President Trump’s New Chip Policies could force TSMC to put U.S. and Taiwan Production on equal footing, or face a huge tariff shock
孫文の承継者を主張する台湾のアイデンティティ
実は、今こそ台湾が置かれている事情を深く知っておかなければならないときなのです。
先週、元福岡総領事との面会のために、台湾政府の外務省(台湾の呼称では外交部)を訪ねました。お茶を飲みながら歓談していると、そこに一人の老人がやってきます。たちまち台湾の人は直立不動の姿勢をとり、元総領事は敬礼をして彼を迎えました。
その人の名前は陳唐山氏で、今年90歳になる民進党の重鎮です。彼は李登輝総統が台湾の経済革新に拍車をかけたのちの、陳水扁総統の時期に政府の要人として活躍し、外交部長(日本でいう外務大臣)も務めたことのある人物です。そんな彼は当時、台湾本土化運動を牽引した政治家でした。
外務省の重厚なビルの入り口には、孫文の立像があります。その背後には、孫文の銘とした「大同」というテーマの金文字の碑文があります。それは孫文の直筆を碑にしたもので、これが台湾政府にとって最も重要なビジョンとなります。
孫文は、19世紀から20世紀初頭にかけて疲弊した清朝を辛亥革命で打倒した偉人で、中国でも台湾でも現在の国の礎を築いた人として扱われています。
孫文は思想家であり、同時に革命家でした。そんな彼を国父として尊重するのは、台湾が以前中国にあった国民党政府の承継者であることを主張しているからに他なりません。
共産主義革命を中国が推し進め、現在の北京の政府が樹立されたとき、孫文はすでにこの世にはいませんでした。孫文と結婚していた宗慶齢の妹・美麗が夫である蒋介石と共に台湾にきたとき、慶齢は北京に残り、その後二人が再会することはありませんでした。革命家としての孫文は、清朝を打倒することを目指しながらも、共産主義を容認していたわけではないというのが台湾の考え方で、蒋介石や宗美麗の見解です。民主、民権、民生という孫文のいう三民主義を承継しているのは他ならぬ台湾で、中国ではないということになるわけです。
そして、この意識が台湾本土化運動とどう折り合いをつけ、台湾独自のアイデンティティとなってゆくのかは、今後の大きな課題となるはずです。
というのも、台湾本土化運動には、中国から承継してきた国家という考え方とは一線を画す側面があるからです。
台湾の経済的自立を司る半導体事業とTSMC
今、トランプ政権が関税を武器にアメリカへの投資を世界の国々に強要しています。これが、台湾が経済的に自立し、台湾本土化運動を実現させるための大きな試練となっているのです。
というのも、TSMCは世界の半導体の6割以上を生産し、その影響力が台湾の自立の大きな背景となっているからです。
台南にある大学の教授は、TSMCがトランプ大統領の圧力でアリゾナにある工場への巨額な投資を余儀なくされ、それが日本への進出よりも優先されていることへの実情を語ってくれました。実は、トランプ大統領の言うアメリカでアメリカ人が自立してアリゾナ工場を運営することは、実質不可能だろうと多くの専門家が思っているのです。
言葉を変えれば、半導体の生産は微細な回路の蘇生など、特殊な技術が伴います。この技術をそのまま、アメリカ人の労働感覚と台湾人の意識との差を埋めることなく移転させることは難題なのです。
頼総統の率いる台湾が、中国が一つの中国というスローガンをもとに露骨に干渉しはじめそうな、今後最も気になる5年間をどのように切り抜けるか、TSMCと政府との阿吽の呼吸が試されるのです。
慎重な舵取りが求められる台湾と付き合うには
それだけに、トランプ政権のアメリカ第一主義と折り合いをつけながら、台湾経済を守り、かつもう一つの目を中国に向けながら、台湾の自立を守るという極めてデリケートな舵取りを、これから求められているのです。
この現実を日本側がどのように察知しているのか、台湾外務省の関係者と会話をしながら不安が心をよぎります。
ある意味で、半導体による投資があるからと短絡的に浮き足立つのではく、総合的な視野に立った国と国との付き合いを深めてゆくことが、何よりも大切なのではないかと思うこの頃です。
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