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「見えない罠」の国・日本のコロナ対策が意味するもの

Japan had conducted 188 PCR tests per 100,000 people, compared with 3,159 in Italy and 3,044 in Germany, data from a panel of experts advising the government on coronavirus responses showed on Monday. Critics say the low rate of testing in Japan has made it difficult to trace the virus as it spread in major cities…

(10万人あたり、イタリアは3159人、ドイツは3044人と比較して、日本は188人のPCR検査を行っているにすぎないと政府のアドバイザーが示した。この低い値では、日本は主要都市でどれだけウイルスが拡散しているか把握するのは困難だと批評家たちは指摘する。)
― New York Times より

多様化した社会に求められる「グローバルリーダーシップ」

 地球環境がコロナウイルスのせいで皮肉にも改善されているといわれています。
 飛行機の稼働率が9割減など、大気汚染の原因の多くが休眠状態だからに他なりません。ある人などは、地球にとっては人類こそがウイルスで、地球はその掃除のためにコロナのようなパンデミック、そして天変地異を時折起こしているといいます。世界各地の知人へインタビューをしたときも、ヨーロッパなどを中心に同様のコメントが多く寄せられました。
 
 人類が今のように地球環境の脅威になったのは、人々が密に連絡を取り合える現代になってからのことです。
 そして、この密に交流する現代社会を恐怖に陥れたのが今回のパンデミックなのです。であればこそ、コロナ対策においては世界の連携が特に叫ばれています。
 このときに必要な概念が、「グローバルリーダーシップ」という考え方です。
 それは、多様化しながら交流が密になる世界でビジネスをする場合、どのようなマネジメントが必要かというテーマをベースにした、リーダーシップの取り方を意味する言葉です。
 
 実は、人類は文明をもったときにすでに多様化していました。何万年もかけて世界に拡散した人類は、それぞれの居住地で独自の文化をつくり、個々がユニークな文化、文明をもっていたのです。ただ、例えば17世紀ごろまで中国と西欧とを行き来するのに数年の年月が必要だったように、密接して取引をしたり打ち合わせをしたりする機会がなかったために、現在になるまで多様化というテーマを意識できなかっただけのことです。
 

アメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアは手を取り合えるのか

 コロナウイルスの惨禍で、多様化の最も大きな受け皿であったアメリカとヨーロッパとが壊滅的な打撃を受けています。そして、もう一つの経済のコアであるアジア圏も人の行き来が途絶えました。
 そして、このアメリカ、ヨーロッパ、アジアの3極の行き来が途絶えた中でのリーダーシップの取り方が、今問われています。
 
 まずはアメリカです。元々アメリカはヨーロッパからの移民によってつくられた国家だと思われがちですが、それはすでに250年近く前のことです。その後、アメリカは世界で最も混沌とした人種のるつぼと化し、その混合したエネルギーで発展を遂げました。その傾向は戦後のヨーロッパにも逆輸出されます。今では、3極の一つであるアジア圏の多くのプレーヤーだけが、多様性の受け入れに躊躇し、試行錯誤の中でどのように門戸を開こうかと戸惑っています。
 もちろん、マレーシアインドなどのように、多民族が混ざった国家は存在します。しかし、それは国家というアイデンティティをつくったときに、国内の部族、民族として固定されており、海外からの移民の流入に対する国家の壁は決して低くはありません。
 
 今、こうした状況の中で、コロナが蔓延し、世界が協力してそれに対応しなければならなくなりました。つまり3極がしっかりと手を取り合わなければならないのです。
 であればこそ、知っておきたいことは、欧米で編み出されているグローバルリーダーシップのスキルが、往々にして多様化の進まない日本を含むアジアでの異文化に向けて対処するようにデザインされているという事実です。
 
 それは、我々がごく当たり前だと思って行動していることが、欧米の人々にとっては理不尽であったり、不可解であったりするケースが多いからです。
 中国の場合は、国家体制が他とあまりにも異なるため、欧米の人々も中国と仕事をする前には様々な心の準備をすることができます。
 しかし、日本の場合、表面的には欧米と同じ法治国家であり、民主主義国家であるために、その背景に隠れる社会の思わぬ落とし穴に彼らが気付かないケースが多いのです。それが、日本が「異文化の罠」のある国家の典型としてよく引き合いに出される理由です。
 

「見えない罠」を外して、日本がアジアの担い手となるには

 こうした今までのイメージを払拭し、3極の重要な担い手として、コロナ対応というテコを使ってグローバルリーダーシップを日本が明確に打ち出すにはどのようにすればよいのでしょうか。
 まず、多様化の進んでいる国では、全ての人に理解できるようにメッセージは明快に伝達しようとします。数字と、それに支えられたロジックはそのための最強のツールです。反面、多様化の進んでいない日本などの国では、メッセージの伝え方がきわめて曖昧です。コロナの感染情報にしても同様です。検査をせず、検査ができない理由も明快にせず、表面に現れた感染者数の数字だけを強調しても、国際社会では日本がウイルス対策で明快なリーダーシップを取っているとは見なされないはずです。
 
 このリスクは、「見えない罠」のある日本のイメージをさらに裏付けることにつながります。そして、海外が経済活動を再開したとき、日本からの出入国だけが認められないという大失態にもつながりかねません。
 ですから今、日本はより感染率に対して透明な情報を公開するために、PCR検査や抗体検査などを基に、感染に対するあらゆる情報を整理し、その上で対応策を国際的に公表してゆく必要があるのです。
 
 多様化が進む世界と、人類が環境汚染の原因となっている状況とは、コインの表と裏ともいえる、我々に突きつけられている現実です。コロナウイルスの蔓延は、そうした複雑な人間社会に様々な課題を問いかけました。
 日本が自らの独りよがりなアプローチに固執して対応が後手後手にならないよう、3極の一つとしてしっかりとグローバルリーダーシップが取れるように願いたいものです。
 

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『日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)

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