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21世紀の4分の1を終えて

For more than a decade, war has ravaged the Middle East. From Syria to Lebanon, Israel to Gaza, hundreds of thousands have been killed or wounded. After so much bloodletting, the region now stands at a crossroads. Will it persist in conflict, or forge a brighter future?

(数十年にわたり、戦争が中東を荒廃させた。シリアからレバノン、イスラエルからガザ。数十万人が死傷した。これほどの流血の末、この地域は今や岐路に立っている。紛争を続けるのか、それとも明るい未来を切り開くのか?)
― The New York Times より

(編注:この記事は2025年12月30日に執筆されたものです。)

米同時多発テロ事件で幕を開けた21世紀

 2025年もあと2日です。
 振り返れば21世紀がはじまった2001年がほんの少し前のことのようで、時の経つことの早さに驚かされます。
 
 21世紀の4分の1が過ぎ去ろうとしている今、どうしても忘れられないのが、今世紀のまさに初めにアメリカでおこった同時多発テロ事件なのです。
 あの頃、私はニューヨークのスプリング・ストリートに、取材基地でもあり、編集プロダクションでもある小さなオフィスを持っていました。
 たまたま仕事で日本に帰国していた最中に、あの事件はおこりました。オフィスから、崩壊したワールドトレードセンターまでは歩いてもそれほど遠くはありません。当時勤務していた人に聞くと、崩壊したビルの臭いが通りにまで届いていたそうです。
 
 事件の直後、アメリカは軍事行動にでました。事件の首謀者であるオサマ・ビン・ラディンが潜伏していたとされるアフガニスタンを空爆し、テロの温床といわれた当時のタリバン政権を壊滅させました。同時に、イランにも軍事介入し、サダム・フセイン政権を壊滅させました。
 
 今、振り返れば、あの事件から中東のありとあらゆる混乱がはじまりました。ヘッドラインで記したように、その混乱こそが21世紀の先のみえない世界情勢の原因となりました。それは単に中東だけの問題では終わらなかったのです。あの事件を契機に、新保守主義(ネオコン)と呼ばれるアメリカ至上主義を標榜する人々が政治の表舞台にでるようになりました。同時多発テロによって、アメリカ人の世界を見る目は大きく変化していったのです。
 
 トランプ政権は、その延長に誕生しました。
 同時多発テロとトランプ政権誕生の間には、リーマン・ショックという経済危機もあり、不況に揺れるアメリカ社会はその捌け口を、移民や多様性といったアメリカ社会の根幹となる従来の価値観への懐疑と憎悪に向けました。
 
 そんなアメリカ社会の変化に並行するように、科学技術の進歩によるソーシャルメディアやAIが人々の生活に大きな影響を与えるようになり、新たな技術で市場を牛耳る少数の人々が、社会の上に君臨する「テクノ封建制」とも呼ばれる国家を凌駕する巨大産業が、国家とは全く別の角度から世界に君臨するようになりました。そんな新たな変化の中で、人々は情報の滝の中におかれ、情報の真偽を確かめるまでもなく、それらに翻弄され、誘導されるようになりました。
 アメリカの大統領選挙でも、SNSを通じて国民を洗脳する認知戦が繰り広げられ、時にはそこに海外からの世論誘導もあったのではといわれています。
 
 この新たなITとAIの進化と、同時多発テロ以降のアメリカの右傾化現象とは無縁ではありません。左翼であろうと右翼であろうと、ポピュリズムの背景には必ずこの新たな技術による洗脳活動が行われているのです。
 
 そして、こうした社会の変化に大きな影響を与えたのが、新型コロナのパンデミックでした。人と人とが直接交流することを完全に妨げた18か月の間に、社会のあちこちでそれまでの生活習慣が失われました。部屋に閉じ込められる孤独を癒したのもデジタル技術でした。
 今、人類は近未来に起こるであろう、次のパンデミックにいかに備えるかという大きな宿題を背負っています。地球の温暖化などによる気象異変がこうした次の大惨事の引き金になるかもしれません。
 
 21世紀の最初の4分の1は、同時多発テロ事件にはじまり、ITやAIの進化によって世論形成のあり方が変わり、パンデミックによって生活習慣が変化する中で、人々の価値観を変えていったのです。
 

言論統制と排外主義に揺らぐ国際政治

 一方、国際政治では、中国が台頭し、それと並行して民主主義化の形成に失敗し、消化不良を起こしたロシアも中国と同じような権威主義国家に変貌し、ウクライナへの侵攻もはじまりました。
 中国にしろ、ロシアにしろ、こうした政策を維持するためには強い言論統制が必要不可欠でした。中国は海外からの自由な空気を送り込む窓口であった香港を完全に統率し、国際社会では強い経済力を背景にアジアのみならず、アフリカや南米までもその経済圏に取り込もうとしました。
 
 「デジタル・リヴァイアサン」ともいえる、国家が最先端の技術を用いて国内の言論を誘導し、それを外交活動にまで応用しようとする動きが、世界に脅威を与えました。これが、アメリカを刺激し、アメリカ社会の中でネオコンの台頭以来くすぶっていた排外主義に拍車をかける結果となりました。
 もちろん、アメリカも中国と同様に、自らの国家のアイデンティティのもとに内外をコントロールしようとしているという、もう一つの事実があります。こうした動きが2010年以降、ポピュリズムとして人々の投票行動や世論形成に大きな影響を与えるようになったのです。
 
 その結果、戦後の価値観や体制が大きく揺らぐ現象が頻出するようになりました。EUの結束が緩み、イギリスはEUから離脱し、加盟諸国の中でもEUの理念と距離をおこうとする動きがみられるようになりました。
 さらに、ウクライナにロシアが侵攻しても、ガザ地区で何人もの人が殺害され、劣悪な環境におかれても、国連は有効的な対策を講じられず、その存在意義が問い直されるようにもなりました。
 アメリカは公然と国連のさまざまな活動から距離をおき、第二次世界大戦への反省から生まれた国連の活動そのものが形骸化しつつあります。
 

我々はこれからの25年をどう生きてゆくのか

 これらの変化を我々がどのように捉え、これからの新たな25年間を生きてゆくのか、近未来を占うことは極めて困難です。
 社会の常識や価値観を維持するために、戦後になってつくられた社会ルールともいえるガードレールが今老朽化しつつあるなかで、それをどう守り、刷新するか。これから我々はAIやSNSによってではなく、孤独な人間の知恵をもって考えてゆかなければならないのです。
 
 どうぞ、良い新年をお迎えください。
 

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『日英対訳 英語で読む地政学』山久瀬洋二 (著)、エド・ジェイコブ (訳)日英対訳 英語で読む地政学
山久瀬洋二 (著)、エド・ジェイコブ (訳)
国の位置や地形、海路などの“地理的条件”が、国家の戦略や国際関係にどのような影響を及ぼしてきたかを考察する「地政学」。そのような一般的な「地政学」とは少し視点を変え、気候変動などの気象や、そこから発する海洋への影響、文明の発達による山や川の環境変化などに着目。それが人々の生活にどのような影響を及ぼし、そして人類の歴史をつくってきたのかを解説します。科学の進歩とともに、旧来の地政学がすでに時代遅れになりつつある時代に、環境問題の深刻化や社会に広がる分断、それらを背景に問われる国家戦略のあり方を日英対訳で考察します。国境の向こうを理解する教養が、英語とともに身につく一冊です!

 

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21世紀に入って、間もなく25年を迎えようとしています。社会の価値観は、SNSなどの進展によって、よりミニマムに、より複雑化し、ややもすると自分自身さえ見失いがちになってしまいます。

そこで、これまでの25年、そしてこれから22世紀までの75年を読者の皆様と考えていきたいと思い、インタラクティブな発信等ができないかと考えております。

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