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ドイツ社会を見舞う右傾化の波とその影響

German far right hails “historic” election victory in east.

(ドイツの極右政党が東部ドイツで“歴史的な”勝利)
― BBC より

ヨーロッパ社会を震撼させるドイツの極右台頭

 ドイツで今起きている課題が、社会の急激な右傾化です。
 今月ドイツ東部チューリンゲン州で行われた選挙で、極右政党としてAfD(「ドイツのための選択肢」政党)が32.8%という最高得票率を得て第一党となったことが、ヨーロッパ社会を震撼させました。経済格差に加えて、増加の一途をたどる移民問題に世論が揺れているのです。
 あるドイツ人が言います。このままいけば早晩、現在の連立政権にも大きな揺さぶりがかけられるだろうと。
 もちろん、この現象はドイツに限ったことではありません。大きな選挙のたびにヨーロッパ各地で右派勢力の伸長が話題になり、それがEUの存続そのものにも影響を与えようとしているのです。
 
 フランクフルトにある中央駅は重厚な造りで、その延長にあるドームに覆われたプラットフォームはいかにも伝統的なドイツを彷彿とさせる国際都市の玄関口としての趣が残っています。その駅の前にまっすぐのびるカイザー通りは、フランクフルトの目貫き通りともいわれていました。しかし、今この通りの周辺の治安が悪化し、お世辞にも華やかな通りとはいえなくなりました。
 その地域のそばにエリトリアからの難民が多く住んでいます。エリトリアはアフリカ東海岸、エチオピアの北にあり、長年にわたる治世の混乱で多くの難民を出した国です。私の知人の一人で、現在アメリカのシアトルでアラブ世界とのビジネスをコーディネートしている人物もこの国の出身で、子どもの頃に戦火に追われて徒歩で何日もかけて隣国に避難したことがあると語ってくれました。こうした難民がEUの中でも最も顕著にみられるのが、ドイツなのです。
 
 ドイツ政府は今大きなねじれのなかにいます。
 第二次世界大戦でのヒトラーによるユダヤ人虐殺という重い十字架を背負った国家として、彼らは常にEUの要になって、ヨーロッパの融和に貢献してきました。さらに、イスラエルに対してはその建国以来、友好国として対応し、同時に世界の紛争で発生する難民の受け入れにも柔軟でした。ドイツは言論の自由を重んずる民主主義国に他なりませんが、現在でも例外としてナチスの活動は違法とされ、この点は日本と大きく異なる政策をとっています。
 そんなドイツが、現在イスラエルがガザで行っている市民を巻き込んだ戦闘活動について強く非難できないのは、こうした過去との深い関係によるものです。
 さらに、第二次世界大戦で分断された旧東ドイツが、民主化によって経済成長を遂げた旧西ドイツとの経済格差を克服できたかというと、統一後30年を超えた現在でも、あらゆる側面で統計上その格差が現れてきます。この格差が生み出す不安の象徴が社会の右傾化に他なりません。
 実際に今回のチューリンゲン州の事例のように、反移民、反EU、さらに伝統的なドイツへの回帰を唱えるAfDの場合、旧東ドイツ内での右傾化が顕著で、すでに中央政界でも存在感を露わにしているのです。
 

ドイツ社会を揺るがす移民問題と分断

 移民の課題では、ドイツは極めてユニークな政策を踏襲してきました。
 難民同士が助け合い、同じ地域にグループとして居住することが、逆に彼らを地元社会から孤立させ、さらに差別などの原因につながるとして、シリアからの難民に対しては意図的にドイツ各地に分散して居住させ、彼らが地域社会に同化できるように政府が主導して取り組みました。
 結果として、シリア難民の社会への同化は当初懸念されたよりも順調に進んだといわれています。この政策は、極めて斬新でリベラルな政策として国際社会でも大きく評価されました。
 しかし、課題は隣国との関係です。移民の受け入れに対して消極的な姿勢をとってきた隣国から弾き出された人々が、こうしたドイツの対応をみて、ドイツ政府の承諾なしに流れ込んできているのです。
 
 従来、難民や移民の受け入れはEUとしてではなく、所属する各国の管轄と政策に従うという取り決めがEU加盟国には存在します。そのため、ドイツへの難民政策はドイツ政府の判断で実施され、受け入れの是非を含めてコーディネートされなければならないのです。
 しかし、この原則が崩れ、ドイツ政府の管理の外で移民の流入が始まったのです。海外での政情不安によって国を捨てた人々が、EUの諸外国を経由してドイツに流れ込み、ドイツ社会にシリア難民とは異なる移民集団を形成したことで、社会不安が拡散したのです。これに政府の対応も追いつかず、フランクフルトのカイザー通り周辺で起きているような課題が各地で発生してしまったのです。
 
 世界中で世代交代が進むなかで、第二次世界大戦や東西冷戦時の抑圧された社会への記憶が次第に薄れつつあります。
 移民社会と伝統的なドイツ社会との分断や、東西ドイツの格差に代表される社会・経済的な分断が、ドイツ国内の強力なナショナリズムの復活へとつながったのです。そして、イスラエルによるガザ地区の攻撃によってますます混沌とする中東問題に、EUの要となったドイツは有効な手を打てないままの状態が続いています。この矛盾への苛立ちは、従来の中道、あるいは中道左派といわれた人々にも伝染します。彼らが社会の変化への危機感を唱えれば唱えるほど、右傾化した人々は彼らから分断され、さらに過激な、時にはヒトラーを礼賛する行為にまで及ぼうとしているのです。
 

ドイツ社会を覆う不安は決して他人事ではない

 分断の行く末について、あるドイツ人は、自分は東ドイツで教育を受けた世代だと前置きをした上で、彼が見てきた、そして経験してきた激しい社会の変化の中で、なんとか築き上げてきたドイツならではの知恵が失われようとしていると語ってくれます。
 
「ナチス政権は合法的な選挙で生まれ、そうして政権をとったナチスがドイツを破綻に導いたんです。社会は合法的に変化しながら、気づいたら過去に合法であったことが違法になり、そして取り返しのつかない集団心理に押されて、戦争や言論抑圧への道へと国家が傾斜してゆくのです」
 
 そう語る彼の言葉の重みは、今世界で先進国と呼ばれる全ての国家の課題でもあるようです。
 
 去年ドイツの国民総生産が日本を凌駕したことが話題になりました。
 しかし、そんなドイツの社会の中にある不安と矛盾が、今後のドイツのみならずヨーロッパ社会全体に共有されていることが、さらに大きな課題です。そして、その課題はアメリカや島国として平和を謳歌する日本にも波及している課題でもあるようです。
 

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