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右傾化が進むヨーロッパ社会の狭間で

The far-right Alternative for Germany (AfD) almost doubled its vote share and surged into second place. But it is likely to be frozen out of power as other parties are refusing to work with it.

(極右政党『ドイツのための選択肢(AfD)』は得票率を倍増し2位に。しかし、他の政党が協力を拒否し、政権運営には関われない模様)
― CNN より

ストックホルムの空港で目にした世界情勢の一端

 午前6時、ストックホルムは夜明け前でした。
 激しい雪の中を駐機場に向かいます。ウクライナで戦争がはじまって以来、ヨーロッパへの空路はロシア上空を避けるために、今まで以上に時間がかかります。北極の上空を通過したときはオーロラが見事でした。
 EUへの入国は、過去の経験からもそれほど時間がかからないものと思っていました。しかし入国審査のところに行ったとき、状況が違うことに気づいたのです。
 
 私の搭乗した便の他にもう一便があったのか、そこには中東系の人々がたくさん並んでいました。
 やっと私の番になったとき、審査官は今までにはないほど細かく質問をしてきます。これからどこに移動するのか、帰国はいつなのか。それを証明する書類を見せて欲しいなど、過去のEUの入国ではありえない質問を受けたのです。
 
 私の横で、別の審査官の面接を受けていた女性が、「私にフレンドリーになって欲しいわ」と呟きます。彼女は服装からしても明らかに中東からの入国者で、不安そうに審査官を見つめています。「すべての書類が整い、それが正しければ問題ないのですよ」と、男性の審査官は答えます。幸い、彼女は私がそこを無事に通過したあと入国が許可されたようで、到着ロビーで出迎えた家族と抱き合って再会を喜んでいました。見るとロビーのあちこちで似たような光景があることに気付きます。
 
 EUに移民が増えていることを実感した一瞬でした。
 

タクシー運転手が語る難民たちの過酷さ

 空港の外に出ると、雪はますます激しくなっていました。電車だと後が大変かと、タクシーの利用を決め、何台も並んでいるタクシー乗り場に向かいます。運転手は、親切に私の荷物を積み込んで、にこやかに定額料金だと車に貼っているステッカーを見せて私を安心させようとしています。
 
 その顔は、明らかにエチオピア系の顔だなと思い、運転をはじめて間もなく、エチオピアの人ですかと運転手に問いかけました。もう、夜もすっかり明けて、フロントガラスの向こうは横殴りの湿った雪が視界を遮ります。
 
 「いえ、エリトリアからですよ」
 彼はにこやかに答えます。こちらではよくある会話でした。
 「エリトリアといえば、隣国のエチオピアと戦争をして、大変だったんでしょう」
 「そう。しかも国は独裁政権の下で、貧困に喘いでます」
 「家族はすでに呼び寄せたのですか?」
 私は、あの空港の到着ロビーの様子を思い出して問いかけます。
 「無理です。昔と違って、今のEUは難民を簡単には受け入れません」
 
 しばらく沈黙が続きました。より厳しくなる世界情勢の一端を垣間見たのです。
 そういえば、ドイツも右派勢力が急進して移民への排斥運動もおきています。今回の選挙と、その後の行方が気になります。
 それにしてもストックホルムには、中東やアフリカからの移民が増えたなと実感しました。彼らの多くは、この運転手のように過酷な人生を背負っています。
 
 「うーん。頑張って働いて送金しているんですね」
 私はそう、語りかけました。
 「でも、いつ家族と再会できるかはわかりません」
 「何年ストックホルムで働いているの?」
 彼は、すでにこちらに来て8年になるといいます。
 そして彼は自らの経験を語り出しました。
 
 エリトリアは紅海に面した北アフリカの小国です。そこでおきている飢餓や貧困、さらには抑圧を逃れるには、多くの人が隣国のエチオピアやスーダンに向けて出国します。実は、シアトルに住む私の友人も、若い頃に同じルートでスーダンに逃れ、その後サウジアラビアに移住した経験があったのです。
 
 この運転手の場合はもっと大変でした。スーダンから北に向かい、サハラ砂漠をほぼ3週間さまよって、リビアに辿り着き、そこで小さなボートに乗せられたのです。移民を導く業者が高額な料金を彼らに課してこうした手配を行います。彼の乗せられた小舟にはなんと500人が詰め込まれました。
 地中海をわたり、なんとかイタリア沿岸にやってきたとき、イタリアの沿岸警備艇に救助され、難民キャンプに送られたのです。遭難しなかったことは、ただただ運がよかっただけだと彼は語ります。そして、そこでスウェーデンに送られたのです。自分の身に何がおこるか、何もわからなかったと彼は語ります。
 
 国連の難民高等弁務官事務所によると、一時はエリトリアからだけで毎月4千人以上の難民がヨーロッパに押し寄せようとしていたのです。
 私はストックホルムには7年ぶりにやってきました。街では確かに今まで以上に多様な人々が生活をしています。
 
 頑張ってねと運転手を激励してホテルに入り、チェックインをしたあと、身の回りのものを買うために、地下鉄で中央駅のショッピング街に向かいました。そこで、うがい薬と歯ブラシを購入し、レジでカードを出したところ、レジの若者から「どこから来たんだい」と質問されました。「東京だよ。君は?」と彼に質問を返したところ、「アフガニスタンさ」と答えてくれました。戦争やタリバン政権の圧政を逃れて、命懸けでトルコやロシアを経由してアフガニスタンの人々がEUにやってきています。彼もきっとその一人なのでしょう。
 

社会経済を支える難民に迫る排斥の動き

 駅の雑踏の中で、ココアを注文して一休みしながら往来を眺めました。この国の中でレジを打ったり、タクシーを運転したりして社会を支える人々の多くがこうした移民であることに気付かされます。そしてそこを歩く雑踏の誰が彼らを支援し、誰が排斥しているのか、表からはわからない複雑な事情がみえてきます。
 
 ホテルに戻り、テレビをつけると、ニュースで経済評論家が、こうした移民がなければ社会が回らない現実があり、さらに彼らのもたらす多様性が将来のヨーロッパの進歩には欠かせないと解説します。ドイツの経済も今失速の傾向にあると彼女はいいます。ここで移民を排斥し、社会が混乱すると、経済的な回復も難しくなると警告します。選挙の後の情勢が気になります。
 
 「出国を試みる者は容赦なく狙撃され、逮捕されると拷問が待っていた」
 あの運転手はこのように語っていました。家族の出国はEUの政策の変化だけではなく、エリトリア側でも命懸けなのです。
 
 今、アメリカはトランプ政権になり、ヨーロッパでも右派勢力が台頭しています。その狭間でこれからの社会の変化を不安な面持ちで眺めている人々と、スウェーデンに入国早々、何人も出会ったことに複雑な思いを抱いたのでした。
 

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