参政権を求めて女性達がデモを起こしたことに起因しています。
であれば、韓国で日本人の女性を「スシ女」とイメージしていることは、極めて皮肉なことといえましょう。

 実は、そんな話をするきっかけは、オフィスで国際女性デーについて意見を求めたとき、ある女性社員から、

「食事をするとき、なぜ男性が食事代を支払わなければならないのでしょうね」

というコメントをもらったことでした。

「しかも、それをラッキーと思っている女性が結構多いんです。これが問題なのではと思うんです」

と彼女は指摘します。
お金をしっかり稼ぐ男と結婚すればそれで安心、という女性も多くいます。また、かわいければそれでよいと思っている男性に同調する女性も多くいます。そんな女性の意識を、国際女性デーでは考えさせられると彼女は思っています。

 確かに男性から見て、そうした女性が多いことも否めないようです。また、女性が職場で差別されている現実をみとめたとき、それを乗り越えようとして頑張る女性の姿も見えてきます。そんなとき、男性よりコンピュータを使いこなせ、締め切りを守り、頼んだことはきっちりとこなすというパフォーマンスを意識し、それを売り物にしながらも、それ以上組織の上層へと上がっていけない皮肉もそこには存在します。心の中で、自分の方が仕事はできるのに、と思っている女性は無数にいるはずです。
 一方、アメリカでは、海外へ駐在しマネージメントをするには女性の方が適しているのではないか、という指摘もあります。
それは、女性の方が表面上の名誉などにこだわらず、人の話や意見にも柔軟に対応し、話をよく聞こうとするため、異文化環境での摩擦への対応がうまくいくからだというわけです。

社会にくすぶる男女の役割問題

 「キムチ女」と陰口を言う韓国の男性社会。そして、その男性が日本人の女性を「スシ女」と言い、そのことをまんざらでもないなと思う人が多い日本社会。
国際女性デーがクローズアップされなかった理由は、単にコロナウイルス騒動でマスコミが手一杯だっただけではないかもしれません。
ジェンダー・イシュー」といわれる性の違いへの配慮の複雑さは、過去から引きずる男性と女性の役割へのステレオタイプとともに、まだまだデリケートな課題として社会の中にくすぶってゆきそうです。

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