【海外ニュース】
NATO Plans a Special Force to Reassure Eastern Europe and Deter Russia
(ニューヨークタイムズより)NATO は東ヨーロッパを防衛し、ロシアにくさびをうつための特別な軍事行動を計画
【ニュース解説】
戦後の世界を二分していた冷戦が終わった契機は、地中海の島国マルタで当時のソ連のゴルバチョフ書記長とアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領との会談が終了した 1989年12月3日でした。マルタ会談 Malta Summit です。
冷戦終結の立役者ミカエル・ゴルバチョフは、西側諸国では高く評価されます。
しかし、ロシアでのゴルバチョフの評価はそれとは逆で、ロシアの弱体化をもたらした人物として、人気は全くふるいません。
それと対照的なのが、その後の混乱期を克服し、ロシアを強国として復活させた現在の大統領ウラジーミル・プーチンなのです。
彼の独裁者的な政治手腕に批判的な人は多くいるものの、庶民レベルでいうならば、強いロシアを再現させたプーチンの人気は根強いものです。
我々は、ロシアのウクライナへの介入、そしてクリミア半島の併合などをみるとき、そんなロシアの脅威に NATO がさらされているだけではなく、弱体化したアメリカ外交のもたらす危機であると分析します。
ではロシア側からみるとどうでしょうか。
英語に in a person’s shoe という熟語があります。つまり「その人の靴をはく」ということから相手の立場にたってみるということを意味する熟語です。
つまり、ロシアの靴をはいてみると、マルタ会談以降のロシアの焦りが、今反動となってウクライナに押し寄せていることがよくわかります。
マルタ会談以前の冷戦期、ソ連は東ヨーロッパ全域を自らの勢力圏におき、NATO に対してワルシャワ条約機構 Warsaw Treaty Organization という軍事同盟の盟主として君臨していたのです。
ソ連の崩壊とともに、そうした鉄のカーテンによる安全保障は崩壊し、今 NATO 加盟国がロシアと国境を接するようになりました。
そしてウクライナも今や西側に取り込まれようとしています。
アメリカの求心力の低下という図式でみれば、西側諸国の焦りはよく理解できます。しかしマルタ会談以降、ロシアは正に権益を失い続け、彼らからみればソ連時代とは比較にならないほど、自らが西側の軍事力の前にさらされていると思っているはずです。
こうした視点に立って、ウクライナ問題をみるとき、プーチンの政治力以上に、ロシア国内にあるソ連時代へのノスタルジックなナショナリズムが、プーチンを後押ししている現状がよくわかります。
今度は、NATO の靴をはいてみましょう。すると二つの危機がみえてきます。
一つが、ウクライナ問題でのロシアの強攻策。そしてもう一つは西欧社会に露骨にチャレンジしてくるシリアとイラクでの ISIS の勃興です。
The combination of crises — one on NATO’s borders with a resurgent Russia and the other involving a possible new terrorism threat from radical Islam — represents the first major challenge to NATO in a quarter of a century.(危機のコンビネーション。一つは NATO に接するロシアの復活。そしてもう一つはイスラム過激派組織からくる新たなテロの脅威。これらは NATO がこの四半世紀で経験したことのない重大な脅威なのだ)と同紙も解説しています。
つまり、ロシアとアメリカ、そして NATO は、双方とも自らの抱く焦りに押され、ウクライナの地で相撲をとっていることになります。今回締結された、ウクライナと新ロシア派の停戦も、実は妥協による合意ではなく、この相撲の膠着状態が産み出した停戦といっても過言ではないのです。
From Yalta to Malta という言葉があります。それは、第二次世界大戦後の世界の秩序を話し合ったヤルタ会談と、それによってできあがった冷戦が終結したマルタ会談との間を一つの時代として括る表現です。
そしてマルタ会談以降を我々はポスト冷戦と呼んでいます。クリントン政権期のアメリカの繁栄の一方で、ソ連崩壊による旧ソ連域内やその周辺国におきた混乱。それに加えて中東問題の混迷に象徴されるテロの台頭。こうしたマルタ以降のポスト冷戦の世界が、さらに一皮むけてロシアの復活、中国の伸長などによる新しい秩序への模索期にはいりつつあること、つまり既に我々はポスト冷戦期を離脱しつつあることを意識して現代の国際政治を見詰めると、このように色々なことがあぶり出されてくるのです。
その秩序が、安定したものか、さらに不安定は混乱への幕開けなのか。
ウクライナ問題、中東問題だけではありません。我々極東での隣国同士の緊張も加えた様々な不安定要因は、こうした「ポスト冷戦」以降の新たな秩序へのうねりに翻弄される結果発症している現象であるという点で、見事に一致しています。
これからは、今まで以上に、地域での混乱を各論としてではなく、世界の変化に共通した現象であるという視点で捉えてゆかなければならないのです。