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民主主義の真価が問われはじめた2025年

The Ideology of Democratism, dismissing “populism” as anti-democratic is highly problematic. In effect, such arguments essentially reject the actual popular will in favor of a purely theoretical and abstract “will of the people.”

(「ポピュリズム」を反民主主義的なものとして否定することは非常に問題がある。事実上、このような議論は、純粋に理論的で抽象的な「民意」を支持して、実際の民意を本質的に否定しているにすぎない)
The Ideology of Democratism の書評 より

「民主主義とは何か」今問い直されている

 2025年になりました。皆様にとって良い年であることをお祈りします。
 今年は、アメリカで新しい政権ができ、お隣の韓国でも大統領の地位に大きな変化があることが予測されます。
 日本は、そうした周囲の変化にどのように対応できるのか、21世紀の4分の1を経た今、考えさせられることは山ほどあります。
 
 このところ、仕事の関係で地政学についての原稿を書きました。初夏までには出版される予定だと思います。これを執筆しながら、つくづく考えさせられたのが、去年実施されたアメリカでの大統領選挙のことです。
 一体どうしてトランプ氏が勝利したのか。改めていろいろな視点から分析をしてみたのです。すると、そこに現在問い直されている大きな課題がみえてきました。単純で複雑な課題――それは民主主義とは何なのか、という我々が真正面から考えなければならない問題です。
 

「民主至上主義」――民主主義が規制によって脅かされる?

 今、「民主至上主義」という言葉が世界に飛び交っています。
 よくよく考えると、アメリカの共和党も民主党もこぞって「民主主義とは」というテーマに従って選挙を運営してきたことがわかります。
 
 イーロン・マスク氏がTwitterを買収して、Xと名を変えたとき、多くの人が旧Twitterを偲んでアカウントを閉じました。日本ではこの現象はあまり知られていませんが、その結果新たなSNSが登場し、アメリカを中心として利用者が増えつつあります。例えば、Blueskyのような昔のTwitterをそのまま踏襲したサービスが浸透しはじめました。日本では、Xへの批判はそれほど高まりませんが、Instagramと連携したThreadsなどの利用者が増えてきていることは知られています。
 
 Xの運営を始めたとき、イーロン・マスク氏は、極端な政治的スローガンを発信していたことで凍結されていたアカウントを一斉に凍結解除としました。その意図は、民主主義はどんな議論や意見に対しても開かれていなければならないということでした。たとえメッセージが人種的な偏見や、偏った個人攻撃などに支えられていても、それはそれで一つの言論だというわけです。一方的な判断でそれを封鎖すること自体が、民主主義を阻害する行為であるというのがその背景でした。その結果、フェイクニュースに対しても、かなり規制が緩和されたのです。
 
 ここで批判されたのが、民主主義エリートと呼ばれる集団です。
 それに属する人々は、学歴があり、多くが中産階級以上で、自らの権利に対しても敏感です。彼らの多くは、民主主義には守られなければならないルールがあり、それを逸脱した行為は戒めなければならないと考えます。アメリカの場合は、移民による多様性を大切にして、銃などによる暴力を排除し、すべての人に均等な機会を提供するためには、行政や立法での指導と規制が必要だと主張します。
 他の人々は、そうしたエリートによる規制の論理に強い反発を覚え、それは価値観の押しつけであって、民主主義の基本的なルールを逸脱していると捉えるのです。
 
 後者への考えを分析したときに、民主至上主義という言葉が生まれました。このテーマについて掘り下げたエミリー・フィンレイ氏による著書『民主至上主義』The Ideology of Democratismが注目を集めている理由は、こうした一部のエリート層が唱える理想主義に、民主主義が脅かされていると思う人が増えたからです。
 
 そもそもインターネットの世界は、究極の民主至上主義を具現化したものといえます。例えば、ChatGPTが登場する前に、多くの人が情報源として頼っていたのがウィキペディアでした。このツールの発想は、誰かが情報源を記載したときに、それをみた多くの人が、そのコアとなる情報にさらにそれぞれの情報を付加することで、次第に情報の質と正確さが上がってゆくというものでした。
 
 そして、現在のAIの場合は、無数のデータベースを集積して繋げることで、ウィキペディア以上の情報をどんどんユーザーに与えてくれます。ただ、ウィキペディアとの違いは、ユーザーがプロアクティブに自らの意思で情報を検索することによって、その個々人が欲する情報に到達できるということです。ウィキペディアの場合は、ユーザーはあくまでも書かれている情報を読む立場にある場合が多いわけですが、生成AIの場合は、個々人が取りたい情報にどんどん首を突っ込む形で、その質が深まるとされているのです。ただ皮肉なことに、その情報が客観的であるという保証はありません。
 そうした情報にアクセスする行為は、言論の自由という立場からは当然認められるべきことでしょう。しかし、そこで仮に偏った情報を獲得した場合、そのハレーションに対してAIは何も責任を取ってはくれないのです。
 

民主至上主義が掲げる「自由と欲望の共存」は可能なのか

 こうした環境のなかで、我々は言論の自由を保障する民主主義について考えなければならないのです。
 実は、民主主義の基盤をつくった一人ともいえる、アメリカ第3代大統領のジェファーソンは、多少共産主義的な発想をもった人でした。彼は、本来の民主主義社会とは農民のように、個々が生産をして、生活を成り立たせている独立した人間による意見の交換によって保たれるべき社会だと語っています。利害関係によって人が影響をし合うことで民主主義が歪められるリスクを予言していたのです。
 そして、共産主義の立役者だったロシアのレーニンも、すべての民衆が平等に扱われるという理想を実現するためには、人々の教育が必要だと説いています。彼はその第一段階として労働者による独裁によって、政権を運営するべきだという主張を掲げています。つまり平等を実現するためには強制力と教育活動が必要だと説いているわけです。民主主義を徹底させるためには、レーニンと同様とはいわないまでも、ある程度の規制が必要だと主張するのが、民主党を支持していたエリート層だったのです。
 
 そんな主張に反対し、規制をできるだけ撤廃し、自由な経済活動と言論活動ができる社会を推し進め、そのためには海外のいざこざからも距離をおこうという人々が支持して発足したのがトランプ政権です。我々はどこまで楽観的にこの結果を見続けることができるのでしょうか。
 
 経済活動も自由にし、人々の行動も自由にしたときに、我々はその環境のもとで人間という生き物を信頼することができるのか、という本質的な課題をここに突きつけられています。それは言い換えれば、人が、欲望とテリトリー意識、そして財産を守るために他者を排除するという本能的な心理をもったまま、民主至上主義の理想を求めることが可能なのかという疑問です。こうした欲望があるが故に、それが阻害されたと感じたときに、人々はどのようにして情報をとり、判断し、行動するのかというテーマを我々は解決できずにいるのです。
 
 AIやSNSが進化を遂げるなかで、この本質的な疑問を見つめながら未来を予測することは、イーロン・マスク氏が思うように簡単なことではないように感じられます。
 

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