Several key foreign figures have shaped Japan’s history across different eras, spanning from the introduction of continental philosophies and religions to the modernization of the Meiji period and post-WWII reconstruction.
今日、大阪で、あるアメリカ人のエグゼクティブからひとつの依頼を受けました。日本人の精神構造に最も影響を与えた歴史上の人物を8名選んで欲しい、というのです。その人物たちを調べることで、日本人のビジネス文化を理解できるようになりたい、と彼はいいます。
「和」のルーツは中国にあった
彼がまず挙げたのは、日本人の心の中で最も大きな位置を占める「和」の精神を端的に表す、聖徳太子の「和をもって貴しとなす」という17条憲法の理念でした。そこでそのルーツを調べてみると、この言葉は、儒教の『礼記(らいき)』にある「礼は和をもって貴しと為す」からの引用ではないか、という有力な説があることに気づきます。
『礼記』は、中国の戦国時代以来の礼の教えをもとに前漢の時代にまとめられた書物で、孔子の教えを弟子や後年の儒家が伝え、国を治めるための儀式や政策の運用がいかにあるべきかを説いた書です。とすれば、日本に最も影響を与えた最初の人は、孔子だと言えるかもしれません。
さらに、そのアメリカ人が、限られた知識のなかで「これはどうか」と挙げてきたのが、徳川家康、渋沢栄一、松下幸之助、本田宗一郎といった人々でした。さて、皆さんなら、どう考えるでしょうか。
江戸からマッカーサーへ、受け継がれた精神

日本人の意識や価値観を細かく見ていくと、確かに、徳川家康が開いた江戸時代の価値観は、その後の日本人のものの考え方に少なからぬ影響を与えています。よく言われる武士道や、組織における上下関係といった考え方は、江戸時代に確立され、明治以降も受け継がれてきたからです。しかもそれらは、近代化を経たのちに、旧日本軍の精神的な支柱にもなりました。
事実、第二次世界大戦後の混乱のなかで日本を築いた起業家の多くは、戦争体験者です。彼らは、徴兵された軍隊の中で、あるいは戦前の学校教育のなかで培われた価値観の影響を、色濃く受けた人たちにほかなりません。戦後の高度成長が松下幸之助のような人々によって成し遂げられた以上、現代の日本人が好むと好まざるとにかかわらず、私たちが、こうした伝統的な価値観を、戦中を生きた人々を通じて受け継いでいる事実は否めないのです。
ただ、ここで視点を変えてみると、面白いことが見えてきます。江戸幕府の政治理念の背景にあったものといえば、やはり儒教であり、なかでも朱子学の影響が大でした。儒教の精神を制度のなかに緻密に組み込むことができた背景には、儒教の改革者として、その思想を現実の統治に応用した朱熹(しゅき・朱子学の祖)の影響があったはずです。
さらに、そんな日本に大きな転換点をもたらしたのが、ペリー提督の黒船でした。黒船を機に、海外へ門戸を開くか否かをめぐって国内は分断し、ついに徳川幕府が倒れます。
しかし、明治維新を経て文明開化を迎えたものの、日本人は結局のところ、朱子学に根ざした伝統的な思想を、近代的な組織や西欧的な制度のなかへ注ぎ込みました。この「ねじれ」、つまり西欧文明を取り入れながら、それを日本の伝統の枠組みで使おうとする発想が行き詰まったことが、日本を第二次世界大戦へと駆り立てた一因であったことは否めません。
そして敗戦を迎えた日本人は、再び、第二のペリーともいえるダグラス・マッカーサーの監督下に置かれます。徹底した民主化が進められたものの、東西冷戦をにらんだ判断から天皇制は温存され、日本の再建を担った人々は、明治以降も受け継がれてきた儒教精神を、組織運営のモラルとして引き継いでいきました。民主的な憲法を持ち、欧米の文化的な影響を受けながらも、戦後を生きた人々が、自らの「遺伝子」そのものを変えることはなかったのです。
その結果、日本は高度成長からバブル経済へと躍進します。しかし、バブルが弾けたあと、そうした日本人の支柱が見失われていくなかで、世の中はITの時代へと突入しました。新たなグローバライゼーションの波のなかで、価値観のあり方をめぐって人々が迷走をはじめたのです。それは第二次世界大戦前の迷走と似た現象だとも言えるかもしれません。この迷走もまた、日本の伝統的な価値観と、シリコンバレーで産声を上げたIT革命のような欧米の知恵とが、日本人の心のなかでうまく消化されてこなかったことに原因があるように思えるからです。
日本を作ったのは、日本人だけではない
こうしてみると、日本に大きな影響を与えた人物の半数以上は海外の人間だった、という思わぬ結論に達します。そして、それをどう整理して、あのアメリカ人に伝えようか、という課題に突き当たります。
聖徳太子(その実在そのものを疑問視する研究もありますが)の説く和の精神の元が儒教にあるとすれば、日本人に最初に影響を与えたのは、中国の偉人・孔子ということになります。同じく、徳川家康の考えのルーツをみれば、朱子学の祖・朱熹であり、渋沢栄一をはじめとする明治以降の重鎮が世に出るきっかけをつくったのは、マッシュー・ペリー提督です。さらに、日本の民主化と、その後の繁栄と沈滞の大元となった人物といえばダグラス・マッカーサーであり、そのマッカーサーと対峙しながら現在の日本の制度の礎を築いたのは、吉田茂かもしれません。
では、21世紀に入って、例えばスティーブ・ジョブズに象徴されるIT革命と「対峙」する日本人はといえば、それが見当たらないのです。ここに、現在の日本の課題が見えてきます。
さらに、アメリカ人のエグゼクティブに、紫式部や鴨長明、世阿弥といった、日本人の美意識や仏教観、そして武士道にもつながる硬質な「型」の美を生み出した人々も忘れてはならない、と説明したとき、日本人の抱く価値観が、思っている以上に複雑に絡み合った糸であることを、あらためて自覚させられます。
いま、海外で「世界に最も影響を与えた日本人」を問えば、過去の人物では北斎、現在では宮崎駿を挙げる人が多い、ということも頭をよぎります。どうやら、日本人が自らの社会を知るためにも、「日本は日本人がつくってきた」という誤解だけは避けたほうがよさそうです。
最近、紙面をにぎわす天皇の地位をめぐる論戦も、さまざまな事情はあるにせよ、かつて江戸時代まで女帝が存在し、天照大神も女性だと一般に言われていることを思えば、そのルーツ、そしてそんな日本人がそもそもどこから来たのか、という問いにも、しっかりと目を向けることが必要に思えるのです。
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『日英対訳 英語で話す中東情勢』山久瀬 洋二 (著)
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