In a system characterized by long-term employment and internally closed labor markets, the personal cost of a failed experiment or an unconventional project is prohibitively high for individual managers.
Messy Middleとは何か
まず、Messy Middleという概念について説明しましょう。人類は常に、さまざまな過渡期を経て進歩し、社会変革を実現してきました。ルネサンスや産業革命のように長期にわたる過渡期もあれば、一つの発明やイノベーションを成し遂げるときの「産みの苦しみ」のような、短い過渡期もありました。Messy Middleを考えるときには、この「産みの苦しみ」という個々のイノベーションにおけるMessy Middleの連続と、大きな時代の転換というマクロな視点で起きる社会的動揺としてのMessy Middleとを、組み合わせてとらえる必要があります。
では、なぜ日本がこれを見落としているか。それを考えるとき、海外の社会学者が指摘するInstitutional Inertiaという概念を知っておく必要があります。Institutional Inertiaとは、新たな環境に直面したとき、企業が現状維持に傾いて変化を敬遠することを指すビジネス用語です。
例えば、MITスローン経営大学院の名誉教授エレノア・ウエストネイは、既存の技術を一歩ずつ改善することにかけて、日本企業は極めて優秀だと指摘します。ところが、AIの導入などでルールやビジネスモデルそのものが変わるときには、そうした変化がこれまで培ってきた方式を踏襲しないために、個人や部門がその方向へ進もうとすると、組織が極度にブレーキをかけるように働いてしまう––彼女はそう警告しています。
日本では、企業もマスコミも、AIによって日々の業務や生活がどう便利になるかという表面的な活用例ばかりに目を向けています。言い換えれば、現在から未来への変化を、つねに日本流の「改善」のプロセスで乗り越えようとする習性こそが課題なのです。AIがもたらす副産物を既存の社会制度に取り込もうと懸命になるあまり、AIそのものの核心を見据えたパラダイムシフトができにくくなっているのです。

リスクを取れない組織の代償
「名刺の整理をAIが自動で行います」とか、「生成AIに聞けば、今回のパーティに合った店を即座に探せます」といったコマーシャルや喧伝は、まさにこの、表層に執着した「改善」の意識にほかなりません。情報を手軽に獲得し、整理することで社会が便利になること自体は否定しません。問題は、それだけにとどまらない本質を、もっと知るべきだということです。
企業が改善ばかりに注力し、マスコミが「AIの時代はこうなる」と似たような話ばかり繰り返していれば、AI時代のマクロなMessy Middleと、その過程で起こるミクロなMessy Middleとを、どう組み合わせて未来に挑むのか––その道筋そのものを見誤ってしまいます。
組織の中で誰かがリスクを取り、それが失敗したとき、個人が吊し上げられ、マスコミが組織を叩き、テレビでよく見るように、会社の幹部数名がカメラの前で深々と頭を下げる––あの奇妙な儀式につながってしまう。だから、誰もリスクを取ろうとしません。そうした組織は、極度にMessy Middleな状態を嫌うのです。
例えば、自動運転車が一度でも事故を起こせば、まさにこうした事態に発展しかねません。そのため、すでにアメリカやイギリス(まもなく開始段階)で運用が始まっている完全自動のタクシーも、日本ではいつ導入されるのか見当もつきません。これはミクロでのMessy Middle、つまり過渡期における個々のリスクに挑戦できない、という日本の課題です。

シンギュラリティとどう向き合うか
次に考えなければならないのは、Singularityをどう見極め、それに合わせて社会や人生をどう適応させていくか、ということです。これは、マクロなMessy Middle を考えるうえで欠かせない発想です。
Singularityとは、AIなどの技術が人間の知能や予測能力を超える時点を指す言葉です。それを境に、技術的な進歩が、今では考えられないほどのスピードで加速するとされます。数十年以内にいくつもの職業が消えてなくなる、という課題も、この現象と関係しています。Messy Middle にともなうリスクに果敢に挑む開発の連続があってこそ、マクロなSingularityの時代に対応できる、というわけです。
アメリカでも、AIによって雇用の状況が変わりつつあり、多くの人が不安を抱いているのは事実です。しかし、そのSingularityがどの段階で起こるのかを正確に言い当てられる人は、今のところ存在しません。AIと人間との関わり方を、産業革命やルネサンスのようなマクロな時間軸でとらえる未来学が、まだ熟成していないからです。
ただ一つ言えるのは、リスクを嫌うInstitutional Inertiaに浸かったままの人は、状況の変化に対してつねに受け身になってしまう、ということです。そして、その受け身こそが最大のリスクなのです。これは、今世紀に入ってしばしば語られるSustainability(サステナビリティ)の観点からも、避けて通れない課題です。「あの人がこう言っているから」「同調圧力があるから」といった理由で動く行動パターンは、まさにInstitutional Inertiaから生まれる劣化作用です。日本がその劣化作用に慣らされ、無感覚になってしまうことこそ、最も危惧されるのです。
Singularityは、一度だけ起こるものではありません。例えば、産業革命期に蒸気機関が発明されたとき、人々は、これで社会は大きく変わり、技術は加速度的に発展していくだろうと思ったはずです。確かに、その後の蒸気機関の改善から、さまざまな内燃機関が生まれ、現在の自動車や飛行機につながっています。これは、ミクロなMessy Middle の連続が生み出した大きな進歩です。
こうした進歩を通じて、人類は、Singularityに似た大きな転換点をいくつも経験してきました。蒸気機関車、自動車、さらには飛行機と、その発展型であるジェットエンジンやロケット技術などなどです。
しかし、同じ産業革命期には電気も実用化され、そこからさまざまな通信手段が生まれて進化し、今では内燃機関を過去の遺物にするような革命が起きています。最初は蒸気機関車も電気機関車も同じレールを走っていましたが、現在のAI技術につながったのは、明らかに電気の世界でした。これが、マクロなMessy Middle から見えてくる結論です。
こうした正しい見極めと、果敢なイノベーションの連続によって、社会は発展してゆきます。安易なシンギュラリティの妄想や、「AI化」というお題目のようなポピュリズムに煽られることは、とても危険です。
まず大切なのは、一人ひとりが自分で判断し、行動する––その人間力に裏打ちされた知性を育てる教育をつくり上げることです。日本社会は、このMessy Middle という価値観を見直して受け入れ、リスクに果敢に挑戦できる組織へと変革していくべきです。そのうえで、自らがどのような技術的・社会的転換点に向かおうとしているのかを、じっくりと考え、目標を定めること。それこそが、今求められているのです。
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『日英対訳 英語で話す中東情勢』山久瀬 洋二 (著)
さまざまな宗教・言語・民族が出会う世界の交差点・中東の課題を、日英対訳で学ぶ! 2023年10月に始まったハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃と、イスラエル軍によるガザ地区への激しい空爆と地上侵攻は世界に大きな衝撃を与えました。中東情勢の緊迫化は、国際社会の平和と安定、そして世界経済にも大きな影響を及ぼします。地理的にも遠く、ともすれば日本人には馴染みの薄い中東は、政治・宗教・歴史などが複雑に絡み合う地域です。本書では、3000年にわたる中東・パレスチナの歴史を概説し、過去、現在、そして未来へと続く課題を日英対訳で考察します。読み解くうえで重要なキーワードや関連語句の解説も充実!
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