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もっと注目してほしい、香港とミネアポリスの二つの騒乱

Well, the US is coming apart at the seams.
Looks like people are not so willing to give up democracy.
It will stop when the police, military, and judges stand up
to the white supremacists running the country.

(どうも、アメリカは継ぎ目がほつれ、分断されはじめている。人々は民主主義を放棄したくはないようだ。しかし、それはこの国を動かす白人至上主義に向けて警察官、軍人、そして裁判官が立ち上がるとき、はじめてこの分断を止めることができるのだろう)
― ある友人の手紙 より

コロナ禍で繰り広げられる香港とミネアポリスの騒乱

 二つの都市での騒乱が世界に波紋を広げています。
 中国の「一国二制度」が脅かされる中、香港での民主主義を守ろうとする人々のデモと、アメリカ中西部の都市ミネアポリスで起きた、黒人の被疑者を白人の警察官が取り押さえるときに死亡させたことに怒る人々の抗議行動
 そして、この二つの国は今、コロナウイルスを蔓延させた責任を巡り、さらに香港の自治に対するスタンスを巡り、激しく対立しています。
 
 中国では、香港の民衆が中国という国家を侮辱する行為に対して刑罰を設けようとしています。人々は、そんな北京の動きに反発します。そして、前回の記事でも解説したように、トランプ政権は香港をコントロールしようとする中国に制裁をと強気に出ています。
 世界がアメリカと中国との対立に新たな脅威を感じていたとき、ミネアポリスで一つの事件が起こったのです。
 

ミネアポリスの事件に端を発した全米抗議活動

 ジョージ・フロイドという黒人の男性が、偽の20ドル札を使用したのではないかという容疑で逮捕されたことが発端でした。問題は、警察官が手錠をかけられ無抵抗になった被疑者を、7分にわたって膝で頸部を押さえつけて死に至らしめたことにありました。フロイドは「息ができない」と訴え、周りにいた人も「抵抗していないのに」と何度も警察官に訴えたものの、警察官は結局それを無視し、救急車が到着してフロイドを搬送するまで、膝で頸部を押さえつけていたのでした。
 
 この事件が明るみになり、一部始終を撮影していた人々の動画がアップされると、黒人への差別と虐待だということで抗議行動が起こり、それが騒乱へと発展し、全米に拡散したのでした。
 実は、この種の事件は、ここ数年の間にアメリカ各地で頻繁に起きていました。さらに、コロナウイルスが全米に蔓延すると、感染者が黒人系の人々の多く住む地区に集中していたことから、パンデミックが経済格差を浮き彫りにしていると、アメリカ社会の中に批判と反感が拡大していた最中の出来事でした。
 
 香港では、政府の政策に抗議すること自体が、犯罪行為になろうとしています。行政の権力行使を代行する警察官は、反政府活動そのものを鎮圧しようと、デモの参加者を逮捕しています。そして、アメリカでは、政府への抗議は自由です。言論も自由ならば、多くの州では武器の所持までも自由にできます。しかし、目に見えない格差や偏見が文字通り定期的に怒りとなって吹き出します。
 トランプ大統領は、メディアが暴徒を煽っていると批判します。しかし、この事件をメディアが詳細かつ執拗に報道しなければ、報道の自由を国是とするアメリカのマスコミのあり方そのものが問われてしまいます。
 
 今回の事件に抗議しているのは、決して黒人だけではありません。
 事件の起きたミネソタ州で、フロイド致死事件に関わった警察官が解雇され、頸部を抑えたデレク・ショーバンが第三級殺人容疑で逮捕・起訴されました。第三級殺人罪とは、殺意はないものの、執拗な暴行などで人を死に至らしめたときに適応されるケースです。
 しかし、映像が公になると、黒人のみならず多くの市民が、これは明らかに殺意のある第一級殺人だと抗議します。残念なことに、一部の暴徒は放火や商店での略奪などといった違法行為に走ったことが、世論をさらに二分してゆくのです。
 

他人事ではない、「行政と市民」に投げかけられた課題

 日本では、ニュースのほとんどが相変わらず国内のコロナ問題を取り上げています。しかし、日本の隣ともいえる香港での騒乱はもとより、この全米に拡散している事件を、我々はもっと真剣に見つめなければなりません。こうしたニュースを見て「日本は平和で、コロナも政府の言うことをちゃんと聞いて抑え込んでいる」と語り合う人がいるのではと危惧します。
 
 日本人はおとなしい。それは良いことでしょうか。略奪や放火はもちろん断罪されるべきことです。しかし、今回のコロナ対策のみならず、今まで国が行なってきたことへの是非を正さず、ただ国会での論戦を傍観し、あとはおとなしく無口に毎日を送る日本の姿を、不気味だと捉える人がいる方が自然なのではと思ってしまいます。
 
 たしかにアメリカでは、人種対立による暴動や混乱は頻繁に、時には定期的に起こっています。警察官の暴行事件は犯罪として立証することが困難なケースも多く、被疑者が抵抗することもあるという言い分が通ってしまうこともあるようです。しかし、今回は多くの目撃者が映像を残しました。そして権力を持ち、武器を行使できる警察官が、時にはどれだけの恐怖を人に与えるのか改めて考えさせられます。このことは白人と黒人、富裕者と貧困者の対立を超えた、「行政と市民との関係」というテーマに問いかけられた重大な課題なのです。我々日本人も当然考えなければならない課題であり、他国で起こった他人事ではないのです。
 
 アスリートでありラッパーでもあったジョージ・フロイドの死。香港で逮捕され、その後の取り扱いが懸念される名も無い市民たち。政治体制の違いを超えて、権力と市民とのあり方を世界が見つめてゆく必要性を痛感させられます。
 アメリカは中国の人権を、そして中国はアメリカでの人種問題をお互いに取り上げて、さらに中傷合戦を繰り広げるかもしれません。そうした政治的なやりとりの中で、相変わらずコロナは蔓延し、世界中で貧困層の健康を脅かしてゆくのでしょう。
 
 今、フロイドが死の恐怖と苦痛の最中に訴えた「頼む。息ができない」“Please. I can’t breathe.” という言葉がプラカードになって、抗議の渦はホワイトハウスをも取り巻いています。I can’t breathe. とは、もちろん呼吸のできない苦しみを訴えた悲痛な叫びです。しかし、今この言葉はその意味を超えて、人々の平等や人権への抑圧の苦しみを象徴する叫びへと変化しようとしているのです。
 

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『I Have a Dream!』マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (著者)、山久瀬洋二 (翻訳・解説)I Have a Dream!』マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (著者)、山久瀬洋二 (翻訳・解説)
生声で聴け!世界を変えたキング牧師のスピーチ(日英対訳)
1955年、バスの白人優先席を譲らなかったという理由で逮捕された男性がいた。この人種差別への抗議運動として知られるモンゴメリー・バス・ボイコット事件を契機に、自由平等を求める公民権運動がにわかに盛り上がりを見せた。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアはこの運動を舵取りし、そのカリスマ的指導力で、アメリカ合衆国における人種的偏見をなくすための運動を導いた人物である。「I have a dream.」のフレーズで有名な彼の演説は、20世紀最高のものであるとの呼び声高い。この演説を彼の肉声で聞き、公民権運動のみならず、現在のアメリカに脈々と受け継がれている彼のスピリット、そして現在のアメリカのビジネスマネジメントの原点を学ぼう。山久瀬洋二による詳細な解説つきで、当時の時代背景、そして現代への歴史の流れ、アメリカ人の歴史観や考え方がよく分かる1冊。

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