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もつれた過去に固執する民族意識が生み出したウクライナの悲劇

Russia appeared no closer to victory. But its forces did appear to be making slow, methodical and bloody progress toward control of eastern Ukraine.

(ロシアの勝利のメドは明らかに立たない。しかし、その舞台はじわじわとウクライナ東部を組織的に流血の末に獲得しようとしている)
― New York Times より

あるロシア人女性が語るウクライナの内部事情

「西側のニュースを聞いていると、涙が出ることがある。なんていうかフェイクニュースじゃない。ロシアがそんなことをするはずはない。ドンバスの問題は西側には誰も知らされていない色々な背景があるのに」

 ロシアで日本との仕事に長年従事してきたエレノワ(匿名希望のため仮名にします)はそうコメントします。

「でもね。戦争はよくないよね」
「そう。それは認める。でも、元々ウクライナはロシアと一つの国だった。それが最近のポピュリズムの影響で、人々の考え方が変わったの」
「というと、ウクライナ西部の人々のこと?」
「まあね。だって彼らは元々ポーランド系で、長年にわたってロシアに対して敵愾心を持ってきた人たちだし。でも特に、ウクライナを縦断するドニエプル川の東側はロシア語を喋り、ロシア人というアイデンティティを持ってきた人が多いのよ。そんな人々のことを最近のウクライナ政府は考えてくれなかった」
 

 Zoom画面の向こうにいる彼女は、ときどき涙ぐみながら説明をします。

「あのマリウポリで最後まで戦って英雄だと言われたアゾフ連隊の人たちなんて、元はそんなロシア系住民を迫害したナチのような極右集団だったのよ。それが、ロシアの攻撃に耐え抜いて祖国を守った英雄にされている。過去にやったことは問われることなく」
 

侵攻をめぐるロシア、ウクライナ、ポーランド三国の関係

 彼女の主張を聞きながら、様々なもつれた糸の存在について考えます。エレノワが言うことに一理あるとしても、ドンバスでの内紛はすでに旧ソ連から独立した主権国家の内部での出来事です。

「一度主権を得た国に他の国が過去からの因縁で戦争を仕掛けることは、やはり国際法違反じゃないの」

と私は反論しました。

「そうかもしれない。でも、それにしてもアメリカや西側の国々は宣伝が上手い。そして、誰もがロシアが一方的にひどいことをしていると世界に向けて信じ込ませようとしている。このことがとても悲しいの。しかも、アメリカはウクライナを自分の通常兵器や諜報力を試す実験場にしている。とてもずるいと思う」
「でも、それなら、まず戦争をやめないと」
「でも、ドンバスは元々ロシアなのよ」
「そうかもしれないけど、今世界中で一つの国の中に多数の民族がいることはよくあることだと思うだけど」
「それはそう。だけど、そんなドンバスが独立したいと言ったとき、ウクライナはそう主張してきた人々を迫害してきたんだから。彼らにだって自分たちの将来を決める権利があったはずでしょ」
「わかるよ、でも、やはりそれはウクライナ内部の問題でしょ。例えば、中国の東北地方には朝鮮族という人々がいて、元は韓国や北朝鮮と同じ民族。でも、日本の朝鮮半島での統治が終わって、朝鮮半島が分断され、さらに北朝鮮と中国とで国境が設定されたとき、そこは中国の領土になっている。今、それを力で変更しようとしたら、大変な悲劇が起こるはずでしょ。台湾の問題も同じ。だから、これはウクライナだけの問題ではないはずだと思うんだけど」
「それなら、あそこまでロシアを一方的に非難して事実をねじ曲げないでほしい」
 

 エレノワの意識は変わりません。ソ連の頃の栄光が踏みにじられたロシア人の悲哀が、ウクライナという元々ロシアと同じ国だった国家が西側へと傾斜したことに対する不満となり、それにプーチン大統領が火をつけたのです。

「ポーランドとロシアのことで言えば、確かに元々ポーランドは今のウクライナの西半分をも支配していた大国だった。でも、それはナポレオンの時代以前のこと。そんなポーランドを分割し、当時のロシア帝国がその半分の領土に影響力を持って間接的に支配した。それが原因で、その後ポーランドがロシア帝国を経てソ連の中に組み込まれ、今のウクライナの原型が生まれたのだよね。だから、ウクライナの中にロシアに対して複雑な思いを持つポーランド系の人々が多いことはあるかもしれない。逆に、ロシアが本当に気にしているのはウクライナではなく、最近のポーランドの動向だという政治家がロシアにいるのも知っている。ロシアの主張するネオナチは、実は反ロシアの意識を煽るポーランドだと、その人は論文にも書いている。でも、そのことが戦争の理由にはならないよ」
 

 そう私は、つい先日ロシア情勢に詳しい専門家から得た知識も交え、彼女に反論しました。

 

大陸国家が抱える複雑な意識と政治が生み出す悲劇

 民族文化には過去に重きを置き、その土台の上に未来を見る文化と、過去よりも未来に重きを置く文化とがあります。きっとロシアの人の多くは、前者の文化的背景を持って思考しているのでしょう。そのことが、ロシア人をウクライナへの狂気に駆り立てているのでしょうか。

「ロシアって、広くて大きな国。でも、人口のほとんどは西のヨーロッパロシアに集まっている。ウクライナはそんなロシアの一部だった。ロシアの東は人口も少なく、ツンドラと森林と山並みが果てしなく続く。でも、そこはヨーロッパや世界を支える資源の宝庫。ロシア人は個人的には豊かではないかもしれないけど、それだけに質素には慣れているし我慢強い。ナショナリズムも旺盛なの。だから、制裁はそんなに響かない。この豊かな資源が世界の経済を変えても、我々はそんなに変わらない。だから、この問題を解決したいなら、ただロシアを非難するのではなく、少しだけでいいから私たちの声を聞いてほしいと、多くのロシア人は思っているの」
「ウクライナという独立国が過去にどのような経緯をたどったかはともかく、今はまず前提としてロシアはウクライナの主権と国民が選んだ政府を尊重しなければ。民主主義は脆いもので、常に反対の立場をとる人々との妥協も必要だし、ちょっとしたことで民主主義のバランスが崩れると、それが原因で今まで人類が何年もかけてやっと手にした、ガラスのように壊れやすい平和を破壊してしまう。知恵が必要だと思うよ」
「そうかもね。でも、私もこれ以上は話せない。ここのオフィスの中でこれ以上どんなコメントをしようと、ちょっと人の目も気になるから」
 

 エレノワはそのように話した後、画面の向こうに消えてゆきました。
 また、7月の中旬にでも話をしようと約束をして。

 

 民族意識、国家意識、そして領土や主権に対する意識。これは我々が思っている以上に複雑で、単純な方程式では解決できないことを痛感した会話でした。
 ウクライナへのロシアの侵攻は、日本にはない、大陸国家での長年にわたる歴史が刻んだトラウマを象徴したような出来事なのです。国連憲章に則って、主権を侵害することの「是は是、非は非」という立場は堅持しながらも、そうした人々の意識を利用して権力を維持する政治という問題が、常に世界各地で人々の悲劇を生み出していることだけは、我々は看過できないはずです。

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『100 Keys for Hope 自分を幸せにする英語100』ヴィッキー・ベネット (著)100 Keys for Hope 自分を幸せにする英語100』ヴィッキー・ベネット (著)
この世界では戦争やパンデミック、社会的混乱が起こり、私たちは自分を取り巻く状況について不安や悲しみを感じることがあります。仕事や勉強、家族、お金のことなど、日々の生活に悩みを抱えることもあるでしょう。しかし、私たちの周りは変えられなくても、心の持ちようは自分自身で変えることができる。本書に綴られている100のメッセージは、私たち一人ひとりの中にある希望を感じ、前向きに生きるヒントを与えてくれます。

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