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ロシアへの対応に苦慮する中国の本音

Biden expected to urge China not to offer Russia any help.

(バイデン大統領は中国がロシアにどんな援助も行わないよう説得した模様)
― BBC より

アジアへの進出をはかる中国と警戒を強めるインド

 フィリピンに出張中です。
 マニラに到着してホテルに向かう途中の光景には、ウクライナへのロシア軍の侵攻で揺れる世界を考える、もう一つのヒントがあります。それは中国のアジアへの進出との関連です。コロナウイルスが世界で流行したこの2年の間に、中国資本は明らかにアジアへの進出を加速しています。
 
 それを目の当たりにしたのが、マニラのニノイ・アキノ国際空港から、市のダウンタウンに向かう途中のことでした。ダウンタウンへの途上にパサイという地区があります。そこにはモール・オブ・アジアという大型のショッピングモールを中心とした産業商業地区があります。
 その一角に、この2年の間に新たなチャイナタウンができ上がっています。もちろん我々がイメージするステレオタイプな「中華街」ではなく、モダンな複合商業施設にレストランやエンターテインメント施設が並んでおり、その規模には驚かされます。あたかも中国によくある人工的なショッピング街に迷い込んだかと思うほどです。
 私が乗ったタクシーの運転手は、「フィリピン人は領土問題などで中国には複雑な思いがあるが、こうした資本の進出で仕事は増えている」と説明し、彼の息子も中国系の企業で働いているというのです。
 そういえば、フィリピン経済のもう一つのハブであるセブでも、セブ島の対岸、国際空港のあるマクタン島に中国資本による大規模なビジネスセンターが建設されています。同様の動きはアジアのあちこちで起こっているはずです。
 
 そして、アジアにはもう一つの大国があります。
 それはインドです。日本はここで紹介したアジアへの中国の進出に対する警戒と牽制のために、インドとの関係強化に努めてきました。その結果、日本はQuad(クアッド)と呼ばれるインド、オーストラリアにアメリカを絡めた安全保障と経済協力関係を強化する仕組みをつくりました。
 しかし、インドは同様に複雑な状況に追い込まれてしまいます。インドは元々、中国と国境問題を抱えていて、中国の進出には常に強い警戒感を持っていました。それがQuadに参加した理由でもあります。ただ、インドは中国が旧ソ連と対立していたこともあって、ロシアとも深いパイプを維持してきたのです。ロシアがウクライナに侵攻して以来、インドはロシアに対して曖昧な態度で終始しています。インドの仇敵パキスタンとの政治問題もあり、中国を牽制しながらロシアとは紐帯を、というのが伝統的なインドの方針だったのです。
 インドのこの曖昧な対応は、当然Quadでの同盟にヒビを入れる可能性にも繋がるのです。
 

ロシアのウクライナ侵攻で矛盾を抱えてしまった二つの大国

 再び中国に話を戻しましょう。ロシアのウクライナ侵攻で誰もが気にしたのは、中国の動きに他なりません。しかし、中国はロシアの動きに躊躇を隠せません。元々ロシアと連携してアメリカに対抗しようとしていた中国が、対応できないような苦境に陥ってしまったのです。
 中国はアジアに向けた経済進出をヨーロッパ経済圏へと繋いでゆくために、旧東欧圏からアフリカへもリンクする経済進出を企画していました。それが「一帯一路」と呼ばれる戦略です。実は、ウクライナはその戦略の重要なポイントでもあったのです。
 ところが、ロシアがそのウクライナに侵攻を始めたのです。しかも、そのことによって西欧社会のみならず、ほとんどの国際社会が結束してしまいました。これが、中国がロシアの行動を積極的に擁護できない理由です。しかも、香港での民主化の弾圧に次いで、台湾統合を模索している中国は、そのタイミングも今回のことで見えなくなりました。
 
 このように、ウクライナの危機はアジアの二つの大国の方針に大きな影響を与えてしまいました。
フィリピンで見られる中国の経済進出を単純に考えれば、今年の2月までの中国の動きは、アジアでの覇権を狙いアメリカを牽制するという明快な動きでした。しかし、ロシアとウクライナの問題が起きたとき、合理的に考えれば即座にロシア側につきそうな中国の動きが鈍くなったことは、国際社会の圧力の下で中国がいかに困っているかを物語っています。
 インドにとってもそれは同様です。インドはより深くヒンドゥー教の影響のある南インドと、イスラム社会の影の残る北インドとの確執を社会の中に隠しながら、伝統的にアメリカのアジアへの進出には警戒感を持っていたのです。そのインドが中国を意識して、日本とオーストラリアを経てアメリカと手を結んだ直後に友好国のロシアが暴挙に出たわけです。
 
 将棋を指したことのある人ならお分かりのように、敵を追い詰めるには角と飛車が位置する右と左を分断して、敵の王将を左右どちらかに追い込む戦略が効果的です。ヨーロッパと東アジアとの間に中国の影響を受けた国々が増えることは、右側のヨーロッパと左側の東アジアとを分断し、兵力の分散を余儀なくされることから、アメリカが最も嫌う戦略だったはずです。
 しかし、今回のロシアの思わぬ動きをもし中国が支持すれば、「一帯一路」の恩恵を期待していた中国の友好国の反発を受ける可能性もあるわけです。とはいえ、ロシアは中国の支持が喉から手が出るほど欲しいはずです。しかし、中国はその誘いには安易に乗れません。この矛盾が中国を悩ませているのです。
 

ウクライナでの殺戮を勘定しながら見ているだけの国際社会

 フィリピンにいると、こうした国際社会の確執とは無縁のように、ウクライナ問題が遠くに見えてしまいます。中国の進出もあってか、コロナパンデミックによる経済的ダメージがあるどころか、街にはこれまで以上の活気すら感じるのです。マニラの気の遠くなるような渋滞を解消するインフラ工事も着実に進んでいます。
 こうした将来性のある国々に、今回のロシアへの制裁措置は新たな経済的な打撃を与えるかもしれません。とすれば、中国としてはあからさまな欧米主要国との対立構造を作らずに、静かにこうした地域への経済的な潤いを与え続ける戦術に終始した方が得策かもしれません。中国はその判断の是非を自問しているはずです。
 今回のヘッドラインで紹介したように、先週、バイデン大統領が中国の習近平主席に、電話会談でロシアを援助しないように警告したというニュースが伝わりました。しかし、大切なことは、こうした中国のデリケートな状況を考えながら、彼らを追い込まないようにそっと状況を見ておく方が、対ロシア戦略としては得策かもしれません。しかし、こうしたアプローチは、白黒をはっきりさせたがるアメリカが最も苦手なことなのです。
 
 最後に、ここで一つ言えることは、国際問題は常に人々や国々のエゴとプライド、そして欲望が重なって、ウクライナで殺戮が進んでいる今この瞬間でも、多くの国がここで解説したように自国のためのそろばんを弾きながら、情勢を見ているという悲しい実情です。
 こうした行為が、最終的に世界中を巻き込む戦乱へと発展したのが、先の二つの世界大戦に他なりません。少なくともその教訓に多くの人が目を向けながら、ロシアの暴走を防げないことにならないよう、自らの政府の動きを注視してゆく必要があるのです。
 

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