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波紋が広がるアメリカの政界を揺るがす重大証言

January 6 hearing will show Trump pressure campaign on Pence ‘directly contributed’ to Capitol attack, committee says

(1月6日調査委員会は、トランプ氏がペンス氏に議会への暴動に「直接起因する」圧力をかけていたことを公表すると発表)
― CNN より

ワシントン州からオクラホマ州へのフライトにて

 社会の中に不満が鬱積し、それに起因した政変や抑圧が予想されていても、そんな社会の日常にいるときは、そこは一見すると平穏な毎日に見えるものです。過去に訪れたことのあるミャンマーでも、ロシアでも、中国の西域でも、より個人と深くつき合い本音を聞き出さない限り、それは同じでした。
 そして今、この記事を執筆しているシアトルからオクラホマシティに向かう飛行機の中も、まったく同様で、乗客は静かに着席してサービスを受け、3時間半のフライトを共有しています。
 しかし、この乗客の中の何人が今の社会に大きな不満を持っているか、または何人がそうした不満を持っている人に脅威を感じているのかは、誰もわかりません。もちろん、何かが起こりそうな小さな兆候など何もありません。
 
 シアトルのあるワシントン州は、アメリカでも最もリベラルな州で、世界企業であるマイクロソフトやアマゾン、ボーイング社やスターバックスなどが、そこを本拠地としています。こうした企業の社内には、あらゆる肌の色が混在し、まさに世界中の知恵が集まっています。昨日打ち合わせをした相手も、中東系のアメリカ人で、彼らの仲間は新しいオンラインの英語教師育成のプログラムを作成しているところでした。
 一方のオクラホマ州は、アメリカの中でも最も保守的な州の一つで、人工妊娠中絶を拒絶する法案などを最も早く容認した共和党の牙城ともいえる州です。州の収入は農業と石油の掘削などで、ワシントン州とは対照的な州と言えそうです。
 ワシントン州は太平洋に面し、アジアとの交流が深く、伝統的に日系人や中国系の人々が多く住みます。オクラホマ州はそれに対して、アイルランドやイギリスからの古い移民が東から入植した地域で、いわゆるカウボーイと開拓者のイメージの強い地域です。
 
 昨日、そんなワシントン州の高速道路を運転していたとき、高速道路の上の高架橋から数人の若者が横断幕を高速道路に向けて掲げていました。そこには、「They will replace White!」というメッセージが書かれていたのです。意味は、「他国からの移民や有色人種が白人に取って代わろうとしている」という、白人優越主義者がよく主張するスローガンです。ワシントン州のようなリベラル勢力が多数の地域でも、こうした不満が特定の人々に鬱積していることを証明するかのようなできごとでした。
 今、アメリカは、コロナの流行などなかったかのように、人々は自由に行動しています。このフライトの中でもマスクを着用している人はわずか数人で、キャビンアテンダントもマスクなしでサービスを行っています。オクラホマへのフライトは、オクラホマの土地柄もあって、ほとんどが白人系の人で、機内は満席状態です。コロナ後のアメリカ人の移動が回復したことで、満席の飛行機が多く、この便も例外ではありません。
 

アメリカの分断を象徴する議事堂乱入事件の実態

 さて、そんなアメリカで、このところウクライナの問題以上に取り上げられている話題があります。今、ワシントン州とオクラホマ州との間にある違いに象徴されるアメリカ社会の意識の分断が暴動に発展した、あの2021年1月6日の議事堂乱入事件の検証がアメリカ連邦議会で進み、その実態がどんどん公になっているのです。
 みんなが注目しているのは、前大統領のドナルド・トランプ氏が、この暴動を扇動したかどうかという事実です。その事実を究明し、様々な関係者の証言を委員会が集めているときに、マイク・ペンス副大統領の弁護士と、共和党に所属する連邦裁判所の判事が証言台に立ち、驚くべきことが明らかになったのです。
 
 当時のトランプ大統領は、前回の大統領選挙の結果に不満で、自らの敗北を認めず、選挙に不正があったと主張していました。それは、コロナによる影響で、多くの投票が郵送で行われたこととも関係があり、民主党が意図的にそうした得票を操作したというのが彼の主張でした。そして、この主張に、移民社会の成長や人種の多様化に反発する右翼勢力が合流したことが、事の発端でした。トランプ大統領の主張を支持する人々は、大統領の演説や強いアピールによって、どんどん先鋭化し、新しく選ばれたバイデン大統領の就任式に向けて大きな抗議行動を起こそうとしていたのです。
 1月6日は、選挙で選ばれたバイデン大統領を、議会で正式に次期大統領に指名する日でした。そして、その儀式で大統領を指名する役割を担ったのは、長年トランプ前大統領と政権を共にしてきた盟友、マイク・ペンス副大統領(当時)だったのです。ペンス氏はトランプ前大統領のパートナーであり、トランプ氏以上に保守的な人物ではないかと目されていました。トランプ氏がもともとビジネス界の出身で、ワシントンの政治に不慣れな部分を、見事にカバーしていたのがペンス氏でした。
 
 そのペンス氏に対して、1月6日が近づくにつれ、バイデン氏の指名を拒絶するようにと、トランプ氏から執拗に指示されていた事実が判明したのです。民主主義国家であるアメリカの中で、現職副大統領による指名は単なる儀式であって、投票の結果を覆すことはできません。しかし、トランプ氏は彼を支持する大衆に向かって、ペンス氏が行動することを呼びかけます。そしてペンス氏がその指示を拒絶すると「臆病者」とののしるなど、過激な批判をくり返し、実力で大統領の指名を覆そうとするかのような演説を行ったのです。
 その演説を受けて、大衆が1月6日に首都ワシントンDCにある議事堂に押し寄せ、議会を守る警備員や警察官を押しのけて、乱入したのです。そのとき多くの乱入者が叫んでいたのが「ペンスを吊るせ」という恐ろしい言葉でした。乱入を防げないことを知った議員や関係者は、緊急時に非難できる地下室に向かいました。乱入者は彼らを追って、一時ペンス氏に40フィート(12メートル少々)のところまで迫ったのです。彼らはペンス氏を議会の外に引きずり出そうとしていました。そこには、なんと即席の縛り首の縄まで用意されていたのです。
 最近まで多くの人が、乱入者は民主党議員を襲撃し、特に民主党の大物でもあった下院議長ナンシー・ペロシ氏に危害を加えるつもりだったのでは、と思っていました。ところが、トランプ氏の怒りとその影響を受けた人々がペンス氏をターゲットにしていたことが、アメリカ中に衝撃を与えたのです。
 
 今回、避難先の地下室で、携帯電話に見入るペンス氏の姿がマスコミに大きくリリースされました。彼はそのときに、トランプ氏が何を大衆に語り、乱入者が何をしようとしていたのかを知ったのでは、と言われています。彼の側には娘もいて、心配そうに父親の姿を見ている様子も一緒に報道されました。以来、ペンス氏とトランプ氏とは一度も話をしていないという事実がさらに公にされ、1月6日の乱入事件の真相を解明し、トランプ氏が実際に争乱を指導したかどうかで有罪なのか否か、議会では議論が続いています。
 

大きくて強い国アメリカの裏に隠された脆さと弱さ

 アメリカは大きな国です。この国に来ると、日本では全く感じることのできない多様な人々の活動を目にします。そして、その多様性によって全米がそれぞれの特徴をもって産業を育成し、世界企業に世界中の知能が集まることに、アメリカの力の深さと外からは測れない強さがあることを実感できます。それは、経済的にはウクライナ問題やコロナによる激震に揺れながらも、変化することのないアメリカ社会の力です。
 
 しかし、そんなアメリカ社会の現実に取り残され、貧困や逆差別への偏見に見舞われた人々が、2021年1月6日のような思わぬ行動を起こしてしまうのです。一見、平穏に見えるそうしたアメリカ社会の裏側にある分断の暗部が、今後どれだけこの国を変えてゆくのかが気になります。
 中間選挙と2024年の大統領選挙に向けて、そうした問題が再び社会の表面に現れようとしているのです。
 

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