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時代遅れになりつつある日本の雇用の常識

Fewer and fewer Japanese want to see the world. Only 24 % of them even have a passport-the lowest proportion among rich countries.

(世界を見たがる日本人がどんどん減少。日本人の24%しかパスポートを保有しておらず、それは富裕といわれる国の中でも最も低いレベルだ)
― エコノミスト より

人材が還流する世界で才能を集める柔軟な人事政策

 「働き方はどうでも構いません」というスローガンをもって、世界中の人材を募集する国際企業が増えていることに、我々は気づいているでしょうか。
 
 マレーシアで仕事をしているある若者が、キャリアアップを考えているときのことです。オンラインでの人材マーケットの情報を通して新たな仕事先を見つけようとすると、「個人ではなく、会社として契約しても構いません」というオファーをもらったというのです。
 つまり、通常企業が下請け業務などを頼むときに、個人ではなく会社と会社の関係として業務を委託するように、企業の人事部が個人をリクルートする際に、その人が自分の判断で税金などを処理できる会社を作り、その会社と契約する形で採用をしても構わないという説明を受けたわけです。
 面白いのは、通常の人事部での採用に、こうした柔軟な手法が取り入れられていることです。
 税制は国ごとに様々な違いがあります。ですから、世界中から優秀な人材を雇用したいと思った場合、ユニークな節税方法を思いつける場所に住んでいる人をリクルートするには、節税の方法を個人に任せた方が、合理的に人材を確保できるというわけです。
 
 具体的に言えば、ある人の場合、法人税に様々な優遇措置のあるドバイに会社を作り、その会社とグローバル企業とが契約してその個人を採用します。その場合、グローバル企業は約束した報酬をその個人が設立した法人に支払うだけで、なんら控除などの面倒な手続きをしなくても済むわけです。かつ、個人の側からしてみれば、個人の生活に必要な多くの部分を経費として計上することで節税ができ、お互いにwin-winな関係ができることになります。
 
 ですから、マレーシアに住むその若者は、そうしたオプションもあるよというオファーに飛びついたわけです。しかも、その会社の場合、その他にも例えば現地にオフィスがないので、自分で時間を決めてオンラインで仕事をすることもできれば、もしそれが嫌であればシンガポールの支社のオフィスで通常の勤務をしても構わないという、極めて柔軟な求人条件を示していたのです。
 
 海外では人材がグローバルに環流していることから、世界中から才能を集めるためにこうした柔軟な人事政策をとろうとする企業が目立つようになってきました。多様な言語と文化、さらには国の制度を飛び越えて、企業が自らのニーズを満たす人材であれば、どのような雇用形態でも構わないと考え始めたのです。こうした事例は、先端企業やベンチャー企業に多く、さらにはこれらの企業をサポートする人材エージェントにも見られます。
 日本を一歩出ると、このようなダイナミックな現実を見せつけられるようになったのは、最近のことではありません。
 

硬直した日本から海外に目を向けると見えてくる実情

 日本人もこれから自分の将来を考えるとき、この現実を体感して欲しいのです。日本で進学し、よくいわれる有名大学を出てしっかりとした企業に就職した場合と、例えば、ちょっと英語を頑張ってアメリカの2年制のカレッジにまず留学し、そこで得た経験をもって4年制の大学に移籍し卒業した場合、おそらく初任給だけで2倍の差がつく可能性があるというのが今の現実です。その後、企業でしばらく自分を磨いてから、オンラインであろうと、オンサイトであろうと大学院(MBAなど)を卒業すれば、年俸で2000万円前後の収入を得ることも可能というわけです。
 誤解を避けるために、すべてがお金というわけではないことは、ここで釘を刺しておきましょう。そうではなく、それだけ質があり豊かな経験ができる可能性が世界中にはあるという現実に、日本人が気づいていないのです。
 
 さらに、海外と比較すると、明らかに日本人の生活水準が落ちつつあるのも、見えていない現実です。G7の一員と言いながら、実態は過去に我々が思っていた中進国並みの雇用条件に日本は陥ろうとしているようです。世界の有数な資本主義国と比べ、相対的に年収が下がり、労働の質も劣化しつつある中で、多くの日本の教育関係者や進路指導に携わる人々が、こうした世界の実情に目を向けようともしないことは悲しい限りと言えましょう。
 
 また、日本企業の人事部の硬直した制度にも課題が残ります。
 国の制度を乗り越えて世界から人材を獲得するには、確かに柔軟性が必要です。決まりきった雇用形態や生涯賃金、さらには日本の税制だけにこだわった陳腐な発想を捨てて、様々な方法で人材を採用する戦略の転換が、日本企業の将来を考えた場合には必要不可欠です。
 その場合、時には日本人から見て、扱いづらいコミュニケーション文化をもった国の人と交渉をしなければならないことも出てくるかもしれません。しかし、尖った人材ほど技術力や才能が豊富な場合も多いわけで、そうした人が満足できる雇用形態もオファーできるような仕組みの構築も求められているわけです。
 
 日本の大型企業は、日本は日本、海外は海外というように、国境をそのまま企業の中に取り入れて運営しているケースがほとんどです。これからの人事政策はそうした国境を排除し、企業が世界と密着する姿勢が必要です。日本の税制では収入面で見たとしても、充分な人材を日本で雇用することは不可能です。であれば、何も被雇用者に日本で税金を払ってもらう必要は全くないわけで、冒頭に紹介したような様々なソリューションを提示できるようにしない限り、これからの世界での競争には勝てないのではないでしょうか。
 

世界を見たがる日本人がどんどん減っていく悲しい現実

 東南アジアに出張し、そこに住むスウェーデン人と話をしたとき、彼はアジアに住みながらストックホルムのAI関連の企業に就職しているということで、彼は収入だけではなく、アジアでの自国と異なる文化の中での生活を満喫しているようでした。
 
 そんな日本を一歩離れた世界の空気を、これからは一人でも多くの人に呼吸してもらいたいと思いながら、冒頭のエコノミストの記事が発表されてから数年で、パスポート保有率が20%を割り込んでいる日本の現実に、悲しいものを感じる今日この頃なのです。
 

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『百歌百景 JAPAN: POETRY AND PLACES』水野克比古、竹内敏信、山久瀬 洋二 (著)百歌百景 JAPAN: POETRY AND PLACES
水野克比古、竹内敏信、山久瀬 洋二 (著)
日本人の死生観、人生観、さらには社会観と密接に関わり、平安時代から鎌倉時代にかけて、多くの歌集が発表されました。江戸時代になると和歌をもとに、庶民の洒脱な生活観を語るために俳句が誕生し、短い言葉で的確に状況を描写する絵心が加えられました。日本人にとって、言葉は人の心、そして精神そのものなのです。
日本人の和歌や俳句に寄せる気持ちがどんな風土や自然の中で育まれたのか。日本人の自然観、人生観とはどのようなものか。本書では、日英対訳の和歌と俳句を、美しい写真とともに紹介。日本人の心象風景を世界に伝えます。コンパクトサイズだから海外へのギフトにも最適!

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