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日本のオリンピック報道の向こうで拡大する欧米での反イラン抗議

About 250,000 protesters rallied in Munich against Iran’s government, heeding exiled Crown Prince Reza Pahlavi’s call for intensified international pressure on Tehran.

(ミュンヘンに約25万人の抗議者が集結。亡命中の皇太子レザ・パフラヴィーの呼びかけに応え、テヘランへの国際的な圧力を強化するよう訴えた)
― LA Times より

冬季オリンピック報道に隠されてしまう反イラン政府デモ

 1月にイランで反政府デモが拡大して、一か月以上が経過しました。
 ある情報によれば、犠牲者は4万人を超えているともいわれています。今、イラン情勢は混沌とした状況のまま、怒りをどこに持ってゆけばよいかという閉塞感と、ここからなんとか突破口を、という人々の想いが入り混じって、世界中にデモの余波が拡散しています。
 実は、日本でも先週末に、東京でイラン系の人々を中心とした反イラン政府集会とデモがありました。しかし、同日にドイツのミュンヘンを埋め尽くしたイラン系の人々の抗議活動は、規模や激しさがその比ではありません。25万人を超える人々がイラン政府を糾弾する集会に参加したのです。この日、イラン王室の血をひくパーレビ氏の呼びかけで、世界中で抗議運動が展開されたのです。カナダのトロントでは、その数は35万人にのぼったと報道されています。ロサンゼルスでも同様です。
 
 そんな日、ミュンヘンのそば、アルプスを越えたイタリアでは、冬季オリンピックに世界中の選手が集まり、日本のメディアもそこで活躍する選手の中継に明け暮れていました。そして、ミュンヘンでの出来事など一連の活動は、なぜか日本のメディアは取り上げません。
 
 イランの問題は、単にイランという一国の問題ではありません。例えば、ウクライナにロシアが侵攻しているなか、イランの現政権はドローンなどをロシアに供与してロシアの後押しをしています。さらに、核問題でいうならば、イランは中東において核開発を公言し、進める国家として国際社会の緊張の原因となっています。そして、イランは石油をはじめ貴重な天然資源の産出国です。
 日本は、イランとは石油などの輸入相手国であるということで、こうした国際問題に対する公でのスタンスの表明を避けてきました。そのことが、日本の報道の怠慢につながり、世論の無関心の原因にもなっているのかもしれません。
 
 そんな日本では、海外の報道といえばオリンピックのみに占有されているなかで、世界ではこうした悲痛な抗議や叫びが拡大しているわけです。
 

介入に踏み切れないアメリカと“MIGA”を期待するイラン国民

 イランの問題は国際社会のねじれを象徴しています。
 アメリカの利益を優先しようと、極端な移民排斥や関税政策を進めてきたトランプ政権は、当初からイランに対して強硬な立場を表明してきました。これはイランでの自由を求める人々を大きく刺激しました。しかし、トランプ政権のさまざまな政策が内外で批判されるなかで、トランプ大統領は中間選挙でどのように自らの政治基盤を維持するかに必死です。それがトランプ大統領のイランへの行動にブレーキをかけているのです。
 
 すなわち、ベネズエラへの侵攻やグリーンランドの領有という国際社会の秩序に真っ向から挑戦しすぎたトランプ政権は、本当に援助が請われているイランへの一歩を踏み出せずにいるのです。これが、ハシゴをはずされないかという不安と共に、イラン国民の悲劇へと繋がっているのです。数万人の人々が自国政府によって殺害されている状況に、世界中で抗議活動が拡大しても、トランプ政権はカラカスでマドゥーロ大統領を拘束したような活動に踏み込めません。
 「イランはベネズエラやグリーンランドとは違い、本当にアメリカが取り組んで欲しい状況なのに」と、イランから亡命している多くの人々は嘆いています。
 
 ミュンヘンのデモでは、Make Iran Great Againという、トランプ氏のMake
America Great Againになぞらえたスローガンまで掲げられました。これは皮肉な事実です。というのも、このトランプ氏のスローガンのもと、アメリカに住む多くの移民が逮捕と送還の脅威に晒され、そうした政策を断行するトランプ政権の人種差別への抗議の輪が全米に拡大しているからです。そんなスローガンを、イランの人々が自由を求める抗議行動に使用していることの皮肉な事実こそが、イランの悲劇であり、イランへの国際社会の対応のねじれを生み出しているのです。
 
 イタリアでオリンピックが開催されたとき、開催会場のスクリーンに映ったアメリカのバンス副大統領へのブーイングが湧き起こり、メダルを獲得したアメリカ人選手の「自分はアメリカを代表しているが、トランプ政権は代表していない」というコメントに世界のメディアが注目しました。
 であればこそ、Make Iran Great Againとアメリカの介入への悲痛な期待を表明している人々の行き場のない辛さが滲み出てきます。世界の世論が、この複雑さをどこまで理解し、イランへの対応を考えてゆくかが気になります。
 

「報道の自由」があるとは言い難い日本のメディア

 最後に、こうした一連の動きをみるとき、改めて、日本のメディアのあり方に疑問を覚えてしまいます。
 
 いつもそうですが、オリンピックにしろ、ワールドカップにしろ、日本の主要メディアは視聴者の求める情報をただ伝えることに熱心で、どこのチャンネルでも同じ報道姿勢に徹してしまいます。世界中から得られた情報を自らが取捨選択し視聴者に知らせてゆくという、メディアがなさなければならない本質的な活動への怠慢があるようにみえるのです。報道の欠如は日本人の無理解と、時には誤解へとつながるのです。
 
 もちろん、これは日本だけの問題ではありません。国によっては、自らの国内問題ですら公平に報道できない国家があることも周知の事実です。
 しかし、もし日本が民主主義国家で、かつ先進国だという自負を持っているならば、もう少し地に足のついた海外からの情報があってもよいはずです。
 
 実際、報道の自由が日本にあるのかという課題は、世界の多くの国からも指摘されています。政府の顔色や自主規制、視聴率と収益、日本独特の同調圧力などに報道が左右されている実態への指摘もあります。記者が圧力なく取材をして報道できる権利を有しているかどうかという視点から報道の自由の実態をみたとき、NGOで国際的に活動する「国境なき記者団」の発表によれば、日本は世界180の国と地域の中で66番目にランキングされていることも参考にするべきでしょう。これはG7の国々では最低の評価です。
 
 イラン問題への日本の関心の薄さの背景に、こうした国の課題も絡んでいることを考えれば、我々の社会は我々が思うほど素晴らしいものではないという事実を突きつけられているように思えるのです。
 

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