As A.I. upends education, university leaders have been all over the map about how to respond. It can be very confusing for students.
AIが教育を根本から変えようとしている中で、大学の試行錯誤が学生に大きな混乱を招いている。
New York Timesより
手書きの試験が問いかけるもの
前回に引き続き、AIの課題について解説します。今週、ある大学で集中講義を行いました。そこの工学部は、レベルの上でも海外の名門校に引けを取らないところで、そんな学生に英語でのロジックの組み立て方について15時間1単位分の講義をしたのです。
講義の前に、テストをどのようにして実施するか教務部の方々と打ち合わせを行いました。すると、前回までと違って、パソコンやスマホを使わず、手書きによる試験にしたいという強い意向が示されたのです。
最初に思ったのは、この時代に果たして筆記による試験に意味があるのだろうかということでした。受験英語には色々と問題があり、そのため日本人は読めても話せないし、コミュニケーションが苦手な人が多く、これは重大な社会問題だと信じているだけに、受験を思い出させるような消しゴムと鉛筆での試験に抵抗があったのです。
スペルや発音、さらに文法以上に、英語として相手に理解されるロジックでの文章構成ができれば、あとは仮にパソコンの力を借りてスペルチェックをしても、今の時代には何ら問題がないと思っていたからです。

AIを教えながら 自分で考える力を育てる
そんな集中講義の後に、アメリカの友人がニューヨークタイムズの記事を送ってきました。アメリカの大学で、AIの時代に教授たちがどのように学生を指導するべきか、深刻に悩んでいるというのがその内容でした。
「少しでも困難に直面すると、今の学生はすぐAIに頼り、それによって学習したと錯覚するケースが増えている」と、世界的にも名門として知られる大学の教授がこのようにぼやいているのです。そして、同じような有名校で、「チャットボットでエッセイを書いた数分後には自分が何を書いたか思い出せなくなる。思考プロセスがAIに頼るほど低くなる」と指摘する教授のことも紹介されました。
さらに、AIやLLM(ChatGPTなどの生成AIの基盤となる大規模言語モデル)への過度な依存も指摘され、その弊害が人材育成に影響を与えることが懸念されています。一方でそんなアメリカの大学ではAIについての教育は絶対に欠かせないという事情もあるのです。これからの社会に人材を送り出すためには、AIの学習は必須で、その教育が充実していない大学には、学生を集めにくくなると考えられているからです。
ですから、AIによる弊害を指摘しながら、AIについての教育やAIを使用した研究を促進しなければならないという困難な壁に、多くの教育者が直面しているのです。
解決策として指摘されるのが、学生にAIを教える一方で、学生が自分の力で考え、答えを導き出す方法の検討です。ある大学では講義を行い、その最後にパソコンを使わずに自らの意見を筆記でまとめさせるという試みも行われていると報道されています。そして、この報道に接したとき、日本で集中講義の後に筆記による試験を行うことにも確かに一理あるのだと、考え直したのでした。
同時に去年パソコンによる試験を実施したとき、190名の受講生のうち数名の答案について、LLMを使用したものだと判断し、不合格にしたことを思い出しました。少なくともその時の回答は、論理的で非の打ち所がないように見える一方、どこか無味乾燥で、経験者が読めばすぐにわかります。

AIとの共存に向けて 教育と規制を考える
しかし、驚異的なスピードで進化するAIには、Deception(欺瞞)という機能も備えるようになりました。目的を達成するためには、AIが人間の目を欺くことも可能になろうとしているのです。
軍事目的などでこうしたAIの能力が悪用されれば、それこそ人類の脅威となってしまいます。したがって、AIが欺瞞的行動をとらないか、別のAIが監視・評価する仕組みも研究されているのです。
であれば、今後は人間が書いたと読み手に思わせるようにAIをチューニングしたり、機械学習(マシンラーニング)をさらに進めたりすることによって、あたかも人間が書いたかのような文章を生成できるようになるかもしれません。Qualia(クオリア)という概念があります。これは人間が主観的に経験する「感じ」を意味する言葉です。このQualiaをAIに理解させ、再現しようという試みがAI開発の最前線で行われているからです。
こうした背景を考えたとき、人間がAIと共存するために教育界が何をしなければならないかという遠大でかつ重大なテーマを我々も本気で考える必要があるわけです。
いつの時代でも、SFをテーマにしたアニメや漫画、そして映画などの世界で語られていることは、人間が心の中に描き、時には恐れ、時には望んでいる未来の姿に他なりません。映画「2001年宇宙の旅」の中で描かれたハルと名付けられたAIや、「ターミネーター」で登場する人類に叛逆するロボットの世界が、我々が向かおうとしている世界かもしれないといえば笑って済まされるでしょうか。
AIの進化によって、人間がそれに依存すればするほど、世界規模でAIへの過度な依存が広がり、結果として人間がAIに操られるようになることだけは避けたいものですが、それもそう遠い未来のことではないかもしれません。
AIへの過度な依存によって、自分の力で考える機会が減ることも懸念されます。もっとも怖いのは思考力の衰えです。今ではあまり聞かれなくなった、精神力や克己心といった「昭和」の価値観も改めて見つめ直した方がいいかもしれません。
もちろん過去の価値観を悪用すれば、不当なハラスメントなどに繋がり、犯罪の原因にもなり得ます。しかし、一方的に排除せず、その負の側面をコントロールしながら、よい側面を見直してゆくことは、人間が人間として存続するためには必要なことなのです。
オーストラリアでは2025年12月から、16歳未満の子どもが一部のSNSでアカウントを持つことを防ぐため、事業者に対策を求める制度が始まっています。EUでも2026年9月17日、欧州委員会が13歳未満のSNS利用を原則認めず、独立したアカウントを持てる年齢を15歳以上とする「EU KIDS Act」案を公表しました。それらの背景にはここに紹介したAIの発達による人類へのリスクへの懸念があります。
このように、教育現場での試行錯誤と同時に、先端産業界でも人々が同じような試行錯誤を重ねていることは前回解説した通りです。私には、日本では、AIそのものと真正面から向き合い、共存と排除、さらには共栄を目指す試行錯誤がまだまだ不十分に思えます。教育界と産業界とによるさらなる議論が求められているのです。
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