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TikTokとTwitter、トランプが直面したSNSの思わぬ災難

Trump’s rally boasted a smaller crowd than his usual campaign events, with much of the upper sections of the 19,000-seat BOK Center empty.

(通常のトランプのキャンペーンイベントと比べれば、極めて少数の入場者で、1万9千のボックスシートもがらがらの状態)
― オクラホマン(オクラホマ州の新聞)より

タルサの集会に見えるトランプへの「逆風」

 アメリカはコロナの問題を抱えたまま、いよいよ11月の大統領選挙に向けた後半戦へと突入してゆきます。
 現職のトランプ大統領と、対立候補のバイデン前副大統領の両陣営ともに、コロナの感染リスクから、従来の大掛かりなキャンペーンを組めないまま、いかに有権者の心をつなぎとめるか試行錯誤をくり返しています。
 
 その中で、オクラホマ州タルサで久々の集会を予定していたトランプ陣営が、思わぬ事態に見舞われました。
 現地のアリーナでは、100万人の集会という華々しいイベントを予定していました。ところが、実際にはまばらな人しかそこにはおらず、上部座席はガラガラの状態だったのです。そのため、アリーナ外でのイベントもキャンセルになりました。
 
 ニューヨーク・タイムズなどは、早速その理由を報道します。
 参加者が少なかった原因は、TikTokのユーザーがネットワークし、事前に入場券を買い占め、実際には集会に参加しなかったことが原因ではないかといわれているのです。そこには、K-POPファンのネットワークも関係していたという報道があります。空席が人為的なサボタージュによる可能性があるのです。
 

コロナ・経済低迷・BLM運動・・・山積する「課題」

 オクラホマ州はアメリカの中西部にある広大な平原と、石油産業で豊かなになった州として知られています。中西部はトランプ陣営にとっては極めて重要な地域で、オクラホマ州もトランプ支持者が多い保守の牙城です。
 ですから、久々のキャンペーンにトランプ陣営がタルサを選んだことは頷けます。コロナウイルスの蔓延以来、アメリカは経済的な低迷に苦しみ、流行を防げないまま一時閉鎖していた経済活動を再開しようとしています。
 
 トランプ大統領も、コロナウイルス対策において「消毒剤を注射するなどできないのか」などといった失言が報道され、支持率も以前ほどではありません。
 しかも、保守の盟友として期待され、国家安全保障問題担当大統領補佐官としてトランプ陣営に加わっていたジョン・ボルトン氏が、トランプ大統領と袂を分かち、さらに彼を批判してその愚かさを暴露する書籍を出版する予定であるなど、大統領は逆風にさらされてきました。
 
 トランプ陣営としては、なんとかアメリカ経済を立て直し、コロナウイルスも克服するというジレンマを切り抜けなければ、再選が難しいのです。しかも、大統領選挙に落選した場合、トランプ氏にかけられている様々な経済疑惑などによって、彼自身が法的なリスクにさらされるおそれもあります。
 したがってトランプ大統領は、コロナウイルスの脅威の中で、あえて保守のアメリカを象徴するオクラホマでのキャンペーンに踏み切ったのでしょう。
 
 しかし、タルサは因縁の町でもあります。
 ここは、1921年5月30日に、白人系の暴動によって町が焼かれ、多くの黒人系の市民が虐殺されたことで知られた町なのです。
 白人警察官のフロイド氏殺害によって、BLM運動(黒人の命を守る運動)が全米を覆い尽くしている最中に、この場所をキャンペーン会場に選択したこと自体にも批判が集まっていました。
 今回のタルサでのできごとは、フロイド氏殺害事件のあと、ホワイトハウスの前に集まったデモ隊を警察隊が排除した記憶が拭い去れず、しかも経済活動再開の後、コロナウイルスの感染による死者数が12万人を突破している中、大統領の求心力に大きな陰りが見え始めた矢先のできごとだったのです。
 

新手のSNSとマスクが象徴するアメリカの「分断」

 ただ、ここで今回のニュースを冷静に分析する必要もありそうです。
 それは、人種や格差の問題でアメリカが分断され、お互いがお互いを受け入れられないまま、次回の大統領選挙に突入しようとしている厳しい現実です。
 トランプ大統領は、彼への批判が高まる中、「サイレント・ボイス(無言の支持者)を忘れるな」とツイートしました。ところが、今回はTikTokのユーザーが、まさに静かに、サボタージュのネットワークを拡散した可能性があるわけです。
 
 今、SNSは無視できない大きな力となっています。トランプ大統領はその力をいち早く利用し、Twitterを通して自らの主張を訴え、大統領になりました。
 しかし、今ではTwitter自体、Facebookと同様にユーザー年齢が上がり、TikTokに代表される新手のSNSが新たなユーザーのネットワークを急速に拡大させているわけです。それを政治的に異なるスタンスの人々がお互いを中傷し、攻撃する道具として使用することの危険性を、我々は今回見せつけられたのかもしれません。もしかすると、愉快犯による行為もありえないことではありません。
 よくいわれることですが、インターネットには自分の関心のある情報のみを追跡し、他の意見や現象から目をそらす人を増やす効果があります。すると、分断はますます深刻になるわけです。
 
 今回、トランプ大統領支持のためにタルサに集まった人々は、概ねマスクをしていなかったと報道されています。
 今、アメリカではコロナウイルス予防のためにマスクをしている人はリベラルで、そうでない人は保守層だとまでいわれています。つまり、科学を信じ合理的に考える人と、宗教やアメリカの従来の価値を信奉する人との対立の象徴として、マスクが取り上げられているのです。
 
 タルサでの一件は、こうしたアメリカの分断と、そこに介在するSNSのあり方を見せつけられたイベントといえそうです。
 

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