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情報社会が直面する重大な曲がり角とは

The Hong Kong police on Monday arrested seven people, including Jimmy Lai, the media tycoon and critic of the Chinese Communist Party, on charges of violating the territory’s new national security law.

(香港の警察当局は月曜日、メディア王で反中国共産党の立場を明確にしていたジミー・ライ氏を含む7名を、新たに設定された国家安全維持法違反の疑いで逮捕した。)
― New York Times より

情報統制をめぐる米中の動きに見る SNS 社会の「分岐点」

 8月7日、TikTok、そして WeChatアメリカから排除する大統領令にトランプ大統領がサインをし、45日後に発効するとしたニュースが世界に衝撃を与えました。
 理由は、これら中国企業が開発した SNS アプリが、中国当局によるアメリカの企業や個人の情報収集に使用されているということで、この措置に対して中国が強く反発していることはいうまでもありません。
 
 これを受けてか、8月10日に香港でも動きがありました。それが今回のヘッドラインで紹介した事件です。
 香港や台湾で様々なメディア、そしてタブロイド紙を運営している Next Digital の創業者で経営者のジミー・ライ氏が、その重役らと共に、香港での反中国活動を煽っている容疑で逮捕されたのです。
 これは、中国が香港の問題に対して、断固として自らの姿勢を崩さないことを改めて内外に強調した出来事として、今世界に大きな衝撃を与えています。
 
 アメリカと香港でのこの二つの動きが、両国の香港の自治をめぐる争いに対する双方の牽制かどうかははっきりとしないものの、香港での緊張をきっかけに、アメリカと中国が抜き差しならない関係となっていることは、多くの人の認めるところといえそうです。
 
 一方、こうした一連の動きの前に、Facebook や Twitter でも大きな動きがありました。アメリカで人種差別問題がクローズアップされるなか、Facebook に白人至上主義者など、日本でいうならばネット右翼が人権を誹謗する記事などを投稿していることに対する効果的な措置を Facebook 側が講じないことに、アメリカの多くの企業が抗議をして、広告掲載を取りやめたのです。
 その一方で、コロナウイルス関連のトランプ大統領の投稿が事実に反するもので、社会の混乱を招くとして、Facebook や Twitter が一時トランプ大統領の投稿を制限したことも大きく報道されました。
 
 この20年間、ひたすら拡大を続けてきた SNS 業界が今、様々な側面から大きな曲がり角に直面しているのです。
 2016年、ちょうどそんな SNS の中でも Twitter を積極的に活用して大統領選挙に当選したのが、トランプ大統領でした。
 

トフラーが予測した「第三の波」は現代社会を分断する

 ちょうど同じ年に、一人の未来学者が他界しています。彼の名前はアルビン・トフラー。80年代のはじめに『第三の波』という著書を発表し、世界的に名をはせた人物です。
 彼は、人類が3つの大きな波によって歴史を塗り替えていると解説しました。
 最初の波は、古代の農業革命でした。人類が農業生産を始めたことが、人々の宗教や階級といった社会構造に大きな変化をもたらしたのです。第二の波は産業革命です。これはいうまでもなく動力革命で、欧米が世界を席巻した圧倒的な原動力となりました。そして、彼が予測した第三の波が「情報革命」でした。
 
 SNS は、そんな彼の予測を裏付けるかのような存在として、21世紀になって急速に拡大したのです。
 多くの人は情報革命による SNS の拡大を歓迎しました。情報革命によって、人々はあらゆる情報に自由にアクセスし、それを享受することでさらに情報の質が高まり、地球が一つになってゆくものだと期待したのです。
 
 しかし、第三の波によって予測された社会の価値観や政府のあり方の変化などが、決して単純なものではないことが、このところの一連の事件でわかってきました。
 たしかに SNS、さらにはネット社会が拡大することで、多くの人に情報を提供できるようになりましたが、それを担うのは世界中に拡散する多様な個人です。個人は自分の置かれている状況や立場に従って情報を発信します。すると、それに呼応する人がその情報に反応し、いわゆる情報を共有する輪(ループ)が出来上がります。
 
 ですが、このループは他の情報を好む人のループとは融合せず、まさに好みや思想信条に応じて様々なループが世界に生まれ、人々はその輪の中に孤立したまま、社会が分断されていったのです。
 政治的に偏った信条を持つ人は、対立する人々のループには入らず、敵愾心(てきがいしん)を煽るために相手のループの中を垣間見ることはあっても、お互いに混ざり合ってより質の高い情報社会を構築しようという動きからは、逆に乖離してゆきます。
 つまり、格差のある様々な情報のループの中で、人々がお互いを阻害し合うようになったのです。
 

拡大する公権力を前に我々はネット社会をどう生きるか

 そこに、政治が人々の情報へのアクセスに対し、コントロールを求めて介入します。中国での言論統制もその一つなら、今回のアメリカと中国との情報戦争も、もう一つの現象です。
 TikTok がアメリカ企業に買収された場合、そのアメリカでの運用が許可されると、大統領令に署名したトランプ大統領が条件を提示します。そして、マイクロソフトが TikTok の買収交渉に乗り出していることも公になり、大統領が設定した期限までに全てがうまく収まるか、世界が注目しています。
 
 一方で、SNS は確かに世界のあちこちで、公権力の管理の元に個人情報や思想信条を把握するために活用されてきました。それは、香港での騒動に象徴されるような中国だけの問題ではありません。実は、アメリカ政府もネットを活用し、テロ活動などの警戒を名目に、プライバシーに侵入しようとしていることは何度も報道されてきたことです。
 日本でも、マイナンバーと電信電話会社などとの提携により、個人の様々な情報が公の管理下に置かれようとしています。そして多くの人々は、そうした静かな動きに対して無関心です。
 
 第三の波は、情報革命を通して個人の疎外が拡大し、今まで以上に大きな権力を持つ政府を生み出す、という皮肉に直面しているわけです。そして、政府同士の利害が対立したとき、SNS は相手の政府や国民へ様々な影響を与える、きわめて危険なツールとして認識されているわけです。
 
 情報社会が直面するこの大きな曲がり角を、人類がどのように対処するか考えてゆくことは大切な課題です。というのも一歩誤れば、ネット社会によって、第二次世界大戦以来、人々が経験したことのない大きな混乱へと世界が導かれる可能性があるからです。
 

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