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世界を震撼させたスーダンの内戦

Evidence emerges of Russia’s Wagner arming militia leader battling Sudan’s army.

(ロシアのワグネルグループがスーダンで内戦を起こした私兵集団を支援していることが判明)
― CNN より

アフリカ・スーダンの内戦に関与する露軍勢力

 今月14日からアフリカのスーダンで、国軍とRSFというその一部を構成していた軍部の派閥が戦闘となり、多くの犠牲者が出ています。もともと2019年にバシール政権という長期の独裁政権が崩壊し、民主化に向かっていたスーダンですが、残念なことに派閥の対立から軍政に移管していたのです。
 そして、バシール政権の中で、非イスラムの部族を虐殺していたアラブ系の私兵軍団をルーツに持つ軍部内の派閥が再び政権を離れ、情勢が混沌としてきたのがその背景です。
 このニュースは即座にアメリカやヨーロッパを震撼させました。イスラエルのパレスチナに対する強硬策に端を発して、サウジアラビアやイラン、そしてエジブトなどが西側と微妙に距離を置こうとしている中で、中東のみならず北アフリカまでが再び混乱の渦に巻き込まれたのです。
 
 そんなとき、さらに世界に衝撃を与えたのが、スーダンの内戦にロシアの私兵集団の関与が疑われたことです。世界情勢は複雑です。ウクライナから遥か南のスーダンにどうしてロシアが、と思われるかもしれません。しかし、我々日本人は世界情勢をあまりにも楽観的に、かつ単純に捉えているようです。
 
 現在、ウクライナとの戦争に投入されているロシア軍の中に、海外からの傭兵がいることはよく知られています。この傭兵のネットワークを作ったのは、ロシアにあるワグネル(ワグナーとも呼ばれています)グループと呼ばれる私兵集団です。ワグネルグループの指導者は、プーチン大統領の台頭と共に彼に取り入り、内政では政敵の打倒に、海外ではロシアの影響力拡大のために軍事介入をしてきた集団で、実質上ロシアの内務省、国家警察の支援を受けています。ある意味で、幕末の幕府と新撰組との関係を思えば理解しやすいかもしれません。
 
 実際に彼らは、国内では実際にプーチン大統領の政敵の暗殺などに関わり、海外ではシリアや中央アフリカ共和国など、中東やアフリカ各地の政情不安に乗じてロシアの利権拡大に関与してきました。このワグネルグループは、ウクライナ東部ドンバス地方の親ロ派の分離独立運動の立役者でもあり、今回のウクライナ侵攻にも大きな役割を担いました。
 
 しかし、ロシアのウクライナ侵攻が停滞すると、ロシア軍部の対応をめぐってワグネルグループとロシア正規軍との間に亀裂が生じているのでは、と西側は睨んでいたのです。そんなワグネルグループが自らの立場を有利にするために、スーダンにある金鉱の利権に目を向けて独自の作戦を展開し、スーダンの内戦勃発に絡んだのではないかという疑いがあるわけです。アメリカから見れば、スーダンでの民主化の兆候が見えていたときだけに、海兵隊を派遣してアメリカ大使館や、民間人の保護をしながら事態の収集に協力するどうか判断に迷っているのです。
 

政権基盤が脆弱なロシア vs 国力を消耗するウクライナ

 しかし、スーダンはアメリカにとって第二のアフガニスタンになるかもしれません。そして、プーチン大統領にとっては、ワグネルグループのスーダン内戦への関与の真偽には色々な憶測はあるものの、ワグネルグループとロシア軍との亀裂はなんとかしたいと必死なのです。というのも、そもそもプーチン大統領はエリツィン元大統領に抜擢され、大統領にまでなった人物ですが、抜擢人事だっただけに、苦労を共にしてのし上がってきた信頼できる仲間が極めて少ないのです。つまり、彼には自らの地位を守る旗本が希少なわけで、大統領としての地盤は我々が思っている以上に不安定なのです。
 
 そこでプーチン大統領は、ワグネルグループや、特権を与えた政商などのグループを自分の支持基盤に置いてきたのです。ワグネルグループは、ロシアの囚人やならず者、時には海外からの私兵を統率してできた集団です。そんな連中の指導者を政府内に取り込んだわけですから、プーチン大統領は常に自らの権力基盤の脆さにビクビクしているというわけです。
 ある専門家は「プーチンはワニの群れる湖の中のウサギ」だと批判します。ですから、プーチン大統領は「偉大なるロシアの再建」という妄想に駆られてウクライナに侵攻したものの、自分の地位を守るためにも、より早く目に見える戦果をもって戦争を収拾することを望んでいるのかもしれません。
 
 しかし、ウクライナのバフムートでは、ロシア軍は善戦しながらウクライナ側の頑強な抵抗に遭遇しています。こう着する戦闘で出たロシア側の犠牲者の多くが、このワグネルグループに所属する戦闘員だったというのも、今回の軍部との亀裂の導火線になっているのです。さらに、数日前にウクライナ軍がドニエプル川の渡河に成功して、ロシア軍に奪われたヘルソン州を奪還する拠点の獲得に成功したというニュースも流れています。
 
 しかし、そんなウクライナ側も、日露戦争のときの日本同様に、西側の支援を受けて戦果をあげてはいるものの、国家としての消耗は激しく、なんとか年内に停戦の目処をつけたいと多くの関係者は考えていると言われています。なんといってもロシアは資源国として、今なお多くの資産を国内に維持しているだけに、戦闘が長引けば、国力に差のあるウクライナにとっても予断を許さない状況になるはずです。そうした厳しい状況もあって、最近ゼレンスキー大統領はNATOやG7などとの外交に奔走し、より強力な支援を得ようと必死です。ロシアもウクライナも内情は予断を許さないわけです。
 

「世界の火薬庫」で注目される中米の動向

 となれば、ロシアにとっては中国、ウクライナにとってはアメリカの動向が常に気になります。中国はここにきて積極的に外交活動を展開しています。しかし、アメリカは次回の大統領選挙に向けて、どちらかと言えば内政重視へと傾斜しかねません。とはいえ、アメリカも外交上の影響力の維持には必死です。
 
 だからこそ、アフリカに影響力を拡大しつつある中国とそれを防ぎたいアメリカにとっても、スーダンの政変は見逃せないのです。
 スーダンの内戦が思いのほか世界で大きなニュースとなったのは、そうした背景があるわけです。これからもアフリカと中東の情勢は、ロシアとウクライナの戦争の動向にも大きな影響を与える世界の火薬庫であり続けるはずです。
 

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今、世界でさまざまな影響を与えている事象について、単にニュース的な見解と報道を紹介するのではなく、日本人には理解し難い歴史的・文化的背景を踏まえ、問題の向こう側にある課題を解説。そして未来へのテーマについても考察します。また本書では、学校では習わないものの、世界の重要な課題に対して頻繁に使われる単語や表現もたくさん学べるので、国際舞台でより深みのある交流を目指す学習者にも有用な一冊です。

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