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トランプ関税のもたらす経済ではない本当の影響

Well, it wasn’t easy, but Trump did it.
He ended the several hundred year friendship between the US and Canada — our neighbor and closest ally.
Isolationism is a dumb idea, but going out of your way to get countries around the world to actually hate us is even stupider.

(簡単なことではない。でも、トランプはそれをやってしまった。
隣国かつ最も親しい同盟国であるアメリカとカナダ。その数百年にわたる友好関係を終わらせたのだから。
孤立主義は愚かな考えだ。しかし、わざわざ世界中の国々から嫌われるようなことをするのはもっと愚かなことだ)
― Bernie Sunders の X より

アメリカの関税を被るのはアメリカの自動車メーカー?

 トランプ政権発足以来、世界はより閉鎖的になろうとしています。
 人々の心から余裕が消えようとしています。物価高に加え関税の導入による不安が、消費意欲や移民へのケアのために必要な精神的ゆとりを人々から奪っています。今回、トランプ政権が発動した25%の関税についていうならば、その実質的な効果よりも、こうした行為がもたらす人々への精神的な影響の方が気になります。
 
 日本で生産され、完成した自動車を輸出する場合、25%の関税によって、25%価格がアップするかというと、そこには疑問が残ります。
 冷静に考えれば、数年前まで円とドルとの為替は1ドル110円前後でした。実はバブルがはじけた後の経済難の時期に、1ドルが70円台にまで上昇したこともありました。仮に現在の為替レートが150円として、数年前と比較すれば円安で輸出に与える影響はおおよそ27%です。とすれば、仮に25%の関税がかけられても、企業は1ドル100円、さらには90円での生産をも視野にいれることができるはずです。物価高は世界的な傾向なので、ここでは物価上昇による価格上昇は除外して考えています。
 
 一方、ホンダのように、アメリカで販売する車のほとんどがアメリカ国内で生産されている企業は、その部品の多くをメキシコなどから調達しています。
 しかも、アメリカ国内工場の場合、現地従業員の雇用条件等の問題から、メキシコ等海外からの部品を使用して25%余分に支払いをした場合、そのコストの補填は日本国内のように簡単にはいきません。下請や労働者との連携した問題解決が困難だからです。ただ、実は日本の下請業者の多くもアメリカに進出しているため、そこでの連携によって今回の課題を乗り越えることはある程度可能でしょう。
 
 となると、課税の影響を一番被るのは、もしかするとアメリカの自動車メーカーかもしれないという皮肉な点が浮かび上がってきます。
 こうした業界ごとの内情を冷静に分析して、危機をチャンスとすることができれば、トランプ大統領の思惑とは対照的に、日本企業は思わぬ強さを発揮できるかもしれないのです。
 

物価高と関税の応酬によって生じる排外主義の懸念

 ただ気をつけたいのが、最初に解説した心理的な効果の方です。
 関税の発動を受けて日経平均株価が1日で1500円以上も下落したことでわかるように、人々は日々のニュースの表層に左右され動揺します。この精神的な面を企業が悪用して、過剰な値上げや人件費の抑制を行えば、社会に与える負の影響は甚大です。
 
 さらに巷で海外からの労働者への差別などが横行していることへの注意喚起も必要です。このリスクはヨーロッパ各国でも同様です。いわゆるリベラルと称される与党が単独で政権を運営することが困難になっているEUの国々では、この精神的なインパクトがそのまま選挙の結果などに跳ね返ってきかねないのです。
 実際3月中旬に訪問したトルコで、月末に物価高などに苦しむ人々の大規模なデモがイスタンブールなどでおこり、政情不安が表面化したことも報道されています。同様のリスクは西側諸国でも充分に考えられます。
 
 そして、日本でも状況は変わりません。関税の影響がなくても、ウクライナでの戦争等によって、市民が物価高に苦しんでいる現実に変化はないのです。
 つまり、実際の関税率の引き上げより、そうした一連の行為によって不安が蔓延し、人々の心に余裕がなくなることの方が、関税の経済的波及の問題よりもはるかに深刻なのです。
 
 民主党の元大統領候補で、アメリカの中にあって左翼運動の騎手とされるバーニー・サンダース氏が、高齢にもかかわらずこうした人々の心理的作用に対して、力強いメッセージを送り続けています。
 彼はXなどで、トランプ政権の政策を痛烈に批判しながら、右傾化するアメリカ市民に目を覚ますように訴えています。そんな彼が最近、ヘッドラインで紹介したように、トランプ政権がカナダとアメリカとの長年の友好を台無しにしていると指摘しました。
 関税の矛先をカナダに向けたときから、当時のトルドー首相に続き、カーニー新首相も強く反発し、アメリカの国民に向けてこの政策がいかに愚かであるかを、さまざまな機会に発信を繰り返しています。
 
 EUの中では特にドイツも同様の対応を行なっています。一方、対照的なのが韓国と台湾でした。双方ともアメリカへの投資を増やすので、関税を回避してほしいとアメリカ側ににじり寄り、韓国は実際にアメリカ国内に自動車産業の拠点の一部を移転する計画も発表しました。中国の深刻な脅威にさらされている台湾も、アメリカでの半導体工場の拡張の意向を公にしました。実は、その煽りをうけ、北九州に進出を予定している半導体製造の大手下請会社の工場建設にまで影響がでそうだという状況です。
 
 では日本はどうでしょうか。日本は日本側の関税障壁の見直し等を申し出て、アメリカに再考を促してはいますが、アメリカを非難し、日米関係のあり方を見直すという動きは皆無です。カナダやヨーロッパ主要国とは対照的に懐柔策にまわる一方です。この政策がうまくいくかは疑問です。
 残念なのは、このようにドイツやカナダ、さらにはメキシコなどと連携した毅然とした対応が国際間で成立していないことです。その一点で、日本の政治家や官僚のリーダーシップの欠如には失望するところです。
 
 こうした、是は是、非は非という意思表示ができないことで、国民に誤解を与え、人々の心理に与える影響のほうが心配です。トランプ政権のアグレッシブな外交政策に翻弄され、世界的に人々が閉鎖的で内向きになろうとしているなかで、抑鬱された感情が爆発するとき、その矛先が排外主義など思わぬ方向に向いてゆくことを懸念すべきです。
 ヨーロッパでもその懸念を実感しただけに、ここは冷静にかつ毅然とした対応を政府はとるべきなのではないでしょうか。
 

混迷を極める情勢のなかで求められる国際連携

 ウクライナやガザの問題に加え、アメリカに翻弄されるロシアや中国が今後どのような行動にでるかは確かに脅威です。中国の場合、国民感情の矛先を台湾への侵攻に転嫁する可能性がないとは言いきれません。であればこそ、国民や企業、そして政治家や官僚などの社会すべてが、世界を覆うインパクトに対して数字や科学に基づいた分析を行い、海外と連携した対応策をとってゆくように声を掛け合う姿勢が求められるのです。
 

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