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無言の圧力と声を上げるリーダーシップ、日本とアメリカを比較して

Sheriff Who Marched With Protesters: ‘It Was Time To Take The Helmet Off.’

(抗議する人々と共に行進した警察署長(ミシガン州フリント郡保安官)は「今はヘルメットを置いて彼らと動くときだ」と語る。)
― Today より

日本のコロナ感染者が少ないのは「民度が違う」から?

 日本のコロナウイルス対策は批判を受けながらも、その感染者が減少したと色々な国で報道されているようです。一方で、内外では実際の検査をやっていないことから、その透明性に問題があるという指摘があることも周知の事実です。
 日本人は土足で家に入らず、もともとインフルエンザなどを含め、衛生には神経を使っているからという指摘もあります。また、それが昂じて「日本人は民度が高い」からという、人種差別とも捉えられかねない発言が麻生財務大臣から飛び出すなど、顰蹙を通り越したふるまいも目立っています。
 

ダイアローグ:日本とアメリカの行動を比較して

 根本的に、これは日本の文化の問題です。

「日本人って怖いよね。言葉にせずとも人に圧力をかけられるのだから」

これは、日本を知るとあるアメリカ人がSkypeで語ってくれた指摘です。

「自粛を要請すると、それに従わないとなんとなく周囲から冷たい目で見られる。これが効果を発揮するなんて、海外ではありえないよ」

彼はそう続けます。それを受けて、私は説明します。

「いえね。ひとりだけ自分のやり方を通すということが、日本ではやりにくいのさ。これが皮肉なことに、今回のコロナ対策ではプラスに出たんだよ。反面、政府のやり方に疑問があっても、それをマスコミは報道しても、誰も声を上げて立ち上がらない。周囲の目や、目立つことへの見えない圧力が負の方向に働いて、社会が硬直するというマイナス効果もあるんだよね」

彼は、そんな私の発言を受けて、

「アメリカ人って、その逆だよね」

と指摘します。

「今回のミネアポリスのフロイド殺害事件が起こったあとの行動を見たかい。全米で抗議行動が広がっている。しかも、面白いのは、警察官の中にもただ組織の一員として取り締まりに参加するのではなく、自分の意思で抗議に賛同し、デモ隊に立ち向かわず、都市部には膝をついて抗議を表明する人もいたんだよ。これって、組織重視の日本の社会では考えられないね」

 
 例えば、アメリカのミシガン州では、デモが起こったとき、郡の保安官 Christopher R. Swanson(クリストファー・R・スワンソン)が、このデモは違法ではないし、自分も賛成するので、みんなで法律に従って平和に行進しようと群衆の先頭に立ち、話題になりました。これが冒頭で紹介した本日のヘッドラインです。自分の考えをしっかりと主張し、目立ったとしても、それはリーダーシップをとっているわけだから良いことだ、という意識が社会にあるわけです。
 

「確かに、日本では『右に』と言えばみんな黙って右に動き、そこで流れに反して左に動くと、白い目で見られる。この白い目が怖くて、波風を立てたくない大方の人は、なんとか自分を納得させて右に行く。それでも左に行く人は、ネットなどで匿名の陰湿な中傷にさらされることもあるしね。これが、戦前において日本を第二次世界大戦の破滅に導いた大きな原因だよ。政府やマスコミもこうした無言の圧力をうまく利用すれば、政策を実行しやすくなるわけ。これが日本というtribe(部族)の特徴だよ。でも、アメリカはどうだい。個々が強くてまとまらないことが、人種差別といった集団の規範に反する行為を生んだりしないのかい」

「そう。これはコインの裏と表さ。誰もが同じ方向を向かず、中には愚かな連中がそうしたことをやってしまう。でも、アメリカは日本に比べてはるかに多様な人が同居しているから、この摩擦はつきものだ。これをいかに乗り越えるかは、現在のアメリカも含め、我々の過去から未来へつながる根本的な課題なのだよ」

「とはいえ、それは日本も将来のために考えておかなければならないことだね。これからは海外の人との交流やヘルプなしには、社会は成り立たない世の中になるわけだし」

「そう。だから、日本でコロナの感染者が少ないのは民度が高いから、なんていう政治家がいることは論外だね。あんなこと海外の人が聞いたら、日本はなんて日本人至上主義の恐ろしい国なのかって誤解されるよ。政治家や多くの人は、そのあたりのことに鈍感で無知なんだね」

「いや、日本人そのものが、こうした意識を冷静に反省する必要があるかも。今、コロナのことで、世界中が殺気立っている。アメリカも中国と緊張が続いているし、中国は中国で、この混乱の中で香港への締め付けを厳しくしているし、ブラジルなんて大変な混乱だ。だから、世界が殺気立っているとき、日本がどう自分の立ち位置を明快にするか、リーダーシップを発揮できるか。とはいえ無理かなあ」

と、私はため息をつきました。

「期待もするけどね。それにはもっと、コロナ対策一つをとっても、政府や行政に個々人がしっかり物を言わないと。俺たちの税金をもっと有効的に使わないかって」

 

「右へ倣え」ではなく自分で考え「左へ動く」意識を

 この会話の向こうには、日本社会への色々な皮肉も混じっています。
 アメリカで起こった人種問題は、日本人は関心がないというのが一般です。ですから、マスコミも必要以上に大きくは取り上げません。
 しかし例えば、日本で女性や立場の弱い人が見えない差別を受けたり、非正規雇用者が不当に解雇されたりする。さらには、会社で上司の言っていることが理不尽でも、それが組織というものだと思い、黙ってそれに従っている現状などを通して、人が傷つくことがないかといえば嘘になります。さらに、ネットを通して、匿名で海外の人やコロナの感染者を中傷するといった、卑劣な差別も広がっています。
 
 だから、アメリカで起こっていることは、日本とは無関係ではないのです。一人ひとりが、自分の身にそうしたことが降りかかってきたとき、社会がどれだけやっかいを恐れ、無言で冷たい視線を浴びせるかを考えれば背筋が凍ります。
 つまり、フロイド氏の言った I can’t breathe「息ができない」という状態が精神的に起こってしまうのです。

「今回のパンデミックでは、日本型の無言の圧力はうまく機能したかもね。でも、これが悪い方向にも行かないことを願っているよ」

 彼は、日本に数十年住んでいました。それだけにこの国の表と裏、長所と短所をよく見抜いているようです。

 

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『英語で聞く 世界を変えた女性のことば』ニーナ・ウェグナー(著)英語で聞く 世界を変えた女性のことば』ニーナ・ウェグナー(著)
「世界を変えたい」と本気で願い、人々の心を、そして世界を動かした女性たちのスピーチを集めました。彼女たちの熱い願いを耳で聞き、目で読み、英語と歴史背景を学べる1冊です。タリバンに襲撃されても、女性が教育を受けることの大切さを訴え続け、2014年ノーベル平和賞を受賞した若き乙女マララ・ユスフザイを筆頭に、アウンサンスーチー、マザー・テレサ、緒方貞子、ヒラリー・クリントン、マーガレット・サッチャーなど、名だたる女性たちのスピーチを、雰囲気そのままに収録。

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