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「有事」とは何かを考える必要性を実感する台湾の実情

In a defense white paper released in December, is a reaffirmation of Tokyo’s commitment to playing a more active role in East Asian security.

(〔昨年〕12月にリリースされた防衛白書で、東京は東アジアの安全保障についてより積極的な役割を担うことを改めて確認した)
― New York Times より(一部編集)

「台湾有事」への防衛とリスクを現地から考察すると

 台湾に来ています。この街にくると、防空壕への避難通路を示すステッカーがあちこちに貼られていることに気づきます。
 当然、軍事上の理由から、主要空港の空中からの撮影も禁止されています。
 台湾の人々は、ロシアのウクライナ侵攻をめぐって諸外国がどのような反応を示すかを常に気にしています。ロシアの行為がそのまま成功へとつながれば、中国が同じように台湾に侵攻することもあり得るからです。
 
 我々はよく「台湾有事」という言葉を耳にします。そもそも台湾有事とは、日本にとって何を意味するのでしょうか。日本の自衛隊は台湾との国境近くの与那国島に基地を設け、監視を怠りません。また、防衛予算自体の上積みも最近議論され、敵地からの攻撃を防ぐために、相手の基地を事前に攻撃できる設備を整えるような法整備や憲法の改正なども議論されています。
 しかし、我々にとっての「有事」とは何かということについて、それを国やメディアが論理的に伝えているかといえば、極めて疑問です。
 
 すでに何度か解説したように、台湾有事への最大の投資は、半導体の世界への供給です。従って、TSMCが熊本に進出したあと、日本で必要とされる人員の供給が遅れ、アメリカではTMSCに勤務する人々との労働問題を抱えていることは、彼らが最も気にしている有事への課題です。世界経済へのインパクトを武器にすれば、そこを攻撃することのリスクを相手も真剣に考えるからです。世界各地でのTSMCをめぐるトラブルは、中国にとっても、そのリスクの軽減へとつながるからです。
 

これから日本が直面し得る「有事」と「防衛」の実情

 では、日本にとっての有事はどうでしょう。
 もちろん日本にとって最も確率の高い有事とは、台湾への中国の軍事侵攻に他なりません。習近平政権の基盤が脅かされるような事態が中国で起こったときに有事の確率が上がるかもしれません。そうしたときに、中国が主張する「一つの中国」という根本原理が完全に否定されたとき、つまり台湾が正式に国家として独立を宣言したときなどに、その確率が極めて高くなることは言うまでもないことです。それはウクライナがNATOへの加盟を宣言したときにロシアがとった行動をみればよくわかります。
 
 では、もしそうしたことが起きた場合、日本に軍事的な被害が発生するでしょうか。今、ウクライナが攻撃されていても、その周辺国が攻撃を受けることがないように、日本が被害を受ける確率は極めて低いのです。
 では、有事で本当に被害を受けるのは何かということになります。
 それは経済なのです。有事によって、またはそのあとに東シナ海と南シナ海の航行が困難になった場合、日本と海外を結ぶ物流に大きな影響が出てくることは誰もが予想できることです。また、半導体は無数の機器に使用されているために、その供給に課題が生じれば、日々の生活にも具体的な支障が出てくるはずです。さらに、その懸念から株価が暴落し、人々が所有する資産そのものがおびただしく毀損されることも容易に予想されます。
 
 我々は、有事とか防衛という言葉を使う時、Jアラートのように、他国から実際に攻撃を受けることを想定します。しかし、攻撃の中に、単なる破壊ではなく、ここに解説したような経済的な損害があることを、真剣に意識している国民は数少ないのではないでしょうか。
 北朝鮮がミサイルを発射し、本土が攻撃を受ける可能性を声高に示威している背景には、むしろ日本の国民が本当の被害が何かということを意識することから逸らす目的があるのでは、とすら思えてならないのです。というのも、北朝鮮が単独で示威行為を繰り返しているとは到底思えないからです。
 また、アメリカも北朝鮮が示威行為を繰り返してくれればくれるほど、極東の安全のために日本の協力を強く求めてくることは周知の事実です。日本の経済が弱体化し、アメリカへの依存が高まることはアメリカにとってもありがたいことでしょう。
 そして、さらに極東への戦略を中国からみたときには、戦車による侵略ではなく、日本が経済的に崩壊するための目に見えない作戦を練ってゆく方が、地域全体により大きな影響がでることを理解しているはずです。
 
 では、現在防衛のために、日本は何をしているかをみてみましょう。すると「思いやり予算」によって、アメリカの基地の維持のために膨大な資金を我々の税金から拠出している実態が見えてきます。しかも、その事実をアメリカの一般市民はほとんど知りません。
 一方でアメリカは、軍事支援という名のもとに、イスラエルやウクライナに武器を供与しています。これで潤うのはアメリカの企業です。もちろん、アメリカの企業が潤えば、日本企業にも良い波及効果があるのは事実です。しかし根本は、アメリカ政府が武器を供与する予算を組んで議会を通過させれば、その資金はそのままアメリカ企業のバランスシートの売掛金に組み込まれるわけです。
 では、日本の資金供与や対外援助はどうでしょうか。一部の建設業者を除き、それが国や企業のバランスシートの資産になることはないはずです。日本は明らかに、税金を資産に変えることができないまま、ただ他国にお札を渡しているのです。
 

日本にとっての有事を意識し、脆弱な経済防衛の見直しを

 今、日本にとっての有事というのは、こういう実態の上に成り立っているということを、我々は理解しなければなりません。
 有事とは国土に具体的にミサイルが落ちることではなく、経済的な混乱によって国民の生活が疲弊することを意味しているのです。憲法を改正しようが、法制度を整えようが、こうした事実を照射しない限り、日本の有事を想定した外交戦略、さらには、防衛戦略は中身のないスローガンに基づいたお札のばら撒きだけに終わってしまうのです。
 すでに、日本の防衛力は装備の面では世界有数です。しかし、経済戦略はというと、極めて脆弱です。それは、東芝がアメリカの原子力事業との合弁事業で破綻し、最も大切な半導体部門を壊滅させた過去の事例などからみても明快で、当然この事例は氷山の一角にすぎません。
 
 21世紀も4分の1が経過し、今後の世界を考えたとき、日本は有事という意識をもっと冷静に分析し、海外としたたかに交渉し、サバイバルを成し得るような戦略の開発が必要不可欠です。
 憲法を改正しなくても、十分な防衛力は維持できるはずです。しかし、経済防衛があまりにも脆弱で、かつ意識も低いことが、TSMC戦略での試行錯誤に揺れる台湾に来ればよくわかります。
 経済防衛は、ただ工場を多く造成することではありません。TSMCが苦慮しているように、グローバルに人材の流通が可能になるような、多角的な人材育成のプロットもそこに含まれます。
 英語でのコミュニケーション力がアジアでも最低レベルといわれている日本が、こうした総合的な視野を持つには、構造疲労を起こした各方面での、思い切った手術が必要なのかもしれません。
 

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