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必要とされる新冷戦に翻弄されない真摯な中米戦略

Roatán Caribbean Living (RCL) is an expansive, multi-phase development platform comprising 750+ acres across eight flagship projects on Roatán, the most desirable island in the Bay Islands of Honduras.

(ロアタン・カリビアン・リビング(RCL)は、ホンジュラスのベイ諸島で最も魅力的な島であるロアタン島に展開する8つの主要プロジェクトからなる、750エーカー以上を擁する大規模な複合開発プラットフォームを運営する会社です)
― ダイヤモンドロック社(Roatan Caribbean Livingの親会社)のニュースリリース より

新冷戦の渦中で揺れる中米の国々

 今回の話は、日本から遠く離れた地域の問題です。しかし、同様のことが日本近隣でも起きていることを考えれば、参考としてほしい話題です。
 
 新冷戦という言葉がこの10年話題になっています。
 トランプ大統領は、就任早々にパナマ運河をアメリカの管理に戻そうとし、国際社会から反発を受けました。背景には、パナマが管理する運河の双方の出口にある港湾が、香港系の資本によって運営されている実態があるからです。香港が、実質上中国に併合されていることは、周知の事実です。
 
 中国は、以前から中南米へのアメリカの影響を遮断するために、同地域への経済援助を積極的に実施してきました。パナマも例外ではありませんでした。
 さらに、ホンジュラスも左派政権ができると、中国との連携を強化し、長年にわたって国交を維持していた台湾と断交し、中国と正式に外交関係を構築したのです。そんなホンジュラスに持ち上がっているのが、ドライキャナル計画です。それは、運河ではなく太平洋とカリブ海を結ぶホンジュラス横断鉄道を建設する計画です。同様の動きは、ホンジュラスより南に位置するコスタリカでもみられました。
 
 ところが、最近になって中国での経済不況もあり、これらの計画の実行が危ぶまれ、そこにアメリカの資本が介入し状況を逆転させようとしているのです。今、ホンジュラスのドライキャナル計画と周辺の開発に、アメリカの不動産資本が乗り出そうとしています。
 これは、有事のときに、両岸の港湾を管理している香港の企業によってパナマ運河が閉鎖される懸念があることへの対抗措置でもあります。これは日本への物流や米軍の機動力にも影響を与える課題です。
 ただ、アメリカ主導でドライキャナル計画が実現すれば、新冷戦による物流のリスクは軽減されるものの、パナマ側にとっては経済的なダメージとなるかもしれません。中米は、このようにして新冷戦の渦中にあるのです。
 

米国の介入に芽生える複雑な国民感情

 パナマ政府はというと、つい最近まで、中国の一帯一路政策を意識して、港湾への中国資本の進出に期待していました。
 しかし、最近パナマ政府は、この一帯一路政策から距離を置くようになりました。アメリカの圧力もあれば、アジアでの一帯一路政策による中国の経済支配の実情をみて、危惧したのかもしれません。そうした事情を背景に、今ホンジュラスは11月末の大統領選挙を目前に、アメリカとの連携を求める候補とそうでない候補との論戦が始まっているのです。
 
 しかし一方で、ホンジュラスからは多くの移民が、中米を縦断してアメリカに流入しようとしています。経済難民の悲惨な姿です。トランプ政権は、こうした移民を阻止しようと国境警備を強化し、すでにアメリカに滞在している人々まで強制送還しています。移民局の強権で家族を引き裂き、不法滞在とみなされた人々を文字通り、居間から引きずり出して飛行機で送還しているとして、人権団体も厳しく非難しています。当然、中南米諸国の国民感情も刺激されていて、彼らはアメリカへの複雑な気持ちに揺れているのです。
 
 そんなホンジュラスに鉄道を建設し、港湾を整備したうえで周辺をリゾート化しようという、総額500億ドルを超える投資案件が持ち上がったわけです。これはホンジュラスの経済の活性化と雇用促進には役立つかもしれません。
 今回のヘッドラインの英文は、そうした計画の一端として、ホンジュラスのカリブ海の島にリゾートセンターを建設しようというアメリカの不動産会社の計画書を入手し、その一部を抜粋したものです。
 
 歴史的にみて中南米は、アメリカの政治と経済戦略の影響を受けてきた地域です。19世紀初頭にナポレオン戦争でヨーロッパが戦火に見舞われていた頃、アメリカはフランスに対抗するイギリスの海上封鎖に悩まされ、イギリスとの戦争に発展した経緯がありました。その後、モンロー大統領は1823年にヨーロッパの政治にアメリカは一切関与しないという、いわゆるモンロー宣言による孤立政策を打ち出しました。
 しかし、その宣言には、ヨーロッパの列強がアメリカ合衆国だけではなく、アメリカ大陸全体への介入をアメリカに対する敵対行為とみなすという牽制の意味が含まれていたことを知る人はそう多くありません。
 
 以後、アメリカは国土を西へ拡張し、19世紀末にはスペインとの戦争でカリブ海の権益を獲得し、太平洋へと進出する足がかりも作りました。南ではメキシコの勢力を駆逐し、カリブ海から中米、やがては南米まで自らの経済圏に組み込んだのです。そこには現地資本や権力者との醜い癒着もありました。
 当然、中南米では経済的弱者の間にアメリカへの複雑な国民感情が芽生えます。それが反米感情として発火したのが、キューバの共産化などに代表されるさまざまな政治運動に他ならないのです。
 

自国の利害でなく中米の安定につながる経済援助を

 今、アメリカでは中南米から密輸される麻薬対策にも翻弄されています。こうした麻薬産業が拡大した背景にも、もともとあったアメリカの現地資本や権力との暗躍の歴史がなかったわけではないのです。逆にいえば、中南米が19世紀以来ヨーロッパ諸国からの独立を達成したあとも、大地主や一部の権力者の独裁体制によって経済復興が遅れた原因に、アメリカの影響がなかったかといえば、疑問の余地が残るのです。冷戦期になると、チリの政変のように、アメリカによるさらに露骨な政治介入が実施された事例もありました。
 
 こうした背景を受けて、ホンジュラスでは左派のカストロ氏が大統領となったのです。それを今回ひっくり返し、アメリカとの連携を重視しようとしているのが、対立候補のアスフラ氏というわけで、この動きにアメリカの企業も反応し始めていることになります。
 
 ホンジュラスへのアメリカ進出の新たな戦略としてのドライキャナル構想が、新冷戦へ対抗する利権獲得の方途ではなく、経済難民の問題をも含めた誠実な資本戦略と雇用促進であるならば、おのずと一帯一路による経済支配へのより有効的な対抗策になるはずです。
 中米への経済援助は単にアメリカの利害に直結し、新冷戦への戦略に終始するものではなく、この地域の安定を意図して貧困など中米が抱える社会問題を意識したうえで立案するべきものなのです。
 

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『日英対訳 英語で読む地政学』山久瀬洋二 (著)、エド・ジェイコブ (訳)日英対訳 英語で読む地政学』山久瀬洋二 (著)、エド・ジェイコブ (訳)
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