As of 2022, the organization Varieties of Democracy (V-Dem) classified approximately 88 of the world’s countries as autocracies, home to 70% of the world’s population.
(2022年現在、「多様な民主主義」という組織の分析から、おおよそ世界の88カ国、つまり全人口の7割が権威主義国家に居住していることが判明した)
― World Population Review より
異なる価値観を遮断し社会の矛盾に目をつぶる人々
年齢を重ねて、それなりの収入があり、こうした文章を書きながら会社の経営のことなどを考えているとき、
アメリカ大統領選挙の結果など世の中でおきていることも同時に頭をよぎります。
実は、私の友人はもれなくハリス候補に投票しました。友人の人種は多様です。元は共和党の候補に投票をしていた人もいました。誰もが経済的には不自由はなく、しっかりした学歴をもっています。しかし、こうした人々が“Uneducated”(教育を受けていない、あるいは無教養な)という言葉を心の中にちらつかせながら、トランプ氏に投票した人々のことを見つめていたことは否めません。そして、そんなアメリカの選択に彼らは皆失望しています。ハリス氏の支持者の多くは、彼らはUneducatedで、SNSなどの情報源に依存し、違う価値観を冷静にみることができないと言いながら、彼らも気づけば同じ罠に陥り、相手の無言の訴えに耳を塞いでいます。
冷静にみるとトランプ氏に投票した人々も、自分たちを批判している人々のことを意識していたはずです。ですから、トランプ氏が大統領に選ばれたとき、心の中にハリス候補を支持して、人権や環境問題などにうるさい人々に対して「甘いリベンジ」を実感したはずです。
その日の物価や自分の健康、さらには家族の行末を思い、不安定な毎日から離脱するには、このリベンジが必要だったと思っているはずです。
日本にもさまざまな理由で充分に教育を受ける機会を逸したり、社会に馴染めず自ら学歴を放棄したりした人々が日々の暮らしにつまずき、時には短絡的とも思える人生の選択に走ってしまいます。
そんな人々をみて、自分はそうならずにまっとうに暮らしていると、身勝手にも安心し、時にはそうした人々と違う環境にいる自分に満足しているだけの人が多くいるのも事実でしょう。
目を外に向けると、
パレスチナや
ウクライナには家を追われ、家族を戦争で失った人がいます。世界のあちこちで貧困や紛争によって安定した毎日を失い、住む場所も適切な医療を受ける機会も失っている人がいます。
彼らは移民として海外に出ようにも、渡航費用もなければ、借金をして渡航しても合法的に入国して就労することは困難です。彼らはスポーツ観戦をして自国の活躍をお茶の間で楽しむことなど考えられない日々を送っています。負のスパイラルに見舞われているのです。そうした人々の一部が巧みに誘導され、テロリズムに走り、反社会活動に身を投じる戦士が生産されます。
一方で、私は仕事で今年だけで10万マイル以上飛行機で出張しました。航空会社のラウンジで時間を潰し、滞在予定のホテルの予約を確認します。社会の矛盾を知りながらも、時にはそこから目を背け、自分は安全な領域にいるのだという安心感に、無意識にひたっている自分に気付くこともありました。
「権威主義国家」が多数となった世界で深まる分断
社会の分断はこうして深まります。
国レベルでみれば、世界中がautocracy(権威主義)に傾き、民主主義の土台が揺れつつあります。今回の兵庫県知事選挙の結果のように、SNSがさまざまな方途で使用され、異なる意見への配慮や思考を遮断する傾向が顕著な中で、autocracyをどう定義するか多くの専門家が悩んでいます。
その中で、選挙制度はありながらも特定の人物や政党に権力が集中しがちになっていたり、言論に一定以上の規制があったり、特定の人物や政党、宗教団体が政治を独占したりといったさまざまな視点を元に、それらに合致する国々をAutocratic Countries(権威主義国家)のカテゴリーにいれようとしたのが、冒頭で紹介したスウェーデンにあるV-Demという組織です。彼らが現代社会の特性に配慮しながら、世界各国の国情を分析し、
発表した統計によれば、2022年の段階でその数は約88カ国、世界の人口の7割がそうした国家で生活をしています。民主主義と自由を享受できる国家の方が少数派なのです。この20年の間にロシアやハンガリー、トルコやインドなども相対的な評価ではありますが、Autocratic Countriesのレッテルを貼られるようになりました。その傾向は東南アジアなどでも顕著です。
これらの国々に住む国民を民主主義国家、特に先進国の人々は哀れみの目でみることがあります。その意識がAutocratic Countriesに該当する国民にも偏見として伝わってきます。「奴らからみれば自分たちは下に見られている」と彼らは思うのです。また、逆に今回のアメリカの大統領選挙で明らかになったように、世界の分断よりも自国内の分断で精一杯という国家も多くなりました。
さて、我々の住む日本は、今のところ民主主義国家、加えて先進国といわれるカテゴリーに属しています。対外的にはAutocratic Countriesに哀れみや偏見を抱く人が多くいながら、国内では貧富や教育の格差という分断を抱えています。ですから、日本人の多くも移民の増加には懐疑的で、国内の格差をも実感しています。日本にもこの人はUneducatedだと、同じ国民の半数以上を見下す人々が居住しているのです。そんな偏見はないよと思う人でも、よく心の中を覗き込むと、必ず自分が置かれているカテゴリーに属していることで安心感を持っているか、不安を持っているか、いずれかの意識を抱いているはずです。相手に対し、あるいは相手から「疎外」を感じることも多いはずです。つまり、日本も将来この分断をポピュリズムで操ることでAutocratic Countriesの仲間入りをする可能性はゼロではないのです。
世界中の人々が充足と安定を分かち合うためには
「私は生粋のリベラルで、常に民主党、しかも左派だといって間違いない。確かに私は充分な教育を受けた心理学者で生活の不安もない。妻は医者で医療後進国の援助に参加している。でも、彼女は口をひらけば勤務する国家の政治がいかにひどいか批判する。でも、そんな私も妻も投資信託をやっていて、どこかで何かが起こればそれが自分の収入にも影響する。株の上下を毎日気にしながら生活している。その過程で私が収入を得ることで、間接的にどこかの国の戦争や貧困などの不公平に加担しているかもしれない。そう、自国の分断にも私が間接的にも関わっていることは否定できない。そして、どのようにすれば相手と心を開いて理解を共有できるのかもわからない。聖人のように、自分の安定を投げ捨てて裸足でボロをまとって、すべての人に何かをするということは到底できない」
ボストンの友人のこの言葉は、私の心の中にも同じボリュームでエコーします。そのエコーをかき消そうと、思いついたようにポケットの中にたまった小銭を、空港に置かれているユニセフの募金箱に投げ入れることもしばしばです。
これは特定の人のことを語っているのではありません。人がどのようにすれば満足し、富と安全、そして安定を分かち合えるのかということを考えるとき、21世紀になった今でも人類の生み出したシステムは脆弱で、その脆さゆえに未来への不安を解消する切り札がみつけられないのです。
アメリカの選挙や世界の動向、日本社会の抱く課題などに共通しているのは、こうした人々の意識の格差からくる無言の対立への処方箋が見つからないことなのでしょう。
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『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』
キングスレイ・ウォード (原著)
英米文学の原文で英文読書の醍醐味を味わいながら読解力を磨く! IBC洋書ライブラリー創刊! 成功した実業家である父親の真情から、自分と同じ道を志そうとする息子にあてて書かれた30通の手紙は、ビジネスの世界で働くための心がまえやアドバイスのみならず、進路や教育、友人関係など、人生で遭遇するさまざまな局面への知恵と示唆にあふれています。英語学習者が、原文のまま名作の内容を余すことなく味わえるよう、作品解説・章ごとのあらすじ・ページごとの要約・巻末のワードリストで読書を強力にサポート。原書チャレンジに最適なシリーズです!
山久瀬洋二からのお願い
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これまで多くの事件や事故などに潜む文化的背景や問題点から、今後の課題を解説してまいりました。内容につきまして、多くのご意見ご質問等を頂戴しておりますが、こうした活動が、より皆様のお役に立つためには、どんなことをしたら良いのかを常に模索しております。
21世紀に入って、間もなく25年を迎えようとしています。社会の価値観は、SNSなどの進展によって、よりミニマムに、より複雑化し、ややもすると自分自身さえ見失いがちになってしまいます。
そこで、これまでの25年、そしてこれから22世紀までの75年を読者の皆様と考えていきたいと思い、インタラクティブな発信等ができないかと考えております。
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