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発想を変えたい超大国の間に揺れる東南アジアとの国際交流

Some residents of Sabar Bubu and nearby areas said they had been detained by the police for protesting against Mayawana and had lost their livelihoods because of the deforestation.

(サバル・ブブ〔カリマンタン西部〕及び周辺地域の住民の一部は、マヤワナ社への抗議活動を行なったことで警察に拘束され、森林伐採によって生計手段を失ったと訴えた)
― New York Times より

カリマンタンに積極投資するインドネシア政府の思惑

 インドネシアのカリマンタン島は、同国で最も大きな島で、ジャワ島と東南アジア諸国の間に位置する戦略的にも重要な場所として知られています。
 島の北側は経済成長著しいマレーシア領で、そこと対岸のベトナムの間はまさに中国が覇権を主張する南シナ海にあたります。
 島全体はボルネオ島とも呼ばれていますが(マレーシア側の呼称)、カリマンタンの語源を探せば、サンスクリット語の火の鳥やマレー語の巨大な深い森の島など、いくつかの説にでくわします。
 ジャカルタから北に向かって2時間ほど飛べば、バリクパパンというカリマンタン島の玄関ともいえる都市に到着します。ここで教師を勤めるFXナナンと最近知り合うことができたのです。
 
 彼は、高度成長に入ろうとしているインドネシアの教育事情について、現在スターリンクによって、遠隔地の子どもでも教育を受けることができるようになったと語ってくれます。
 イーロン・マスクが設立したSpaceX社が提供するスターリンクが、インドネシアに導入されたのは2024年のこと。これで島国であるインドネシアでも遠隔地や離島などでの教育活動が活性化されるというわけです。
 2024年といえば、アメリカでは大統領選挙の年にあたり、今や憎しみあっているイーロン・マスクとドナルド・トランプとが急接近した時期にあたります。
 
 そして、インドネシアはというと、通信やインターネット事業の中に中国資本が過剰に進出し、中国依存への懸念が政治問題化していた時期でもあったのです。
 インドネシア政府は、もともと中国からの資金導入に熱心で、ジャカルタからバンドンまでの新幹線の建設も、最終段階で日本の新幹線の導入から中国へと切り替えたことは有名な話です。
 しかし、こうして完成した新幹線は、人口密集地へのアクセスも悪く、運賃も高いために赤字がかさみ、今やインドネシア政府の頭痛の種となっています。これは、中国の一帯一路政策による強引な経済進出に東南アジア諸国がさらされていた頃の負の遺産ともいえそうです。
 
 そして、今インドネシアはこのカリマンタンへの投資を積極的に進めています。あと数年で、首都機能もジャワ島のジャカルタからカリマンタン島のヌサンタラへと移行しつつあります。インドネシア初のスマートシティ構想によって建設される新首都は、ナナンの住むバリクパパンから湾に沿って内陸に入ったところに位置し、目下急ピッチで建設が進んでいるのです。
 当然、バリクパパンを中心としたカリマンタン一帯は、この新首都建設の恩恵を受け、スターリンクなどの新たなインフラによる教育振興のモデル地区になろうとしているわけです。
 

インドネシアがめざす経済的独立と新首都の建設

 そんな最近のインドネシアの動きは、我々が東南アジアを見つめるときの象徴的なヒントとなりそうです。
 南シナ海で、ベトナムやフィリピンと中国との海洋覇権をめぐる争いが頻繁になるなかで、インドネシアとしても中国の経済力には興味を示しながらも、安全保障や経済的な独立を保つためには、アメリカや日本というもう一つの経済圏との連携が必須になっているのです。
 
 逆にいえば、インドネシアはどちらの経済圏ともある程度距離と独立を保ちながら、したたかに国を発展させようという思惑があるのでしょう。しかし、スターリンクの導入後、トランプ政権が成立したあと、彼が世界中に高関税をかける政策を打ち出したとき、インドネシアには32%の税率が提示されました。成長をはじめたインドネシアにとって、これは致命的な痛手となります。しかもスターリンクの導入は、トランプ大統領とイーロン・マスクとの訣別で、アメリカ政府の評価の対象とはなりませんでした。
 
 2024年に発足したプラボウォ政権は、急ぎアメリカに接近し、経済協力についての包括協定を締結させました。アメリカの製品を関税なしで受け入れ、積極的にアメリカとの経済協力を進めることを条件に、なんとかアメリカ側の輸入関税を19%にまで引き下げたのです。
 こうした影響下で、目下急ピッチで進める新首都の建設からは、中国資本は大きく後退しました。海外援助は新首都周辺のインフラ建設に限定され、インドネシアの国家予算と国有企業の援助による自主的な建設が進められるようになったのです。
 
 しかし一方で、こうした急激な開発が、カリマンタンの名前の由来ともなっている世界的にも貴重な森林資源の破壊につながっているという指摘もあります。それが、今回紹介したインドネシアの巨大コングロマリットに属するマヤワナ社の森林伐採を糾弾するニューヨーク・タイムズのヘッドラインです。
 

求められているのは、格差のない人と人との交流を助けること

 実は、この中国とアメリカとの冷戦によって、ヨーロッパにしろ、日本にしろ、もともと親密な関係にあった地域での経済的なプレゼンスに影響がでようとしていることは気になるところです。アメリカは軍事的には同盟国としながらも、経済的にはライバルであることが、トランプ政権になって鮮明になってきているのです。その背景の中で、日本が最も経済交流を求める東南アジアが、アメリカと中国の強引な外交政策に翻弄されながら、日本との関係に以前ほど熱心でなくなりつつあるのではないかと懸念するのです。
 
 日本のインフラには到底追いつかないという事情の中で、スターリンクはとても手頃で重要なインフラだとナナンは語ります。しかし、経済が振興しつつある地域と、そうでない地域との格差によって、いかにスターリンクがあっても、そのサービスを充分に受けられない地域もあることを、彼は強調していました。
 
 日本の経済戦略を考えたとき、このナナンの指摘はとても参考になります。新幹線やスターリンクのような大掛かりで最先端の援助はキラキラと光って見えるでしょう。
 しかし、世界情勢に左右されながら成長を進めたいインドネシアのような国々が求めているものは、もう一つの見えないインフラ整備なのです。
 
 それは、地方の人々が格差なく栄養を摂取し、医療を受け、そして肌に触れることのできる人と人との交流による教育や経済援助の機会を促進させることなのです。その一つが、ここでも触れた森林資源の保護と地元住民の生活とを共生させる問題への取り組みなどではないでしょうか。アメリカにも中国にもできない、人と人との交流の積み重ねによる触れ合いの援助こそ、これからの日本が考えなければならない戦略といえるのです。
 

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